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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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いにしえの作戦

 迫りくる異形を見た俺は、手を繋いでいるシドに向かって叫ぶ。


「シド!」

「わかってる! 今はとにかく前へ」


 特に会話を交わさずとも、このままでは追いつかれることを確認し合う。


 足の数が速度に関係しているとは思えないが、それでも足の数が多いお蔭か、異形はどんな悪路でも速度を落とさずに突っ込んでくる。

 さらにどんな障害物をものともせず突っ込んで来るので、逆に道を切り拓きながら進む俺たちの方が圧倒的に不利になっていた。


「はぁ……はぁ……クソッ、どうすれば……」


 体調が万全でないことに加え、本来なら有利に働くはずの無数の遮蔽物が足枷になってしまっている。


 こうなったら腹を括って、異形を迎え撃つことも考えるべきかもしれない。


 未知の魔物……しかも生きているかどうかわからない奴を相手に、まともな戦闘ができるのだろうか?

 手や足を切り落としても、痛みも感じることなく突撃され、直撃してしまったら後は一方的に蹂躙されてしまうだろう。


 初見においてはほぼ無敵を誇っていた目潰し攻撃が異形に効かなかったことで、気持ちの上でどうしても強気に出ることができない。

 シドたちに比べてどうしてもフィジカルで劣る俺の唯一の武器である、道具を使った搦め手での戦法での活路が見出せないでいた。


 すると、


「浩一君、あの先で迎え撃ちましょう」


 先を行く泰三から提案が飛んでくる。


「向こうにちょっとした広場があるみたいです。そこなら槍を思いっきり振るえるので、戦うならそこがいいです」

「……勝算はあるのか?」

「あります。僕と浩一君の力があれば、勝てるはずです」


 ということは、自由騎士のスキルを使って戦うこと前提ということだ。


 生憎と泰三のような作戦は思い付いていないが、妙案が思い付いたのならそれに賭けてみたい。


 俺はシドに目で訴えて了承を得ると、泰三に向かって叫ぶ。


「わかった。具体的な作戦は?」

「いつもので……ってわかりますか?」

「大丈夫、把握した」


 具体的な指示は何もないが、それだけで泰三が何を言うかを理解した俺は、シドに向かって話しかける。


「シド、少しだけでいいから奴の注意を俺から逸らせるか?」

「少しでいいのか?」

「大丈夫、奴の気を惹いたらすぐに安全な場所に退避して」

「わかった。任せろ」


 シドは俺と繋いでいた手を離すと、地を強く蹴って一気に前へ出る。


 凹凸の激しい地面を避けるために木の上に登ったシドは、まるで猿のように器用に枝を伝ってさらに前へ進む。


 そのまま十メートルほど進んだシドは、一本の太い枝の上に乗って振り返る。


「コーイチ!」


 俺の名前を呼んで足を振り上げた俺は、シドが何をするのか理解して頷く。


「死ぬ気で走れよ!」


 シドが掛け声と同時に足を振り下ろすと、バキバキと破砕音と共に枝が真っ二つに折れて落下する。


「クッ……」


 一瞬、蹴るの早くない? と思ったが、シドがそんな初歩的なミスをするはずがない。

 それはつまり、俺が死ぬ気で走ればギリギリ落ちてくる枝の下を潜り抜けられるはずだ。


 足は鉛のように重く、正直なところ手を上げるのもかなり辛いが、シドの信頼を裏切るわけにはいかない。


「こんのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!」


 雄叫びを上げながら必死に足を動かし、俺はどうにかすんでのところで枝を潜ることに成功する。

 同時に、すぐ後ろで枝が落下し、大きな音と共に盛大に土砂が舞い上がる。


 後ろを振り返って確認する余裕はないが、これで異形の視界から外れることができたと信じながら、俺は横に大きく跳んで近くの茂みへと伏せる。


「はぁ……はぁ…………」


 降って来る土砂を頭から被りながら、俺は口を両手で押さえて可能な限り気配を消す。


 これで俺が逃げるところを見られていたら、間違いなく死ぬな。


 そんな弱気な気持ちを振り払うように強くかぶりを振った俺は、息を殺して周囲の草木と一体になる。


 泰三が言う『いつもの』という作戦は俺がこの世界に来る前、グラディエーター・レジェンズで序盤戦においてもっともよく使った作戦だ。

 まだスキルが弱く、取れる作戦が多くない中で雄二と泰三が敵の注意を惹き付け、俺が背後から襲いかかるというものだ。


 一チーム三人というバトルロイヤルゲームにおいて、自分たちから人数不利を敷くというセオリーとはいえない作戦ではあったが、敢えてその作戦を取って勝ち抜けるだけの連携力はあった。

 現実ではゲームのようにはいくことなどまずないが、そこは互いに上手くカバーすることでどうとでもなるはずだ。


 ……泰三、信じているぞ。


 地面に伏せて願っていると、盛大に音を立てて異形が俺の前を横切っていく。


 ひとまず化物に轢死体にされることはなかったことに安堵しながら、俺はアラウンドサーチを発動させて脳内に広がる赤い光点に注視する。


 準備が整ったのか、泰三は既に動きを止めている。

 もう一つの赤い光点が真っ直ぐ泰三に向かっているの確認した俺は、大きく息を吸って勢いよく立ち上がる。


 すると無数の手が生えた不気味な肉団子が、足をバタバタと動かして泰三に迫るのが見えた。


 泰三がどうやって異形を止めるかはわからないが、バックスタブの条件さえ満たせば後は俺の仕事だ。

 果たして背後まで無数の手が生えている肉団子に背中があるのかどうか不明だが、あの中に黒いシミが浮かぶのを祈るしかない。


 そうしている間に肉団子が泰三へと迫る。


 長槍を背中へと回した泰三は迫りくる肉団子に対し、


「フッ!」


 短く息を吐いて長槍を大きく横に薙ぐ。

 遠心力を乗せた長槍が異形へとぶつかると同時に、


「……えっ?」


 数百キロは優にありそうな巨体が、クルリと回りながら大きく飛ぶのが見えた。

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