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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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倒しても!倒しても?

「チッ、やっぱりこういうことかよ」


 手足を斬られ、首を失ったゴブリンたちがのっそり起き上がるのを見た俺は、影から飛び出してナイフを手に背後から忍び寄る。


 空からゴブリンが降って来た時から、こうなる予感はあった。


 少なくともレオン王子が混沌なる者へと変身した時、周囲に魔物はいなかった。

 それが赤い竜巻が大きくなり、動きが遅くなったところで魔物が次々と現れるようになった。


 では、あのゴブリンたちは何処から来たのか?


 新たに砂漠の外から入って来たことは考えにくい。

 そんなに早く戦力の補充ができるのなら、二つの防壁を守り切ることすらできなかったからだ。


 では、あのゴブリンは何処にいたのかというと、カナート王国内に侵入して俺たちに倒された連中だと考えれば色々と辻褄が合う。


 裏でペンターが糸を引いていたのだから、魔物たちがゾンビ化しても何ら不思議ではない。


「あのジジィ……最後の最後まで嫌がらせを」


 俺は足音を殺して前へと進み出ると、起き上がった緑色の巨人の背中を睨む。


 目潰しすら効かなかった緑色の巨人だから、ひょっとして不死かと心配したが、ちゃんと背中に黒いシミが浮かび上がる。

 さらに目を凝らし背中以外に黒いシミがないことを確認して、俺は緑色の巨人の背中に体当たりするようにナイフを突き立てる。


「グガッ!?」


 ナイフを突き立てたところで、俺のあらゆる搦め手に反応を示さなかった緑色の巨人が初めて苦しそうな声を上げる。


「――ッ、ガアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!」


 背中を貫かれても、緑色の巨人は雄叫びを上げながら腕を振るって背後の俺に攻撃を仕掛けてくる。

 だが、こうなることを予期していた俺は、慈善に発動しておいた調停者の瞳(ルーラーズアイ)の力で回避する。


「……チッ」


 止めの一撃を加えられなかったのは口惜しいが、致命傷は与えたはずだ。


 ペンターが生み出したゾンビは、不死ではないし怪我が自然に回復することもない。

 時間はかかっても、緑色の巨人は間もなく死に至る。


 ここにいては起き上がったゴブリンたちに囲まれると判断した俺は、一先ず近くのゴブリンたちに有効だった目潰し攻撃を行いながら、シドたちに合流するために前へと出る。


「シド、泰三、こいつ等揃いも揃ってゾンビ化してる。単にぶちのめしただけだと倒せないぞ!」

「――っ!? わかった!」


 振り返り、倒したはずのゴブリンが起き上がっているのを見たシドは、剣を横薙ぎにして近くの小人たちの足を両断する。


「おらっ!」


 転んだゴブリンの顔を蹴り飛ばしたシドは、次々とゴブリンたちの足を切り落としていく。


「タイゾー、もう一匹のバケモノを!」

「わかってます!」


 シドの攻撃で道が開けたのを確認した泰三は、手を付いて起き上がろうとしている緑色の巨人へと迫る。


「フッ!」


 短く息を吐いた泰三は、槍を下から振り上げるようにして緑色の巨人の左腕を斬り飛ばす。


「はあああああああああぁぁぁっ!!」


 さらに泰三は雄叫びを上げながら振り上げた槍を遠心力を活かすように横薙ぎにする。

 銀色の閃きが緑色の巨人を通り抜けると、謎の魔物の首が飛んで紫色の血が噴水のように噴き出す。


 首を刎ね飛ばされた緑色の巨人は、血の勢いが衰えると並行してゆっくりと背後に倒れていく。


「す、凄い……」


 泰三の鋭すぎる攻撃に、俺は感心するしかない。


 相手の手や足を切り落とす、それがましてやどんな構造をしているか定かではない正体不明の魔物となると、たったの一息で両断まで持っていくのは力は勿論、骨と骨の隙間を正確に狙うだけの技術力が問われる。


 その二つを泰三は難なくやってのけ、さらに万が一を考えて緑色の巨人の足も両断していく。


 ここまでやれば、例えゾンビ化して復活してもまともに身動きが取れないので、俺たちの脅威になることはない。


「…………俺だって」


 二人の活躍を見せられて、黙って見ているつもりは毛頭なかった。



 俺はまだ完全には復活していないゴブリンたちの間を一気に駆け抜けると、残る最後の緑色の巨人の横へと回る。


「コーイチ、合わせろ!」


 俺の意図を察したシドが、


「これで残るはお前だけだぞ!」


 わざと大きな声を出して緑色の巨人へと突撃する。


「ギャギャッ!」


 迫るシドに、緑色の巨人は迎撃しようと構える。

 だが、それは丁度俺に背中を向ける格好になる。


 シド、ナイス!


 俺は心の中で相棒のナイスアシストに感謝しながら、緑色の巨人の背中を睨む。

 今度は右の腰の下部に黒いシミが浮かび上がるのを確認した俺は、そこ目掛けてナイフを突き立てる。


「グギャアアアアァッ!!」

「――っ、まだだ!」


 今度こそは確実に止めを刺すため、黒いシミから肩口にかけて走る黒い線に沿ってナイフを走らせる。


「…………らあっ!」


 最後は飛び上がるようにしてナイフを走らせると、緑色の巨人の上半身が真っ二つに割れる。


「よしっ!」


 バックスタブからの必殺の連携に、今度こそしっかり倒し切ったという確信を持つ俺だったが、


「コーイチ、まだだ!」


 シドが悲鳴のような声を上げながら俺の腰に抱きついて来たかと思うと、割れた緑色の巨人の体の内部から何かが飛び出してくる。

 まるで紐のように細い何かが俺たちに向かって伸びて来たが、危険を察知したシドのお蔭で間一髪で脱出に成功する。


 シドに抱きかかえられた俺は、落ちないように彼女の肩に手を回しながらうねうねと蠢く触手を睨む。


「な、何だ……」

「わからん、だけど……あの不気味なのが出てから臭い感じが強くなった」

「それって戦う前に言っていた……」

「そうだ。てっきりまた虫かと思ったら、違うみたいだな」


 シドほど鼻が利くわけではないので臭いはわからないが、それでもイソギンチャクのような見た目の触手からは、とてつもなく嫌な感じは伝わって来る。


 赤い竜巻も迫って来るし、ここにいるのはマズいような気がする。


 そう判断した俺は、地面に降ろしてもらいながらシドに話しかける。


「シド、逃げよう。何だか嫌な予感がする」

「賛成だ。早く合流して数で対処すべきだ」


 逃げることを決めた俺は、泰三に手振りで作戦を伝得ようとすると、視界の隅で触手が何やら怪しい動きをするのが見える。


「えっ?」


 思わずそちらへ目を向けると、触手がようやく起き上がったゴブリンたちの体を次々と突き刺していくのが見えた。

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