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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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鍵を握る少女

 世界が真っ白になったのは一瞬、すぐに視界が晴れて景色が一変する。


「こ、浩一君、ここは?」

「落ち着け泰三、大丈夫だ」


 反射的に臨戦態勢を取ろうとする泰三を手で押さえながら、俺はゆっくりと周囲を見渡す。


 一面が木々に囲まれた暗い森から、全方位を木々に囲まれた謎の空間……これだけなら自分のいる場所に不安を覚えるが、フワフワと浮かぶ光の玉を見て俺はここが何処かを理解する。


「ここはエルフの集落にある世界樹の中だ」

「世界樹……って、あの?」

「そう、あの世界樹だ」


 泰三が言う『あの』とはゲームとかでよく見るという意味だが、総じて間違っていないので頷いておく。


「へぇ、ここが……」

「見学は自由にしていいと思うけど、あまり遠くに行くなよ」

「わかってます。ちゃんと戻って来られる範囲にしておきますよ」


 興味深そうに周囲に目を走らせる泰三を横目に、俺もここまで一瞬で運んでくれた功労者を探す。



「ソラは……っと」


 すると背中に温かいものがぶつかってきて、俺は安心させるようにお腹に回された手を優しく取る。


「ソラ、ありがとう」

「いえ、コーイチさんも無事でよかったです」


 背中に抱き付いてきたソラは、そのまま俺の背中に顔を埋める。

 ソラの温かい体温を感じながら、俺は触れている彼女の手を優しく撫でながら、励ますように話しかける。


「心配かけたけど、もう大丈夫だから」

「はい」

「最良の結果とはいえなかったけど、まだ何も諦めないから」

「はい」

「俺が無事に帰って来られたのも、ソラのお蔭だから」

「はい」

「皆は大丈夫? ミーファとか泣いていない?」

「泣いてます。城の方から炎が上がってからはそれはもう」

「そっか……」


 こうなると一刻も早くミーファに会うべきだろう。

 ミーファの世話をしてくれているうどんたちも、大きくなって力も強くなった彼女をなだめるのに苦労しているだろうし、俺も早く会いたい。


 シドもぐっすり眠ったままだし、彼女を支える俺の手もそろそろ限界に近いので、集落の中で間借りしている家に行きたいのだが、


「……ソラ、そろそろ」

「はい」


 背中から頷く声は聞こえるが、ソラは背中に張り付いたまま動いてくれない。


「あ、あの……ソラさん?」

「はい」

「そろそろ立ち上がりたいんだけど……いいかな?」

「あっ、そうですね。すみません」


 そう言って謝罪の言葉を口にするが、ソラはやっぱり動かない。


「……ソラ?」


 流石に何かがおかしいと思った俺は、シドを膝の上に移動させて上半身を捻ってソラの様子を見る。


「ソラ!?」


 そこで俺は、ソラの様子が明らかにおかしいことに気付く。


 背中から引き剥がして、そのまま倒れて来たソラを受け止めると、彼女は顔を赤くさせて荒い呼吸を繰り返している。

 背中に張り付いている時から体温が随分と高いと思ったが、額に手を当てると、まるで風邪でもひいたかのように熱い。


 まさか本当に風邪をひいたとは思えないが、まるで一年前の虚弱だった頃に戻ったみたいで、俺は不安になってソラに話しかける。


「ソラ、大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。ちょっと、力を使い過ぎました」

「力を……」


 それは俺たちをここに召喚するために使った力ということだ。


 他にも俺の回復のために、カナート王城にまでやって来たこともあったし、ソラは俺たちの知らないところでかなり無茶をしていたようだ。


 それでいて最後の最後に俺たちを世界樹まで運んでくれたのだから、ソラには感謝しかない。


 俺はソラをシドが寝ているとは反対側の膝の上に頭を乗せると、優しく頭を撫でて話しかける。


「ソラ、ありがとう。後は俺に任せて休んでいいよ」

「で、ですが……」


 反射的に否定の言葉を口にするソラであったが、俺のアニマルテイム込みの撫での技術には逆らえないのか、瞼が徐々に落ちてくる。


「大丈夫、安心して俺に任せて」

「です……が……」

「疲れただろう? 今はゆっくりとお休み……」

「あっ…………は…………い」


 さらに優しく頭を撫で続けていると、ソラの瞼が完全に閉じる。



 やがてソラからも穏やかな寝息が聞こえて来たところで、俺は肩で大きく嘆息する。


「召喚魔法……思ったより消費が激しいんだな」

「違いますよ」

「えっ?」


 思わず漏れた呟きに返事があることに驚きながら、俺は顔を上げて声のした方へ目を向ける。


「フフフ、二人の女性に囲まれてコーイチは果報者ですね」

「ちょっ!? ラピス様、やめて下さいよ」


 俺が焦った様子を見せると、フィーロ様の母親であり、エルフをまとめるラピス様は口元を押さえてコロコロと笑う。


 まだ幼く、あどけなさの残るフィーロ様とは違い、大人の魅力も兼ね備えたラピス様は、エルフ特有の美貌も相まって笑顔を向けられるだけでドキドキする。


 そんな心の動揺をできるだけ悟られないように必死に感情を抑制しながら、俺は先程のラピス様の言葉の意味を問う。


「ラピス様、ソラは召喚魔法を使って疲弊したのではないのですか?」

「そうですね。ただ、召喚魔法による消費はそこまででもないようです」

「どういうことですか?」

「実はですね……」


 ラピス様は人差し指を立てると、ソラの活躍について教えてくれる。


 俺たちが砂漠で魔物たちと戦っている間も魔法の修行を続けていたソラは、かなりの精度で召喚魔法を操れるようになり、俺だけじゃなくうどんやロキ、他にも親しくなったエルフたちも呼び寄せることができるようになったという。


「カナート王国が陥落したと聞いた時、ソラは避難してきた人たちを避難させるために幾度となく魔法を使いました。お蔭で多くの非戦闘員や怪我人が短時間で避難できたのです」

「そう……だったんですね」


 どれだけソラが魔法を使ったのかわからないが、カナート王国に残っていた全員を避難させたとなると、消費はかなりのものだっただろう。


 果たして一度に召喚できる人数に上限があるのか、何処まで遠くの人を呼び寄せることができるのか。


 召喚の定義等々、調べることは多そうだがこれだけは一つ言える。


「ソラの力が、今度の戦いの鍵になるかもしれませんね」

「ええ、私もそう思います」


 ラピス様が頷くのを見ながら、俺は静かに眠るソラの乱れた前髪を手櫛で治してやる。


 ソラの力があれば……、


 混沌なる者と戦う作戦についてあれこれ考えていると、


「……とまあ、それはそれとして」


 ラピス様がパン、と手を叩いて殊更明るい声を出す。


「コーイチ、あなた。怪我していますね?」

「…………えっ?」


 歌うように告げられた一言に、俺は自分の笑顔が凍り付くのを自覚する。

 グギギ、とゆっくり顔を上げると、ニッコリと笑ったラピス様と目が合う。


「ソラたちはこちらで運んでおきますから、あなたは治療を受けていらっしゃい」

「えっ、で、ですが……」

「大丈夫です。お友達は既にラヴァンダによって治療を受けているはずですから」


 ラピス様がそう告げると同時に、遠くの方から泰三の今まで聞いたことがないような悲鳴が聞こえて来た。

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