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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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混ぜるな危険!?

「グギャッ!」

「グゲッ……」

「ギギャ!」


 緑色の巨人の下半身から発生した触手は、シドに行動不能にさせられたゴブリンたちへ次々と襲いかかる。


「な、何が……」

「見てみろ、コーイチ」


 呆然とする俺に、何かに気付いたシドが尻尾で器用に視線の先を示す。


「あの奥のゴブリン、干からびていくぞ」

「えっ? あっ、本当だ!」


 尻尾で示す先を見ると、ゴブリンがまるで体中の水分が抜き取られるようにしおれ、小さくなっていく。


「アッ……ギッ…………」


 他のゴブリンたちも助けを求めるように手を伸ばすが、触手に刺された緑色の小人は次々としおれていく。


「む、むごい……」

「確かに酷いが、それどころじゃないぞ。化物が……復活しそうだ」

「な、何だって!?」


 シドの唸るような声に緑色の巨人がいた方へと目を向けると、今まさに上半身を失った化物が起き上がろうとしていた。



 ゴブリンを吸収した触手が次々と枝分かれして、まるで編み物を編むかのように複雑に絡まって新しい生物となっていく。


 新しい生物とは、先程まで見た緑色の巨人とはまた違う生物だからだ。


 足は四本、手は……十以上はあると思うが複雑に絡まり過ぎて把握するのも難しい。


「も、もしかして、あのバケモノはああやって生まれたのか?」

「そのようだな……」


 進化しないと言われていたゴブリンの亜種は、もはや魔物と呼んでいいのかわからないほどの醜悪な生き物へと成っていた。


 あれがどんな動きをするのかはわからないが、このままシドに抱きかかえてもらい続けるのは得策ではないだろう。


「……シド、降ろしてくれ。もう自分で走れる」

「わかった」


 いざという時に備えて俺は自分の足で立つと、泰三に手で合図を送る。


 奴が動き出す前に、少しでも距離を稼ごうと。


 泰三が頷くのを確認して、俺たちは一目散に逃げ出した。



「はぁ……はぁ……はぁ……」


 必死に足を動かし続けているが、体力の限界が近いこともあって速度が思ったより出ない。


「はぁ……はぁ……コーイチ、手を!」

「……すまない」


 これ以上足を引っ張るわけにもいかないので、俺は素直にシドの手を取って引っ張ってもらう。


 俺の足取りを知っているので、シドは早過ぎず、遅過ぎずの絶妙なペースで引っ張ってくれる。

 既に奥の手の獣化も行って相当疲れているはずなのに、まだ俺を気遣ってくれるなんてシドは本当にいい女だと思う。


 僅かに残った体力を振り絞った甲斐もあり、森はもうすぐ目と鼻の先まで来た。


 森の中に入ってしまえば遮蔽物も多くなるし、エルフの魔法で魔物だけを排除することもできるだろうから、魔法の効果範囲まで到達できれば俺たちの勝ちだ。



「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!」

「「「――っ!?」」」


 すると背後から地響きのような唸り声が聞こえ、俺たちは揃ってビクリと体を震わせる。

 おそるおそる振り返ると、無数の手足が生えた異形の何かが、二つの赤い目をギョロリと動かしてこちらを見ていた。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!!」

「き、来た!」


 四つん這いになり、無数ある手足を高速で動かして迫る緑色の異形を見た俺たちは、足を必死に動かして全力で逃げる。


 かなりの速度で迫る異形ではあるが、奴が動き出す前に距離を稼いでいたので、どうにか森に飛び込むことができそうだ。


「浩一君!」


 すると先頭を走る泰三が森に差し掛かる直前で声をかけてくる。


「森に入った何処に進めばいいですか?」

「とにかく前っすぐだ。あいつが入って来れなさそうな木と木の間を進もう!」


 一体どれだけのゴブリンを取り込んだのかわからないが、異形のサイズは見たところ三メートルを超えており、狭い通路に逃げ込めば移動は容易ではなさそうだった。


「わかりました」


 頷いた泰三はまだ体力に余裕があるのか、速度を上げて先行してくれる。


 続く俺たちが立ち止まらなくていいように長槍を使って茂みを掻き分け、異形が突っかかりそうな狭い通路を泰三は進む。


 そんな泰三の心意気に感謝しながら、俺たちも速度を落とすことなく後に続く。


 これで異形と少し距離を離すことができればいいが……、


 そう思っていたが、


「ガオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッ!」


 異形の咆哮と共に背後からバキバキと破砕音が聞こえ、さらに大きな何かが倒れる音が聞こえてくる。


「ま、まさか……」


 いくらなんでもそれは、と思いながら俺はちらと背後を振り返る。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアァァ!」

「いいっ!?」


 すると俺の目に、立ち塞がる木を次々なぎ倒し、岩を砕いて狭い道を無理矢理押し広げて突進してくる異形が映った。

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