生きてるはずないのに……
「ど、どうして?」
突如として戦場に現れたレオン王子に、俺は理解が追いつかないでいた。
だってそうだろう。レオン王子はハバル大臣の裏切りによってその身を喰われ、失意のうちに亡くなったはずだからだ。
あの時は逃げるのに必死で、レオン王子の死体を戦場に置き去りにするしかなかったのだが、まさかあの状況で生きていたのだろうか?
「いや……」
いくらただでさえ回復力が高い獣人で、さらに王族だけが使える獣化を使っていたとしても、流石に心臓を喰われて生きているなんてことはないはずだ。
だが、現実問題として目の前にレオン王子が立っている。
来ている衣服も最後に見た時のままなのに、ハバル大臣に開けられたはずの胸の穴は何処にもない。
胸周りにも血の痕跡も残っていないので、あの時見た光景は実は虚構で、密かに生きていて、俺たちのピンチに助けに来てくれたと言われたら信じてしまいそうだ。
「いや、そんなはずは……」
思わず頭に浮かんだ楽観的な思考を、俺はかぶりを強く振って否定する。
剣と魔法のファンタジー世界へとやって来て二年近くが経つが、いくつもの奇跡を見て来ても一つだけ絶対に変わらないことがある。
それは、一度死んだ者は生き返らないということ。
ゾンビ化という疑似的な生き返りはあったとしても、ゾンビは人が魔物化した姿であって、多くは術者の命令をただ聞くだけの操り人形のようなものだ。
自由騎士のスキルを使うために雄二のような例外はあったとしても、与えられた命は儚く、待っているのは不幸な未来しかないのだ。
「……浩一君、あの人は?」
混乱の極みにいる俺に、事情をよく飲み込んでいない泰三が話しかけてくる。
「何処かで見たような気がするのですが……知ってる人ですか?」
「ああ、あれはレオン。カナート王国の王子で、色々あって仲良くなったんだ」
「そうなんですね。じゃあ、助っ人に来てくれたんですかね?」
「いや、それはない……ないはずなんだ」
希望的観測を口にする泰三に、俺は最も肝心な情報を伝える。
「何故ならレオンは、ハバル大臣に心臓を喰われて死んだはずだからだ」
「えっ? あ、ああっ!?」
そう言われて泰三は、何かに気付いたように大きな声を上げる。
「思い出しました。何処かで見たことがあると思ったら、あの時、置いていくしかなかった遺体の中あの人がいました」
「ああ、だからレオンが生きているはずが……あっ!?」
その時、俺の脳裏に電流が走ったかのようにある考えがよぎる。
確信があるわけではないが、最悪へと至る可能性があるなら、事前に摘んでおくに越したことはない。
「シド! 泰三!」
俺は腰に吊るしたナイフを引き抜きながら、二人に向かって叫ぶ。
「レオンを止めるぞ。今すぐに!」
「えっ?」
「何かわかったのか?」
駆け出した俺に、すぐさまシドが隣に並んで話しかけてくる。
「レオンが生きていて、何かマズイことでもあるのか?」
「生きていれば問題ないけど、あのレオンは間違いなく生きていないんだ」
「えっ? じゃあ、あれは?」
「おそらくハバル大臣と同じようにゾンビ化しているはずだ」
「だから、ゾンビ化しているから何だってんだ?」
「わからないのか?」
まだ自体が飲み込めていないシドに、俺はこれから起こす可能性について話そうとする。
だが、
「うわっ!?」
口を開こうとすると目の前に竜巻が発生し、それに伴う突風が襲いかかって来て、俺は足を止めて身を低くする。
「うわああぁぁ……」
「クッ、何が起きてやがる」
俺と同様に、泰三もシドも突風のあまりの強さに堪らず膝を付いている。
「クソッ、何が起きているんだ……」
前を見ようにも目を開けるのも辛い風の強さなので、少しでも情報を集めようと、俺は目を閉じてアラウンドサーチを使ってみる。
数え切れないほど使ってきたこのスキルは、どのような状況でも問題ないく発動し、脳内に索敵の波が広がっていく。
すぐ近くにいる泰三とシドの赤い光点が見えた後、その先……ハバル大臣がいた場所に赤い光点が一つ浮かび上がる。
アラウンドサーチは相手の脳波を読み取って、赤い光点が浮かび上がる仕組みなので、あそこにいるレオン王子は、ゾンビ化しているかもしれないが、ハバル大臣と同じように自我があるかもしれないということだろうか?
もしレオン王子に自我があって、俺と話をすることができるなら、最悪の事態は避けられるかもしれない。
僅かに見えた光明に希望を見出していると、風が徐々に弱くなっていく。
どうにか目を開けられるところまで風が弱くなったところで、俺はまだ残っている竜巻の向こうに向かって叫ぶ。
「レオン、俺だ。浩一だ! 聞こえていたら返事をしてくれ!」
お願いだから声に応えてくれ。
そう思っていると、
「残念だが、この男が君の声に応えることはない」
「――っ!?」
強風の中でも不思議と耳にすんなり入って来る静かな声が聞こえたかと思うと、竜巻が弾けるように掻き消える。
俺の目に、立ち尽くすレオン王子の隣に恐れていた最悪の人物が立っていることに気付く。
「ス、スール……」
「いかにも、その様子を見る限り、私が現れるのを予期していたようだな」
そう言ってダークエルフのスールは、男でも見惚れてしまうほどの美貌を、醜く歪めて笑った。




