泣くのは恥でもなく
「騎士様、こちらです!」
泰三と合流して程なくして、俺たちの前にエルフたちが現れる。
「ここまで来て下さい。ここなら安全ですから」
大きく手を振るエルフの女性を見た俺たちは、最後の力を振り絞って彼女の脇まで一気に駆け抜ける。
「はぁ……はぁ……つ、着いた」
「もう流石に……限界です」
「全くだ……」
流石に戦場で倒れ込むような真似はしないが、俺たちは膝に手を付いて肩で荒い呼吸を繰り返して必死に酸素を求める。
「……あれ?」
息も絶え絶えといった様子の出俺たち三人の姿を見たエルフの女性は、誰かを探すようにキョロキョロと首を巡らせる。
「あ、あの、お三人だけですか?」
「……はい」
俺は大きく息を吐いて顔を上げると、不安そうな顔をしているエルフの女性に告げる。
「俺たち三人だけです」
「そう……ですか」
顔を伏せる俺を見て状況を察したのか、エルフの女性は小さく頷く。
「わかりました。それでは侵入者避けの結界を張り直します」
「はい、お願いします」
俺の言葉に頷いたエルフの女性は、近くの木に模様を描いていく。
すると、俺たちがやって来た方の森に光のカーテンのような幕が下りて来る。
幕が完全に下りると、向こう側がフィルターがかかったように見えにくくなる。
どうやら無事に結果を張ることに成功したようだ。
これでエルフの集落と、カナート王国の行き来は再び容易ではなくなる。
とはいえ、果たしてこの結界で、あの混沌なる者の分体である赤い竜巻を防げるのかどうかはわからない。
だが、僅かでも時間を稼ぐことができれば……体力を戻すことができれば、再び立ち上がることができる。
…………できるのだが、
「コーイチ」
立ち尽くす俺に、シドが隣にやって来て話しかけてくる。
「泣いているのか?」
「泣いて……」
そう言われて俺は、自分がいつの間にか泣いていたことに気付く。
「マリルさんのこと……仕方ないと割り切ったつもりだったけど、全然ダメだな」
「ダメじゃないだろう」
シドは手を伸ばして俺の涙を拭うと、自分の唇に持っていて軽く口づけをする。
「人の死に慣れる奴なんていないさ。特に仲間が死んで悲しまない奴なんてどうかしている」
「でも……」
シドは泣いていないじゃないか。と口にしようとしたところで俺は口ごもる。
別に涙を流すことだけが悲しむことじゃない。
シドとマリルさんは同じタイプの人間だったし、生き方や考え方に共感していたところも多かっただろうから、彼女にしてみれば親友に近しい人を亡くしたといっても過言ではない。
それでもシドが泣かないのは、きっと今がその時でないと理解しているからだろう。
もしかしたら、皆が見ていないところで一人静かに泣くかもしれないが、そのような場面に出くわしたら、できるだけ優しく慰めよう。
そんなことを思っていると、シドが俺にもたれかかってくる。
「おっと」
慌ててシドの身体を抱き止めた俺は、早速慰める場面が来たかもしれないと思うが、
「…………シド?」
いつもは羽のように軽い彼女の体がずっしりと容赦なくのしかかってきて慌てて支える。
一体何事かと思っていると、耳元からスヤスヤという寝息が聞こえてくる。
「えっ、寝てる?」
「そのようですね。激戦続きで、流石のシドさんも限界だったようです」
そう言う泰三も限界が来たのか、腰を落として肩で大きく息を吐く。
「これでどれくらい時間を稼げるのでしょうか?」
「わからない。混沌なる者に果たして結界が効くのかどうかもわからない……けど、流石にこれ以上の連戦は無理だ」
「そう……ですね」
寝てしまったシドも含めて俺たちも限界だが、カナート王国から逃げて来た獣人たちもまともに戦うことはできそうにない。
エルフには魔法という超常の力があるが、それだけで解決できるなら苦労はない。
俺たちだけじゃない。獣人とエルフ、全員が力を合わせなければ、この状況を打破することはできないだろう。
とにかくまずはシドを安全な場所に寝かせて、俺たちも回復に努めたい。
「こんな時、フィーロ様がいてくれたらな……」
転移魔法で一気に俺たちをエルフの集落まで運んでくれるのにな。
そんなことを思っていると、
『……さん…………イチ…………さん』
「えっ?」
誰かに名前を呼ばれたような気がして、俺はキョロキョロと首を巡らせる。
だが、近くには寝ているシド以外には泰三しかおらず、エルフたちも結界の様子を確かめていて俺の方を見ていない。
「おかしいな……」
声の主は女性のような気がしたが、俺は念のために泰三に尋ねる。
「泰三、俺のことを呼んだか?」
「……んあ」
声をかけると、半分寝ていた泰三が顔を上げてかぶりを振る。
「い、いえ、呼んでないですけど……どうしたのですか?」
「いや、声がね……」
聞こえたんだと説明しようとすると、
『イチさん……コーイチさん、聞こえますか?』
「――っ!?」
今度はハッキリとした声が聞こえ、俺は顔を上げて声の主に話しかける。
「ソラ、ソラなのか?」
『はい、ソラです。ああ、よかった。ちゃんと届いだ』
脳内に直接語りかけてくるような声に、俺は幻聴でなかったことに安堵して泰三に話しかける。
「どうやらソラが話しかけて来たようだ」
「ソラさんが?」
「ああ、そうだ。ソラにお願いしてみよう」
妙案を思いついた俺は、ソラに向かって話しかける。
「ソラ、俺たちを召喚魔法で呼びよせることはできるか?」
『はい、できます。お声がけしたのもそのためです』
「そうか、助かる」
渡りに船とはこのことだと、俺はソラの指示に従ってシドの体を抱き寄せ、もう片方の手で泰三で泰三を手を繋ぐ。
「よし、ソラ。やってくれ」
『はい、いきますよ』
ソラの声が聞こえると同時に目の前に青白い光が現れ、俺の視界が一瞬のうちに白一色へと塗り替えられた。
いつも本作をお読みいただきありがとうございます。柏木サトシです。
二カ月ほど週一連載とさせていただいていましたが、これからは不定期更新、最低でも週二以上のペースで更新させていただければと思っております。
第二部もクライマックス、今年中には大ボスとの決着をつけて最終、第三部へと繋げていければと思っています。
やりたいことを全部やるつもりでこれからも精進してまいりますので、よかったらこれからも応援よろしくお願いします。




