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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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自動防御装置

「だ、駄目だ……」


 カナート王城の応接間から戦況を見ていた俺は、追い込まれていくシドたちを見て、焦りを覚える。


 泰三のディメンションスラストによって日本の触手を潰すことができたが、不気味なペンターの顔が付いた触手を除く四本は変わらず暴れ回っているし、潰された二本が復活するのも時間の問題だと思われた。


 あの中に俺とロキがいればと思わなくもないが、ロキはともかく俺がいたとしても、影の中を逃げ回るのが精一杯で、地上に出て攻撃に転じられる自信はない。


 アラウンドサーチで触手の本体が何処にいるのかはわかっても、触手がどのように展開されているのかまではわからないので、影から出た途端に潰されて死ぬ可能性も十分ある。



「……こうなったら」


 残された道は、皆がやられる前にペンターを倒すことだろう。


 俺は背後を振り返ると、椅子の上で目を閉じたまま座っているペンターを見やる。


「本当は、ロキが戻るまで待ちたかったけど……」


 ここからでは下の方はよく見えないが、先ほど大きな鍋を抱えたコックが走っていくのが見えたので、負傷兵たちはようやく移動し始めたぐらいと思われる。

 負傷兵の数がどれだけかは把握していないが、ロキが頑張ったとしてもまだ暫くは退避が続くと思われるので、今すぐペンターを攻撃するわけにはいかない。


 ということで今の俺にできるのは、


「確実に、奴を殺す方法を探ろう」


 そう口にすると、戦場から背を向けて椅子に座る老人を睨む。

 外を見て祈ったところで何も変わらないし、シドたちを救うためにやることをやるだけだ。


 勝利を拾うために最も必要なのは、勝つための材料を揃えることだ。


 耳にタコができるほど聞かされた言葉を思い返しながら、俺は右目に意識を集中させて調停者の瞳(ルーラーズアイ)を発動する。


 すると、


「ん?」


 骨と皮だけのガリガリの体躯にも拘らず、意外にも頭髪がしっかりと残っているペンターの頭から脅威を示す赤い光が俺の方に向かって真っ直ぐ伸びて来る。


「――っ!?」


 これまでの経験から、それが何かを探る前に逃げるべきだと理解している俺は、真っ先にその場から飛び退く。


 次の瞬間、俺がいた場所に何か液体のようなものが付着したかと思うと、赤い絨毯が白い煙を上げたかと思うと、焦げるような臭いが鼻をつく。


「ヤバッ……」


 突然の事態に驚くより早く次の赤い光が伸びて来るのを確認した俺は、手足をフルに使って這うように移動する。

 すると、俺がいた場所に次々と酸のような液体が降り注ぎ、その度に絨毯が焦げる音と臭いがしてくる。


「わっ、わっ、わっ、わっ……」


 そのまま這う這うの体でどうにか応接間から脱出すると、酸の連続攻撃も止まる。



「はぁ……はぁ……あ、危なかった」


 新たな赤い光が映っていないことを確認した俺は、大きく息を吐いてポーチから小さな鏡を取り出して反射で部屋の中が見える場所へと掲げる。


「まさか……」


 てっきりペンターが目覚めたのかと思ったが、即身仏も同然の老人が動いている様子はない。


 代わりにペンターの長い髪の毛の一部が、まるで自我を持っているかのようにわさわさと動いているのが見えた。


「……メデューサかよ」


 思わず髪の毛がヘビとなっているギリシャ神話に出てくる怪物を思い出しながら、何が起こったのかを理解する。


 ペンターほどの大物がいくら敵の裏をかいたとはいえ、何の護衛も付けずにただ座っているだけなんてあり得るのかと思ったが、やはりそうは問屋が卸さないようだ。

 ペンターのことだから髪の毛の一部を改造して自動反撃する装置でも付けているのかと思われたがなんてことはない、奴が創ったであろう虫が髪の毛に擬態しているようだった。


 もう正体を隠す必要はないのか、擬態を解除して髪の毛からムカデのような無数の足を生やした虫は、ペンターの頭の上を素早く移動しながら周囲を警戒していた。


 俺とロキが応接間に侵入してから、今の今までどうして攻撃してこなかったのかは不明だが、動き始めてしまった以上は対処しなければならない。


「まずは……攻撃のメカニズムを探る必要があるな」


 そう判断した俺は、ナイフで足元の絨毯を切り取ると、室内に適当に放り込む。

 すると、後頭部に回り込んでいた虫が口と思われる場所から酸を吐き出し、空中で絨毯に命中させてみせる。


 続いて複数の絨毯の切れ端を立て続けに投げると、複数の虫が同時に反応してそれぞれの絨毯に酸を的確に当てて行く。


「意思疎通は完璧……と」


 どういう理屈でターゲットを選定しているのかはわからないが、虫たちはある一定の距離に入ると、口から酸を吐いてターゲットを攻撃するようだ。



 その後も何度か絨毯を投げて情報を探った結果、ペンターの頭に擬態している虫は全部で五匹いることがわかった。

 普段はそれぞれが別方向を監視しているようだが、ターゲットが複数同時に侵入してくると、一糸乱れぬ統率された動きで相手を処理するようだ。


 ここまで結構派手に動いたが、部屋中が絨毯の焦げる臭いで充満しようとも、虫たちが頭の上を好き勝手に動いてもペンターが起きる様子はないことから、中身はシドたちと戦っている銀色の触手の方を動かすのに手一杯のようだ。


 果たして本体を倒せば銀色の触手の方が止まるかどうかわからないが、俺の働きに全員の命運が懸かっていると思って行動すべきだ。


「虫は全部で五匹、攻撃範囲はおよそ二メートル半、そして心臓には正体不明の危険物……」


 虫たちの攻撃をかいくぐるだけでなく、ペンターに攻撃をした後の自分の脱出方法まで考えなければならない。


 廊下側の窓を開け、周囲に何があるかを確認していると、ロキが怪我人たちを連れて歩いているのが見える。

 その後ろに衛生兵たちが続いているのが見てとれることから、怪我人の移送作業は完了したと思われた。



 これで余計な心配をする必要がなくなったと、最後に天を見上げて陽の位置を確認した俺は、


「……よし」


 気合を入れ直すために自分の頬を強く叩き、ペンターを倒すための行動を開始する。

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