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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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敗北の色が見えた時……

 泰三が放ったディメンションスラストは、防御無視の前例に漏れずハバル大臣の胸の真ん中を易々と貫く。


「やったか?」

「…………いえ」


 思わず喜色を上げるシドの声に、泰三は悔しそうに歯噛みしながら槍を引き抜く。


「手応えが何か変でした。少なくとも、心臓は貫けていない」

「な、何だと?」


 泰三に合わせて距離を取ったシドは、開いた胸からボタボタと血を流しているハバル大臣を指差す。


「あ、あれで、致命傷じゃないって言うのか?」

「おそらく……」


 切先に付いた血を振り払いながら、泰三は油断なくハバル大臣を観察する。


「がはっ!? クッ、こ、この私が……」


 地面にできた血だまりの上で口から大量の血を吐いて膝を付くハバル大臣は、傍から見ても致命傷で今にも倒れてしまいそうだ。


 だが、泰三の経験が……この世界に来て磨かれた戦士としての勘が、このままでは終わらないと告げていた。


 ディメンションスラストはクールタイムがあるので連発はできないが、だからといってこのまま手をこまねいているのは得策ではないと泰三は考える。



「シドさん、今のうちに徹底的に叩いてしまいましょう」

「あ、ああ、そうだな」


 泰三の言葉に頷いたシドは、剣を握り直して前へと出る。


「だが、万が一を想定して、あまり前へは出過ぎるなよ」

「わかってます」


 ハバル大臣がまだ生きている以上、死に体でも何かしらの策を講じてくる可能性もあるので、シドたちは警戒するようにジリジリと近付く。



 すると、


「シド姫!」


 ペンターを押さえていたマリルから、悲鳴のような叫び声が聞こえてくる。


「ジジィがそっちに行ったぞ! 気を付けろ!」

「チッ、おいタイゾー。ペンターはあたしが処理するから、早くハバルの野郎を殺せ!」


 視界の隅に白い蠢くものを見たシドは、タイゾーに指示を飛ばしながらマリルたちがいた方へと目を向ける。


「ジジィ、お前もいい加減にくたばれや!」

「ホッホッ、相変わらず口の悪いお嬢さんじゃ」


 翼の先に老人の顔を付けて進むペンターは、向かってくるシドの攻撃を軟体動物のようにクネクネと不規則な動きで回避する。


「このっ……避けんな!」

「ホッホッ、無茶を言わさんな。そんな凶暴な攻撃を受けたら、こんなひ弱な老人、ひとたまりもないじゃろう」

「ひ弱な老人は、そんな気持ち悪い動きはしねぇよ!」


 闇雲に攻撃を仕掛けても埒が明かないと判断したシドは、ペンターの寄生元であるハバル大臣の背中に狙いを絞る。


 だが、


「危ない、危ない。そっちを狙われたらたまらんわい」


 シドの意図に気付いたペンターは、あっさりとハバルの身体を捨てて空中へと退避する。


「んなっ!? ひ、卑怯だぞ!」

「ホッホッ、それは儂にとって最高の褒め言葉じゃ」


 二対の翼から老人の顔が付いた空飛ぶ紐上の白い物体へとなったペンターは、風に流されるように漂いながら膝を付くハバル大臣へ話しかける。


「さて、もうそろそろ自分の異変に気付いたかのう?」

「ペンター、私に……私の体になにをした?」


 ハバル大臣はゆっくりと立ち上がると、口の端に付いた血を乱暴に拭う。


「どうして私の胸に心臓がない? 私の心臓を何処にやったのだ?」

「ホッホッ、慌てるでない」


 今にも噛み付きそうな殺意の籠った視線を向けてくるハバル大臣に、ペンターはまるで気にしていないような場違いに明るい声で話す。


「ちゃんと心臓はあるぞ。ただ、お前さんの認知している場所にはないがな」

「そんなことはどうでもいい。私の体に何をしたのだ?」

「何って王になりたいというのじゃから、そのように改造してやっただけじゃよ」

「改造だと? そんなこと……」

「記憶にないからあるはずがない、かのう?」


 不審そうに眉を顰めるハバル大臣に、ペンターは仄暗い笑みを浮かべて話す。


「それはお前さんが認知していないだけで、中は好きに弄らせてもらっておるよ」

「なん……だと……」


 自分の身体が好き勝手に改造されたと知って、ハバル大臣は愕然となる。


「この私が……獣人の真の王たる私の体が……既にペンターの実験道具だと?」

「そういうことじゃ……もう十分じゃろう?」

「何?」

「もうお遊びは十分だと言ったんじゃ」


 ペンターは首をくるりと百八十度回転させ、上下反転した顔でニヤリと黒い笑みを浮かべる。


「才能もない、力もない、ないない尽くしの無能による真の王になりたいという世迷言に付き合ってやったのじゃ。いい加減、自分は真の王にはなれないと気付いたじゃろう?」

「な、何を、私は……」

「そこで言葉に詰まる時点で、既に敗北を認めたようなものじゃ」


 答えに窮するハバル大臣に一方的に告げたペンターは、細長い胴部分を回転させて先端がとがったドリルのような形状になる。


「ここから先は、儂がお主に代わって王とやらになってやろう」


 そう一方的に宣言したペンターは、ハバル大臣の開いた胸の傷に向かってドリルの先端を突撃させる。


「クッ……」


 激しく回転させながら迫る白いドリルに、ハバル大臣は両手で挟むようにして掴む。


「こ、こんなところで……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!」


 必死に叫びながらドリルを止めようとするが、激しい回転の前にハバル大臣の腕の表面が激しく削れ、周囲に赤い血を撒き散らしながら徐々に胸の傷へと埋まっていく。


「や、やめろ……私は……獣人の未来のために…………」


 ハバル大臣の必死の抵抗も空しく、ドリルの先端が胸の傷に入ると、そこから先はペンターの白い身体がどんどん傷口へと侵入していく。


「安心せい。お前に代わって、ちゃんと汚い獣たちは駆除しておいてやるぞ」


 最後にハバル大臣の耳元で囁いたペンターは、残った顔も変形させて胸の傷へと入っていった。

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