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6月16日(水)

電車が三枝谷駅に近付き、秀人は電車の中から駅のホームを見ていた。

「……いねえな」

ホームに春奈の姿がなく、秀人は首を傾げる。

先に行ったのだろうとも考えたが、秀人は結局、電車を降りて、春奈を待つ事にした。

そのまま、次の電車も見送り、結局次に来る電車は遅刻を多くしていた時に乗っていた電車になる。

「俺、何やってんだか……」

その時、春奈がホームに入って来た。

「春奈!」

秀人が呼ぶと、春奈は肩で息をしながら、近付いてきた。

「おはよう……大丈夫か?」

「おはようございます」

「今日は遅いんだな」

「はい、寝坊してしまいまして……」

「まあ、休みボケみたいなもんか」

「秀人君、どうしたんですか?何でここにいるんですか?」

「ああ、えっと……」

待っていたと言うのもバカらしいため、秀人は言い訳を考える。

「……幽霊がいたんだ」

「え?」

「うちの高校の制服を来た女子生徒の幽霊だ。入学前、事故に遭って……」

「秀人君、それ……嘘ですよね?」

「お前、幽霊とか信じねえのか?」

「いえ、信じていますよ。時々、クロが誰もいない方に向かって鳴いている様子を見て、何かいるのかと怖くなる時がありますから……」

「だったら……」

「でも、秀人君が今言った事は信じられません」

「友達だろ?信じろよ」

「それとこれは別問題です」

「まあ、現に嘘だしな」

秀人はそこで春奈の方を見る。

「お前の事、待ってたんだよ」

「え!?」

「俺、お前の笑顔を見ると、今日1日頑張れるって……」

春奈の顔が真っ赤だったため、秀人はそこで止める。

「お前、こういうのは信じるんだな」

「え、それも嘘ですか!?」

「信じる信じないは……」

「もう真似しないで下さい!」

春奈の慌てた様子を見て、秀人は笑う。

「そうだ、小説ありがとな。あと、これはミステリー小説だから……」

「あ、私も持って来ました」

2人はまた小説を交換する。

その時、電車が来たため、2人は乗った。

「今日も走りますか?」

「いや、今日は遅刻していく」

「ごめんなさい、私が遅れてしまって……」

「お前、ホントに俺が待ってたと思ってるのか?」

「はい……だって、秀人君は優しいですから」

春奈の言葉に、秀人は恥ずかしくなってしまった。

「何言ってんだよ……。というか、お前、弁当多くねえか?」

「あ、その……癖で多く作ってしまったんですけど、秀人君、今日は友達と食べますよね?」

「ああ、まあ、和孝と……あと、最近は遠野とも一緒に食ってるよ」

「私、今日は1人で食べますよ」

「その量を1人で食うのか?」

「残しても、帰ってから食べますから」

春奈が意地を張っているように見え、秀人はまた笑った。


午前中の授業を終えると、秀人は席を立とうとした和孝を捕まえる。

「和孝君、一緒にお昼食べましょうよ」

「妙な敬語使わないでよ」

「及川?」

いつも通り、秀人は夢から昼食に誘われた。

「今日、和孝も一緒で良いか?」

「ああ、構わない」

「いや、俺はやっぱり1人で食べるよ……」

「何言ってるんだよ。親友だろ?」

「こんな時だけ、そう言うのずるくない?」

秀人は和孝と夢と一緒に屋上に行こうとしたが、足を止めると少しだけ考え込む。

「悪い、先に行っててくれ」

「秀人、逃げる気!?」

「違うよ。すぐ行くから、先に屋上行ってろ」

秀人は2人を先に行かせ、3年A組の教室に入る。

「おい、春奈」

「え!?」

周りの生徒が注目してきたが、秀人は無視した。

「まだ弁当食ってねえようだな」

「これから食べようと思っていました」

「それ、1人じゃ食い切れねえだろ?」

秀人は春奈の弁当を手に取る。

「ちょっと来い」

「え、待って下さい!」

秀人について行く形で、春奈は教室を出る。

そのまま、秀人は春奈を連れて屋上に行った。

和孝と夢は秀人を待っていたため、まだ昼食を開始していないようだ。

「秀人、何やってたの?」

「友達を連れて来たんだよ」

秀人は春奈を前に出す。

「秀人君?」

「ほら、昨日言った台詞」

「え?」

「2人共、俺の友達だし、練習だと思えよ」

和孝と夢は突然やって来た春奈を驚いた様子で見ている。

「えっと……」

春奈は目を閉じると、深呼吸をする。

「私は3年A組の立石春奈です。もし良かったら、友達になってくれませんか?」

