明日へつなぐ宴①
最後の決戦を前に、英気を養う宴がはじまる。
ロキに導かれて向かうのは、集落に正面から入ってすぐにある大きな広場で、そこには既に多くの人たちが集まっていた。
広場のあちこちに食欲をそそる匂いを漂わせている大きな鍋に、酒が入っていると思われる巨大な水瓶が置かれていた。
そして……、
「お、おにーちゃん、あれ……」
興奮を抑えきれない様子のミーファが俺の肩を叩きながら、震える手で広場の中央を指差す。
そこには真ん中にはまるで某ゲームを思わせる巨大な肉の塊が、焚き火の上でぐるぐると回っていた。
「にくだよ! しかも、わいばーんのおにく」
「みたいだね。本当に全ての材料を使ってるのかもな……」
俺が唖然としている間にも、次々と肉の塊と水瓶が並べられていく。
働いているのは集落のエルフたちはもちろん、カナート王国から逃げて来た獣人たちの姿も見える。
殆どの人が顔に疲れの色が見え、怪我をしている人もいたが、これが最後の宴と割り切っているのか、誰もが笑顔で料理を作り、食べ、楽しそうに笑っていた。
「おにーちゃん、ミーファにおにくたべたい!」
「ああ、そうだな」
今にも口から溢れ出しそうなミーファをどうにか止めながら、俺はモス君とルルちゃんと手を繋いでいる泰三に話しかける。
「泰三、ワイバーンの肉は食べたことあるか?」
「い、いえ、ここに来るまでに何度か見たことはありますが、戦闘は避けていましたから」
「……だよな」
地上を這いずり回るしかない俺たちにとって、隠れる場所のない砂漠で縦横無尽に飛び回る肉食のワイバーンという存在は脅威でしかない。
「だったら期待していいぞ。ワイバーン肉、めちゃくちゃ美味いから」
「そ、そうなんですね……意外です」
「というわけで、まずは真ん中に行って肉を貰いに行こう」
「わかりました。君たちもいいかな?」
「はい、お任せします」
「私もワイバーンのお肉を食べるのは初めてなので楽しみです」
子供たちから了承をもらった俺たちは頷き合うと、既に肉をもらいに行っているロキたちの後へと続く。
「やべぇ、これめちゃくちゃうめぇ!」
広場の中央では、ロキの背中に乗って一足先にワイバーンの肉をもらったバド君が丸い耳をピコピコ、短い尻尾が千切れそうなほどブンブン振りながら、皿いっぱいに盛られた肉を持ってくる。
「兄ちゃん、俺、こんなに美味い肉初めて食べたよ。早くみんなで食おうぜ」
「ああ、そうだね」
全員分の肉を持ってきてくれたバド君に感謝しながら、俺は何処か腰を落ち着けられる場所はないかと探す。
すると、
「コーイチ、こちらですわ」
「よろしかったら、ご一緒しませんか?」
声のした方へと目を向けると、天幕の下で何処かの家から持って来たと思われるテーブルセットで優雅にくつろぐフィーロ様とフリージア様がいた。
エルフと獣人のロイヤルな立場の二人からの誘いを断れるはずがなく、俺は油で口がベタベタになっているミーファの口を拭きながら天幕へと向かう。
「よかった。お二人共元気そうで何よりです」
「それはこっちのセリフですわ」
「そうです。コーイチ様が城に隠れていた混沌なる者の眷属を一人、そしてハバル大臣を倒したと聞きました」
フリージア様は椅子から立ち上がらうと、俺に向かって深々と頭を下げる。
「父の無念を晴らしていただきありがとうございます。コーイチ様にはいくら感謝しても、しきれません」
「フリージア様……」
俺はワイバーンの肉にかぶり付いているミーファを椅子に座らせると、フリージア様の前まで行って彼女の手を取って顔を上げさせる。
「まだ終わりじゃありません。あいつを……レオンを救ってやらないと」
「お兄様を……」
顔を上げたフリージア様は、顔を上げてカナート王国の方へと目を向ける。
天幕があるので、当然ながらここからあの赤い竜巻が見えるわけではないが、それでもフリージア様は彼方を見ながら静かに口を開く。
「お任せしてもいいんですか?」
「はい、色々ありましたがレオンはこの世界で出来た親友です。あいつを世界を滅ぼした悪者にはさせませんよ」
「……お願いいたします」
フリージア様は繋がれた俺の手を自分の額に当てると、震える声で話す。
「どうか……どうかお兄様を……この国をお救い下さい」
「はい、お任せください」
フリージア様の願いに、俺はしかと頷いてみせる。
混沌なる者の分体を倒す方法なんて全く思い付かないが、ここで頷かなきゃ男じゃないだろう。
一連の事件で最も心痛めているであろうフリージア様を、何としても笑顔にしたいと思った。
「はいはい、しんみりするのはそこまでですわ」
思わず暗くなった雰囲気を壊すように、フィーロ様が殊更明るい声を出して俺とフリージア様の間に割って入って来る。
「お気持ちはわかりますが、今日は明日のために全てを忘れて、楽しみ、疲れを癒すためにこの場を設けましたの。だからお二人共、ひとまず酒を入れておバカになりなさいな」
そう言ってフィーロ様は、俺たちにワインが入ったグラスを差し出してくる。
「フィーロ様……わかりました」
「そ、そうでしたね。申し訳ございません」
俺たちは苦笑しながらフィーロ様が差し出してきたグラスを受け取って中身を飲む。
旅路でよく飲んだ水で薄めたのとは違う、しっかりした果実の味と芳醇な香りがするワインは疲れた体にとてもよく染みた。




