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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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激闘をくぐり抜けて

 ペンターによってゾンビに変えられたハバル大臣が、本当に死んだかどうかを確認するため、俺は泰三の二人で目を離さず警戒し続けていた。


 当初は早く死体を処理をすべきだと思ったが、ペンターの最期の大自爆の件もあり、ハバル大臣の死体も同じように大爆発をして全員が巻き込まれたらということで、一先ず安全の確保を優先させることになった。


 例えハバル大臣の死体がペンターと同じように爆発しても、俺と泰三だけならヴォルフシーカーで逃げることができるので、確実に逃げられる距離を取っている。


 俺たちが監視している間にシドがマリルさんを安全な場所まで運び、無事な獣人の戦士たちが犠牲になった仲間と、生き残った仲間の搬出作業をしている。

 シドと感動の再会を……なんて少しだけ頭をよぎったが、流石に人命救助の方が大事なので、今は互いの無事を確認して目で合図をしただけで、それ以上のことはしていない。



「でも、本当によかったです」


 シドのことを考えながら警戒していると、隣から泰三の安堵の声が聞こえてくる。


「城が跡形もなく吹き飛んだ時、浩一君にもしものことがあったのではないかと、つい思ってしまいました」

「まあ、そう思うのも無理ないよな」


 そう言って俺は、ちらとカナート王城があった場所へと目を向ける。


 カナート王国黎明期の人々の生活を支えた地上五階建ての城は跡形もなく吹き飛び、代わりにまるで隕石が落ちたかのような巨大なクレーターができていた。

 ペンターの心臓に仕込まれた爆弾がまさかここまでの威力を秘めていたとは、調停者の瞳(ルーラーズアイ)をもってしてもわからなかった。


「あれを見ちゃうと、正直俺も生きた心地がしないな」

「浩一君が助かったのは、あの影の中を移動するスキルで?」

「ああ、城の四階から飛び降りて、そのまま影の中へ飛び込んでギリギリだったよ」

「うわぁ……それはちょっと僕にはちょっと無理かもしれないです」

「俺も必死だったからどうにか上手くいったけど、できれば二度とやりたくない」


 自由騎士のスキルを使うには「スキルを使うぞ」としっかり集中する必要があり、中にはアラウンドサーチのように特定の条件が揃わないと使えないスキルもある。


「今回はたまたま上手くいったけど、次も上手くいくとは限らないからな」

「そうですね。僕もスキルを使う時は、未だに技名を口にしないと確実には出せないですから……」

「えっ、ディメンションスラストって、技名叫ばずに出せるの?」

「出せますよ。ただ、少しでも動きがブレるとスキルが発動しないことがあるんです。後、技名を叫ぶと体が勝手にスキルの動きをしてくれるので、確実に出したい時こそ、ちゃんと言うようにしています」

「へぇ……」


 俺のスキルが決まった動作をしないと発動しないように、泰三のスキルは技名を口にすることが発動のキーになっているようだ。


 となれば、訓練すれば目を閉じなくてもアラウンドサーチを発動したりできるのだろうか?


「…………」


 試しに目を開けたままアラウンドサーチを使うイメージをしてみたが、脳内に索敵の波が広がることもないし、何なら目から入る情報の方が多くて頭の方に上手く集中できない。


 それに泰三が言う通り、いざという時こそ基本通り、確実にスキルを発動させることの方が大事なので、余計なことはしない方がいいと思った。


「……本当、ままならないな」

「ええ、全くです」


 俺がスキルを試したこと気付いたのか、泰三が「よくわかるよ」と深く頷く。


 その後も俺たちは自由騎士のスキルの発動方法について相談しながら、周囲の安全が確保できるまでハバル大臣の死体を監視し続けた。




 そのまま暫く泰三と二人で監視を続けたが、ハバル大臣が再び起き上がって来る様子はない。

 途中、何度か調停者の瞳(ルーラーズアイ)を使ってみたが、ペンターの時のような脅威を示す赤い光は現れなかった。


 それでも何が起きても対応できるように油断なく監視を続けていると、


「コーイチ!」


 シドの声が聞こえたかと思うと、背中に誰かがのしかかって来る。

 柔らかな感触と共にいい匂いが鼻孔をくすぐり、俺は思わず笑みが零れるのを自覚する。


「コーイチ、無事でよかった!」

「シドも無事で……って!?」


 いきなり顔を掴まれたと思ったら、そのまま唇を塞がれて俺は驚きで目を見開く。

 思わず恋人同士の甘い時間を堪能したいという衝動に駆られそうになるが、泰三が困った顔をしているのがちらりと映り、冷静になった俺はシドの背中を叩いてどうにか距離を取る。


「ちょ、ちょっと待って。気持ちは嬉しいけど、まだ全てが片付いたわけじゃないから。それに泰三も見てるから、ね?」

「……わ、わかったよ。確かに軽率だったな」


 泰三の視線に気付いて少し恥ずかしくなったのか、シドは赤くなった顔を冷ますように手で顔を扇ぐ。


「とりあえず、怪我人を救護隊に預けてきた。元に戻るかはわからんが、獣人の生命力なら死ぬことはないだろう」

「そう……本当はもっと早く助けに行きたかったんだけどね」

「気にするなよ。命があっただけ儲けものさ。それに、コーイチのお蔭であのバケモノを倒すことができたんだからさ」

「そうか……そうだね」


 シドにそう言ってもらえて、少しだけ肩の荷が下りたような気がした。


 結果だけ見れば、ペンターとの長い長い因縁に終止符を打ち、奴の野望を阻止することができたのだ。



 残す問題はハバル大臣の死体を適切に処理すべきかと思っていると、


「浩一君!」


 泰三からの鋭い声が飛んで来て、俺は飛び起きるように立ち上がって彼に話しかける。


「どうした!?」

「ハバル大臣の隣に、誰かいます」

「何だって!?」


 調停者の瞳と共に定期的にアラウンドサーチを使っていたので、周囲に怪しい者はいなかったはずだ。


 そう思いながらハバル大臣の死体へと目を向けると、


「……レオン?」


 そこには既にいなくなったはずのこの国の王子、レオン王子が呆然と佇んでいるのが見えた。

いつも『チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~ 』をお読みいただきありがとうございます。柏木サトシです。


これまで三日に一度のペースで更新させていただいていた今作ですが、別作品の執筆作業のため、12月から更新頻度を三日に一度から一週間に一度のペースに落とさせていただきます。

期間は一月末までの二か月間で、毎週土曜日夜の更新予定です。二月からは再び三日に一度の更新頻度に戻したいと思っています。


私の都合で更新ペースが落ちてしまうのは大変申し訳ないのですが、作品の質を落とさずにより面白い作品を皆様にお届けしたいという私のわがままをどうかお許しください。


第二部も次回からいよいよラストバトルへと突入して参りますので、どうかこれからも応援よろしくお願いします。

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