それから、しばらくの間、沈黙が走る。

「……無視されました」

「いや、考えてるだけだって!」

秀人は慌てて、フォローする。

「秀人、どういう事?」

「今、春奈が言った通りだよ」

「え?」

「お前らが思ってる春奈の印象、実際と全然違うんだよ。一緒にいれば、本当の春奈ってのがお前らもわかると思うし……」

秀人は言葉に詰まると、首を傾げる。

「というか、俺、何やってんだか……ああ、とにかく春奈が友達になってくれって言ったんだから、返事してやれよ」

和孝と夢は少しだけ考えた後、顔を見合わせて笑った。

「これが秀人なりの仲直りなのかな?」

「別に、俺は関係ねえよ。で、どうなんだよ?」

「……俺、3年C組の久保和孝。俺と友達になって下さい」

「同じく、3年C組の遠野だ」

「名前は夢ちゃんって言って……」

「遠野、名前で呼ばれるの嫌いなんだ。名前を呼ぶと、ああなるから気を付けろ」

秀人は倒れている和孝を指差す。

「女相手に殴ったりしない。でも……名前、嫌いなんだ」

夢は春奈の目を見る。

「クラスが一緒の時になるべきだったと思うが……私も友達になろう」

「良いんでしょうか?」

「というか、秀人の友達は俺の友達って感じだし」

「それ、お前の勘違いだからな」

「ここは合わせる所じゃないですかね!?」

秀人と和孝のやり取りを見て、春奈は笑う。

「これで、友達が2人出来ただろ?」

「はい、嬉しいです」

春奈の笑顔を見て、秀人も笑った。

「あ、そうだ。こいつ弁当多く作って来たらしい。1人じゃ食い切れねえみたいだし、みんなで食わねえか?」

「え?」

「春奈もそれで良いだろ?」

「はい、私は良いですけど、皆さんは……」

「私は賛成だ」

「俺も賛成だからね」

「てことで、決まりだな」

秀人は近くに座る。

「ほら、座れよ」

「はい!」

春奈達も座ると、順番に弁当を並べた。


「それじゃあ、頂きます」

和孝は春奈の弁当からおかずを取り、口に運ぶ。

「美味い!」

「本当ですか?」

「立石、私も、もらって良いか?」

「はい、もちろんです。遠野さんのお弁当も頂きますね」

夢も春奈の弁当を食べ、驚いた様子を見せる。

「羨ましいな。私は料理が苦手なんだ」

「そんな事ないと思いますけど?」

「この弁当は惣菜や冷凍食品ばかりだ。立石は全て手作りだろ?」

「でも、遠野さんのお弁当、見栄えがとても良いです。私も参考にさせてもらいます」

和孝や夢と普通に話をしている春奈を見ながら、秀人は笑顔でいた。

「あ、春奈ちゃん?」

「はい?」

「その……秀人の件、俺が原因なんだよね。罰ゲーム決めたのも俺だし……」

「もう良いですよ。それに、そのおかげでこうして友達が出来ました」

春奈は嬉しそうに笑顔を見せる。

「でも、これで俺の流した噂通りになったね」

「え?」

「秀人と春奈ちゃん、仲は良いけど、付き合ってるわけじゃないって噂」

和孝が着々とその噂を広めた結果、今では秀人と春奈が付き合っていると噂している者は少なくなっている。

「及川と立石が仲直りしてくれて、私も良かったと思ってる」

「でも、秀人も、らしくない事するんだね」

「何がだよ?」

「こんな人助けみたいな事してさ」

「そんな事ないですよ。秀人君、優しいですから、困った人がいれば助けてくれます」

「え?」

春奈の言葉に和孝と夢は意外といった表情を見せる。

「これが普通の反応だからな」

「どういう事でしょうか?」

「俺が優しいなんて思ってるの、お前ぐらいだって事だよ」

「え……?」

春奈は少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。

「秀人君も周りから誤解されているんですね」

「おいおい、お前と一緒にするなよ。俺の場合はお前だけが誤解してるんだからな?」

「私、誤解なんてしてません。秀人君、優しいです」

「だから!」

「はいはい、ストップストップ!」

和孝は両手を上げる。

「この際、どっちでも良いじゃない」

「良くねえよ。こいつ、俺の事、誤解したままじゃねえか」

「誤解なんてしてません!」

秀人と春奈は一向に言い争いをやめない。

「夢ちゃん、どうする?」

「名前で呼ぶな」

夢は和孝を殴った後、不機嫌な表情で弁当を食べた。

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