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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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少しでも長く

 そこから先の戦いは、これまでの戦士たちの戦いとは完全に別物だった。


「ほれほれ、どうしたどうした?」


 首を長くして上から俯瞰するように戦場を見ているペンターが、目に映る戦士たちに不定形の触手を鞭のようにしならせて振るう。


 上から振り下ろされた銀色の触手が地面に叩きつけられると、轟音と共に石畳が大きくひび割れて砂煙が舞う。


「う、うわあああああああああああぁぁ!」

「馬鹿っ! 次が来るぞ。さっさと立つんだ!」


 立っていられないほどの激しい揺れに、堪らず尻餅を付いた獣人の戦士にサッと黒い影が差す。


「……あっ」


 唖然と見上げる戦士の上から別の触手が容赦なく振り下ろされ、地面に赤黒い花を咲かせる。



「……クッ、滅茶苦茶だ」


 視界の隅で部下たちが成す術なく潰されていくのを見ながら、血が足りなくて青白い顔で逃げ回っていたマリルは、同じように逃げているシドに話しかける。


「シド姫、何か手はないか!」

「無茶言うな。そう簡単に何でも思い付くかよ!」


 迫る触手を足ではじき返したシドは、肩で大きく息をする。


「それよりさっきから顔色が悪いぞ。やる気あるのか?」

「血が足りんのだ」


 マリルはうっ血してどす黒く変色した腕に視線を落として嘆息すると、恨めしそうにシドを睨む。


「そういうシド姫こそ、息が上がって動きに精彩を欠いているぞ」

「う、うるせぇ! あたしだってもう限界なんだ」

「ハッ、その体たらくでよく人に文句を言えたもんだ」

「何だ!」

「何だよ?」


 互いに睨み合い、一触即発状態となる二人であったが、


「ホッホッ、そこの二人は随分と余裕のようじゃの」


 そこへペンターの小馬鹿にするような声が聞こえ、銀色の触手が二本、天高く掲げられるのが見える。


「――っ、やべぇ!」

「おい、何をしている逃げろ!」


 腕をクロスするように交差させ、最上段から振り下ろされる触手たちの迎撃は無理だと判断して、シドたちは必死に足を動かして逃げる。



 だが、体力的にも限界が近い二人の歩みは遅く、特に怪我をしているマリルは目に見えてシドに遅れる。


「おい、死にたいのか!」

「わ、わかってる!」


 シドが必死に叫んでマリルを鼓舞するが、青白い顔のマリルの足取りは重く、今にも倒れそうだった。


 もうまともに戦えそうにないマリルを見て、シドは一瞬だけ彼女を見捨てるかどうか迷う。


「……チッ」


 だが、困っている人を簡単に見捨てることができないシドは、舌打ちをしてマリルへと駆け寄ろうとする。


 すると、


「シドさん、ここは僕が!」


 同じように触手から逃げ回っていた泰三が、颯爽と現れてマリルを守るように立つ。


「ここは力を温存している場合ではないです」


 自分に言い聞かせるように叫んだ泰三は、唸りを上げて迫る二本の触手を睨みながら長槍を構えと、


「ディメンションスラストスロー!」


 必殺の技名を叫びながら、振り下ろされた触手に向かって長槍を投擲する。

 投擲された長槍は、激しく回転しながら触手に吸い込まれると、一本、二本と易々と貫いて爆散させた後、そのまま天高く飛んでいく。


「さあ、シドさん!」


 彼方へ飛んでいった長槍には目もくれずマリルに駆け寄った泰三は、彼女を支えながら呆然と立ち尽くすシドに声をかける。


「今のうちに逃げましょう。これで暫くは余裕をもって逃げられるはずです」

「あ、ああ……」


 泰三の声で正気に戻ったシドは、彼の反対側に回って一緒になってマリルを支えて歩き出す。



「…………すまない」

「気にするな。あたしも少し言い過ぎた」


 マリルの弱気な発言んに返事を返しながら、しどは気になったことを泰三に尋ねる。


「おい、タイゾー。お前が凄いのはわかったが、どうしてその力でペンターの野郎を倒そうとしない」

「それは、おそらく僕の力ではあいつを倒し切れないからです」


 そう言って泰三は、自分がディメンションスラストで貫いた二本の触手へと目を向ける。


 必殺の名に恥じない一撃をもって完全に無力化させたと思った触手であったが、貫かれた傷口がボコボコと泡立ち、ゆっくりと再生していくのが見てとれた。


「あの通り、僕では一時的に無力化させることはできても、倒し切ることは難しい……おそらく、それは全員が無事であっても変わらない」

「じゃ、じゃあ、どうするんだよ」

「決まっています」


 泰三は大きく頷くと、自身がやるべきことを話す。


「一秒でも長く生き延びて、時間を稼ぎましょう」

「はぁ? それじゃあますます奴を倒せないじゃないか。それに何の意味があるんだよ」

「意味はあります。僕たちが時間を稼げば、きっと浩一君が何とかしてくれます」

「コーイチが? どうしてそこでコーイチが出てくるんだよ」


 浩一の名前を聞いて驚きで目を見開くシドに、泰三は笑みを浮かべながら話す。


「さっき、城の方からロキを先頭に人々が避難しているのが見えました」

「ああん、それがどうした?」

「その中に浩一君はいませんでした。それがどういう意味かわかりますか?」

「わかんねぇよ。コーイチのことだから、まだ寝てんじゃないのか?」

「それならロキは動かない。ロキが動いたのは、浩一君の指示があったからです」


 泰三は自分たちが逃げられるように、ペンターに挑む獣人の戦士たちを見やりながらある考えを話す。


「浩一君なら……きっと浩一君が何とかしてくれるはずですから信じましょう」


 そう語る泰三の顔は、親友の活躍を確信しているのか何処か誇らしげであった。

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