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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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掻い潜り、突き立てる!

 ペンターの髪に擬態している虫についてわかったことは二つ。


 一つは索敵範囲内に入ったものなら、有機物だろうと無機物だろうと動くものは何でもお構いなしに攻撃すること。


 そしてもう一つは、攻撃する順番には序列があるのか、必ず決まった順番に攻撃をするということだ。


 これは五匹の虫をAからEに割り当てした場合、最初に虫Aが攻撃して、暫くしてから攻撃すると、次に動くのは必ず虫Bであり、その後はC、Dと続いて最後に虫Eが攻撃した後に再びAへと戻るということだ。

 そしてその時、面白いことに虫たちはまるでバレーボールのローテーションのように位置を上手く入れ替え、決してお互いが重ならないように、決して射線に入り込まないように移動するのだ。


 まるでそうプログラミングされたかのように、規則正しく動く虫を見ていると、あの虫たちに果たして自我があるのかどうかすら疑いたくなってくる。


 だが、虫を作ったのがペンターであることを考えると、虫たちは自分を守るための盾程度にしか思っていないだろう。


 故に、相手が規則正しい動きしかできないのなら、それを最大限利用させてもらうつもりだ。


 尤も当然ながらこの世界はゲームみたいに、イレギュラーが起きないなんてことはないので、万が一を想定して動くことも忘れない。



 俺は持ち球として複数用意した正方形に切り取った絨毯の切れ端をまとめて持つと、深呼吸をと一つして一枚を中へ向かって回転させながら投げる。


 狙うは虫Aが寄生しているペンターの右側……ではなく反対の左側から奴に向かって襲いかかるように投げる。


 激しく回転しながら飛んでいく絨毯の切れ端は、カーブしながらペンターへと迫る。

 すると、虫Aはペンターの頭の上を他の虫を避けるように素早く移動して左側へといくと、酸を吐き出して絨毯の切れ端を迎撃する。


「よしっ!」


 予想通りの行動を虫が取るのを見た俺は、続けて二枚、三枚と絨毯の切れ端を連続でペンターの左側から襲いかかるように投げる。


 当然ながら虫B、虫Cもペンターの左側へと移動して酸を吐く。



 その後も絨毯の切れ端を様々な方向、複数同時投げ、五枚以上の同時投げ等、思い付く限りのあらゆる方法で攻撃していくが、五匹の虫たちはローテーションを崩すことなく完璧に防いでいく。


「ここまでは読み通り……」


 ペンターが自分を守る術にあの虫たちだけを用いている以上、生半可な方法では攻撃が通じないことはわかっていた。


 今回の行動で何よりの成果は、虫は全部で五匹で、それ以上はいないということだ。


 結構な枚数の絨毯の切れ端を投げたが、吐き出される酸の量が減ることもなく、動きに疲れが見えてくる様子もない。

 しかも酸が直撃した絨毯の切れ端は、一瞬で溶けて跡形もなくなくなっており、あんなのが少しでも体に付着したらどうなってしまうのかは考えるだけで恐ろしい。


 虫を排除してペンターを殺すことも考えたが、それでは奴自信が危険を感じて目を覚まし、思いもよらない方法で反撃されるか、最悪は逃げられてしまう可能性もある。


 故に、どうにか虫の攻撃をかいくぐり、ペンター本体に直接攻撃する必要があった。


「……大丈夫、やれる」


 俺は調停者の瞳(ルーラーズアイ)がある右目を何度か瞬きしてスキルが問題なく発動することを確認すると、全ての絨毯の切れ端を手に室内へと突撃する。


「フッ!」


 駆けながら大量の絨毯の切れ端を手裏剣の要領で次々と投げると、虫たちがすぐさま反応して絨毯を迎撃していく。

 虫たちの動きを見ながら、俺は虫たちの射的距離ギリギリのところで立ち止まると、二枚の絨毯の切れ端を左右に持って同時に投げる。


 直前に虫Eまで攻撃をしているのを確認していたので、次に動くのは虫AとBだ。


 しかし、虫Aは俺がずっと同じように絨毯の切れ端を投げ続けていたので、次も同じ軌道で来ると思ったのか、初速が僅かに遅れる。


 すぐさま軌道修正をして掃射姿勢を取ろうとするが、虫Aの動きがピタリと止まる。


 その理由は、もう一枚の絨毯の切れ端を迎撃しようとする動いていた虫Bと、至近距離で顔を見合わせる形になったからだ。


「よしっ!」


 作戦が上手くいったことに、俺は調停者の瞳を使いながら虫たちの射程圏内へと入る。

 互いが衝突しないように行動して動くということは、決して同士討ちをすることはないと思っていたが、予想通りのようだった。


 俺が射程圏内に入ったことで、残った三体の虫たちの顔が一斉にこちらに向くが、脅威を示す赤い光が現れることはない。


 規律を重んじる虫たちは、こんな時でも自分勝手に動くことはなく、虫Aが攻撃するのを待っているようだった。

 虫AもBも最初に狙った絨毯の切れ端を攻撃する以外に思考は働いていないようで、こちらを見向きもしていない。


 これにより、俺とペンターの間を遮るものは何もなくなった。


 場当たり過ぎる作戦ではあったが、上手くいったことに油断することなく俺はナイフを手にして、椅子越しにペンターの背中に浮かんだ黒いシミへとナイフを突き出す。

 例え椅子で阻まれようとも、バックスタブのスキルの効果で、ナイフは何の抵抗もなく深々とペンターの背中へと突き刺さる。


「――っ!?」


 やったか? 何て冗談を言っている場合ではない。


 ナイフを突き立てられたペンターの体が大きくビクリと跳ねたかと思うと、俺の視界が真っ赤に染まったからだ。


「マズい!?」


 赤に染まる視界の中で虫Aがようやくこちらを向くのが見えたので、残った絨毯の切れ端を虫たちに向かってぶちまけながら俺は背を向けて一目散に逃げ出す。


 余計なことを考えるな!


 脅威を示す赤い光は城全体を包んでおり、今からまともに逃げたんじゃどう足掻いても逃げ切れない。


 だから、


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」


 俺は雄叫びを上げながら、事前に開けておいた窓から大空へと身を投げる。



「うぐぅ……」


 途端、体に重力がかかって目も開けていられないほどの暴風に晒され、恐怖で意識が飛びそうになる。


「駄目だ……気絶した……死ぬぞ!」


 口内に血の味が広がるほど唇を噛み締めながら、俺は自分が落ちる先の地面を睨み続ける。

 落ちる先は城の影になっている場所であり、気絶さえしなければヴォルフシーカーで影の海へと逃げられるはずだ。

 ヴォルフシーカーの発動には、砂イルカの背中に乗って砂の中を自由に移動したように、自分が影の中に入るのが当たり前だと思う必要がある。


 極限まで集中しろ! 臆せば、死ぬぞ!


 頭をよぎる地面に激突して死ぬイメージをかぶりを強く振って全力で振り払い、両手を前へと付き出して飛び込みの姿勢をとる。


「こんなところで、死んでたまるかああああああああああああああああああああぁぁぁ!!」


 雄叫びを上げながらみるみる迫る地面から目を背けることなく、影に潜るイメージを保持し続けた結果、俺の体は影の中へと音もなくするりと入ることに成功した。

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