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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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湧き出る魔物たち

「な、何!?」


 丸い物体から産声を上げるように現れたゴブリンは、体に付着した血の様に赤い液体を振り払って緑色の皮膚を露わにすると、ギョロリと目玉を動かしてこちらを見る。


「キシャアアアアアアアアアアアアッ!」

「う、うわあああああぁぁ!」


 両手を上げながら突進してくるゴブリンに、思わず逃げ出しそうになるが、


「コーイチ、落ち着け」


 シドが俺の前に出ると、突進し来たゴブリンを回し蹴りで吹き飛ばす。


「ギゲェッ!?」


 シドに蹴られたゴブリンは、地面を二度、三度とバウンドしながら吹き飛び、背後にあった壁に激突して動かなくなる。



「えっ? あ、あれ?」

「バカ、変な現れ方をしても所詮はゴブリンだよ。落ち着いて対処すればまず負けることはねぇよ」

「そ、そうか……」


 シドに言われて、俺は思わずビビッて変な声を上げたことを恥じる。


 登場の仕方に面喰ってしまったが、確かに言われてみれば所詮は魔物の中では最弱のゴブリンだ。数で押されることがなければ、今の俺なら万に一つも負けることはない。


「ありがとう、シド。もう大丈夫だから次は……」


 次は俺に任せてほしい。

 そう言おうと思った矢先、赤い塊が俺たちの周りに次々と落ちてくる。


 その数は一つ二つなんてものではなく、まるで雨の様に赤い塊が降り注いで来たかと思うと、次々と産声を上げるように叫びながら魔物が現れる。


 しかも魔物はゴブリンだけでなく、オークやリザードマン、果てはトロルなどの大型の魔物まで、つい先日までの激闘で倒した魔物たちが次々と現れる。


「それでコーイチ……」


 魔物たちに気付かれないように身を隠したところで、シドが耳元で囁いてくる。


「次はどうしてくれるんだ?」

「えっ? あっ、と……」


 いつもの意趣返しなのか、意地悪い笑みを浮かべているシドを見て、俺は内心で「可愛い」と思いつつも判断は早く下すべきだと思う。


「囲まれる前に急いで逃げよう。戦闘はなるべくなしの方向で」

「そうだな、道案内は任せるぞ」

「ああ、任せてくれ」


 シドに力強く頷いてみせた俺は、少し離れた場所にいる泰三に手振りでその場に待機するように伝えると、目を閉じてアラウンドサーチを発動させた。




 相手が無機質で何処から飛んでくるかわからない瓦礫ではなく、魔物であれば逃げるのは俺の領分だ。


 壁から手を離し、目を開けてアラウンドサーチを解除した俺は、瓦礫が飛んで来ないかと周囲を警戒してくれているシドと泰三に話しかける。


「右の方向がまだ手薄だ。その先の瓦礫の下を抜けていけば、暫くは安全だ」

「わかった。右だな」


 俺の声を聞いたシドは、暴風吹き荒れる中を恐れることなく矢の様に飛び出していく。


「シドさん、相変わらずですね」


 まだまだ元気いっぱいのシドを見て、泰三は微苦笑しながら嘆息する。


「正直なところ僕は結構足にきています。ディメンションスラストも、後何回使えるか……」

「俺なんかもう、いっぱいいっぱいだよ」


 弱気な発言をする泰三に、俺も似たようなものだと肩を竦めてみせる。


「俺なんか少し寝てきたのにこの体たらくだ。ずっと戦い続けている泰三は本当に凄いよ」

「そんな僕なんてまだ……」


 思わず手を振りながら謙遜する泰三だったが、カナート王国の獣人の戦士たちよりも前に出て戦い続けて来たのに、息一つ乱していないのは驚きしかない。


 だが、まだ戦いは続いている。


 混沌なる者の分体を倒さなければ、カナート王国はもちろん、エルフの森、世界樹、果てはこの世界の崩壊にまで発展しかねない。


 だからこの撤退は、ただの逃げではない。


 次に繋げるための必要な戦略だった。


「コーイチ、何してんだ。早く来い」

「わかってる」


 先に行ったシドからの声に、俺は小さな声で応えて泰三の肩を叩く。


「行こう。エルフの集落まで下がれれば、少しは体力回復できるはずだ」

「ああ、そうだ。エルフ……いるんですよね」


 エルフと聞いて、泰三の目に光が灯る。


「何人か見ましたが、まだ話はできていないんですよね……やはり金髪の人が多いんですか?」

「いや、そんなことはないけど……ただ、エルフの姫のフィーロ様は、ボブカットの金髪に翡翠色の目、緑色のドレスを着ていたぞ」

「本当ですか!? じゃ、じゃあ、弓の腕前も?」

「いや、そこは違ったけどな。でも、集落は美男美女揃いだから、泰三も気が変わるかもしれないぜ」

「それはないですよ。僕は隊長一筋ですから」

「フッ、そうかよ」


 クラベリナさんへの想いは全くブレないんだな。


 好きな人の話をしたからか、少し元気になった様子の泰三に背中を叩いて、俺は手招きしているシドの後に続いて走り出した。




 その後も俺たちは、アラウンドサーチを駆使して敵との接触を避けながらエルフの森を目指す。


 その間、赤い竜巻はカナート王国のあらゆるものを巻き込んでどんどん成長し続けて、今やカナート城よりも大きいのでは? と思う程になった。

 大きくなって質量が増えたからか、移動速度は落ちたような気もするが、真っ当に止める術があるわけではないので対処のしようがない。


 後はスールによる妨害が入るかと思ったが、意外にも奴からは何のアクションも送られてこない。

 相変わらずスールが何を考えているのかわからないが、奴の動向も気にしておきたい。


「…………ふぅ」


 何度かの細かい移動を繰り返し、壁と壁の間の隙間に身を隠した俺は、大きく息を吐いてアラウンドサーチを発動させる。

 カナート城が丸ごと吹き飛んでしまった所為で移動に苦労したが、次の移動でエルフの森の入口まで飛び込めそうなところまで来ていた。


 疲労の所為か頭が重くなってきたので、アラウンドサーチを使うのも次で最後にしたい。

 そう思いながら索敵の波に集中していると、


「……何だこれ?」


 脳内に浮かんだ赤い光点の異常さに、俺は思わず目を開けてシドに尋ねる。


「シド、この先に大勢の人がいるみたいだけど、何か見える」

「わかった。任せろ」


 頷いたシドは、俺が指差した先を見るために一人先行する。


「浩一君、何か気になる反応でも?」

「ああ、森の手前に大量の反応があったんだ」


 まるで道を封鎖するように、横一列に並んだ赤い光点は、明らかに誰かの指図によって仕組まれたものだった。


 もしかしたらエルフの森から誰か救援に来てくれたかもしれない。


 そう思っていると、


「コーイチ、ゴブリンだ」


 先行したシドが戻って来て、苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「この先に大量のゴブリンがいやがる。しかも、何だか見たこともないデカい奴がいたぞ」

「な、何だって!?」


 シドからの報告に、俺は背中に嫌な汗が流れるのを自覚した。

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