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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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いるはずのない人物

 誰もいないはずの城の上層、しかも四階の応接間という場所にいる人影を見て、俺は気付かれないように扉をそっと閉じると、ロキに可能な限り小さな声で話しかける。


「……誰? ロキ、知ってる?」

「…………」


 俺の質問に、ロキは中の人物に気付かれないように無言のままフルフルと首を横に振る。


「そう……か」


 背もたれで上半身は見えなかったが、椅子の足の間から見えた足は皮と骨しかないのではと思うほど細く、触れるだけで折れてしまいそうだった。


 もしかして中の人物は既に死んでいるのかも知れないと思ったが、一つ言えることはロキが感じた嫌な臭いの元凶は間違いなく応接間の中にいる人物が原因だろう。

 一階にいても、四階の閉じた部屋の中の臭いを察知するロキの嗅覚の鋭さには舌を巻くしかないが、このまま座して待つわけにはいかない。


「……とりあえず、中に踏み込んであの人の招待を見極めよう」

「わふっ」


 ロキから了承を得た俺は、指でカウントダウンをして扉を開ける。



 分厚い絨毯が敷かれているが、それでも足音を立てないように気を付けて中へと身を滑らせようとすると、


「わふっ」


 ロキから「待って」という声と共に、首を思いっきり後ろに引かれて俺の体が再び廊下へ引き戻される。


「――っ!?」


 思わず悲鳴を上げそうになったが、どうにか飲み込むことに成功した俺は、襟首を咥えているロキに話しかける。


「…………ゴホッ、な、何?」

「……わふわふ」

「えっ、毒だって? しかもかなり危険な?」

「わん」


 俺を解放してくれたロキは、室内に向けて鼻をスンスンと鳴らしながら、部屋の中に毒が充満していてかなり危ないと教えてくれる。


「マジかよ」


 ロキの言葉を疑うつもりは毛頭ないが、念のために脅威を視認できる調停者の瞳(ルーラーズアイ)を使って部屋の中を見てみる。


「…………本当だ」


 ロキの言う通り、部屋の中は脅威を示す赤い煙がそこかしこに見て取れる。


 あの赤い煙が一体どんな種類の毒なのかはわからない。


 だが、わからないということは、キチンと解毒できるかどうかわからないので、下手に触れるわけにはいかないということだ。


「……わふぅ?」


 ロキの「どうするの?」という不安そうな声に、俺は自信を持って頷いてみせる。


「大丈夫、策はあるから」


 ロキにサムズアップしてみせた俺は、調停者の瞳を使って室内をよく観察する。


 このスキルには脅威を視覚化するだけでなく、見たものに直接関与する効果もあるのだ。

 つまり毒の発生場所さえわかれば、そこに攻撃を加えることで毒の発生だけでなく毒そのものを無効化できるというわけだ。


 ソラのお蔭で体調が絶好調になった俺は、スキルを使っている右目を素早く動かして赤い霧が出てくる場所を探る。


「…………あれだな」


 程なくして部屋の右隅に真っ赤に染まった小さな小箱のようなものを見つけた俺は、腰からナイフを取り出して構える。


「はぁ…………すぅ…………」


 一度深呼吸をして呼吸を止めると、意識を赤く染まった小箱へと集中してひと息にナイフを投擲する。



 理想の軌道を描いて飛んだナイフは見事に小箱に突き刺さり、同時に赤い霧の発生が止まる。


「よしっ……」


 毒の噴出が止まったのを確認した俺は小さくガッツポーズをすると、通路側の窓を開けて中の毒が少しでも早くなくなるように換気する。


 少し派手に動いたので、中にいる人物に気付かれても仕方ないと思ったが、赤い小箱を壊されて充満した毒の濃度が薄くなっても動く気配はない。


「もしかしてあの人、既に毒にやられて亡くなっているなんてことないよな」

「わん、わふっ」

「そうだね。ごめん……」


 思わず漏れた軽口に、ロキから「油断はダメ」と釘を刺されてしまったので、俺は表情を引き締めて中の様子を見る。


 外からアプローチをかけたにも拘らず、椅子に座っている人物が動いた様子はない。


 ここまで反応がないと何処かで待ち伏せされているのかもしれないと思い、もう一度アラウンドサーチを使って索敵をしてみるが、


「何も……ない」


 念のために調停者の瞳で他に薄くなった毒以外に脅威がないかと探ってみても、目ぼしいものは何も見つからない。

 不可解な状況に全てを疑いたくなるが、リスクを最大限に排除できたのだから、行動に移さない理由はない。


「ロキ、行こう。万が一を考えて別れよう。俺は右から、ロキは左からで」

「わん」


 簡単に打ち合わせをした俺たちは、滑るように応接間の中に侵入して左右へと展開する。


 ロキが左から回り込む間に、俺は部屋の右隅へと向かって先程投げたナイフを素早く回収して、椅子に座る人物へと目を向ける。


「……えっ?」


 椅子に座る人物を見た俺は、思わず声を上げて驚きで目を見開く。


 そこにいたのは、外から見えた足と同様、全身が骨と皮だけとなっている男性と思しき老人だった。

 俺とロキが視界に映る範囲に入っても老人は微動だにせず、閉じたままの目が開く様子もなければ、呼吸のために胸回りが動く様子もない。


 即身仏も同然となっているこの人物が生きているかどうかも気になるが、今まで椅子の背もたれで見えなかった人物の顔に俺は見覚えがあった。


 それはかつてルストの街で、俺が記憶を失っている間に殺した老人と同じ顔をしていた。


 ということはつまり、


「まさかこいつ、ペンターなのか?」


 思いもよらないまさかの宿敵の登場に、俺は背中に冷たいものが走るのを自覚する。

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