皆で繋ぐ一撃!!
巨大な白い狼となったシドは、人の時とは比べ物にならない速度でハバル大臣へと迫る。
「バケモノ同士が仲良くしてんじゃねぇよ!」
相手をかく乱するように三次元の動きで翻弄しながら、シドがハバル大臣の背後から剣を振り下ろす。
目で追うことすら難しい速度での攻撃であったが、ハバル大臣の背中に取り憑いた二対の翼は、素早く動いてシドの攻撃を的確に防いでみせる。
「ホッホッ、中々に素早いが今の儂なら目で追えない速度ではないぞ」
「チッ、くたばり損ないのジジィが!」
舌打ちをしたシドは、さらに速度を上げて剣戟を繰り出していくが、その全てを二対の翼が激しい火花を散らしながら防いでいく。
「クソッ、しつこい!」
「ホッホッ、儂にばっかり気を取られていいのか?」
翼との打ち合いを続けるシドに、ペンターがニヤリと笑ってみせる。
同時に変幻自在に形を変える翼がサッと別れ、本体であるハバル大臣が猛然と現れ、剛腕を振るう。
「獣化の力とは、腐っても獣人王の娘というわけか」
不意打ち気味に現れたハバル大臣の拳だったが、シドは冷静に剣の腹で受け止めて弾くと、返す刀で反撃へと打って出る。
「ハッ、あたしの力はお前の喰らって盗んだ力とは違うけどな!」
「……ぬかしよる」
シドが次々と繰り出す攻撃を、ハバル大臣は素手で次々と捌いていく。
「だが、自分の力を過信し過ぎだな」
そう言って一歩下がったハバル大臣は、大きく足を振り上げてシドの首元を狙う。
「うおっ!?」
ブオン、と唸りを上げながら迫る暴風のような蹴りを前に、前へと出ようとしていたシドは反射的に上半身を大きく仰け反らせて回避する。
「……危ない危ない」
普通なら倒れてしまいそうなほど仰け反っても、シドは尻尾を使って倒れることなく器用に体勢を整える。
「ホッホッ、隙だらけじゃ」
すぐに身動きを取れなくなったであろうシドに、チャンスと見たペンターが翼を伸ばして襲いかかる。
だが、迫るペンターを前にシドは不敵に笑ってみせる。
「……ヘッ、甘いな」
「何じゃと? うぐぅ」
ペンターが聞き返すと同時に、伸ばした二対の翼に激しい衝撃が走って大きく弾け飛ぶ。
「我々のことを忘れてもらっては困るぞ!」
そこには青い顔で無理矢理笑顔を浮かべているマリルと、必死に食らいつこうとする獣人の戦士たちがいた。
「どうだ。今のあたしは一人じゃないってことだ」
翼が大きく弾かれ、ハバル大臣の防御が薄くなったと見たシドは一気に前へと出る。
「そういうお前はどうだ? 親戚を食い散らかして、今は薄汚いジジィだけがお友達か?」
「減らず口を……」
シドは獣化した力を存分に発揮して怒涛のラッシュを仕掛けていくが、ハバル大臣は禍々しい赤いオーラを纏った腕でしっかりガードしていく。
「大口を叩くなら、せめてまともな一撃を放ってからにするんだな」
「もちろん、そのつもりだぜ」
シドは犬歯を剥き出しにして獰猛に笑うと、剣戟の隙間を塗って足を伸ばしてハバル大臣の腹部を蹴る。
「うぐぅ……」
「まだだぜ」
不意打ちを受けて体を「く」の字に折るハバル大臣に、シドがここぞとばかりに最上段に構える。
「砕け散れええええええええぇぇぇ!」
「…………まだだっ!」
気合の雄叫びと共にシドが渾身の一撃を振り下ろすと、ハバル大臣は両腕をクロスして頭の上に掲げてガードする。
次の瞬間、シドが振り下ろした剣が直撃し、轟音と衝撃波を響かせながらハバル大臣の足元が広範囲に渡って大きくひび割れ、体が十センチ近くも沈む。
だが、周囲への甚大な被害とは対照的に、攻撃を防いだハバル大臣の腕は僅かに斬れて血が滲んだ程度だった。
「……この程度か?」
シドの攻撃を受け止めたハバル大臣は、唇の端を吊り上げて余裕の笑みを浮かべる。
「全力でその程度なら、到底私は倒せんぞ?」
「ハッ、お前こそ全くわかっていないな」
シドは尚も剣を押し込みながら、ニヤリと笑い返す。
「切り札は最後にとっておくもんだぜ」
「何だと?」
「わからないか? あたしはただの囮ってことだ」
「――っ!?」
その言葉でシドの真意に気付いたハバル大臣が首を巡らせると、背後で長槍を構えている泰三が見える。
「しまっ……」
自分のピンチに気付いたハバル大臣は、慌てて逃げようとするが、
「う、動けん」
シドの一撃で足が地面に埋まり、さらに上から押し続けられているので身動きが取れないでいた。
「クッ……」
ハバル大臣は尚も剣を押し込んでくるシドを払いのけようとするが、全体重をかけて押し込んでくる彼女はビクともしない。
「こいつ、どけえええええええぇぇ!」
「おいおい、どうした? いきなり余裕がなくなり過ぎじゃないか?」
「だ、黙れ! おい、ペンター!」
自力でシドを退かすのを無理と察したハバル大臣は、肩に寄生しているペンターへと助けを求める。
「何をしている。早くこの娘をどうにかしろ!」
「そ、そうは言うがの……」
ハバル大臣から引き離されている形になっているペンターは、周囲で激しく動き回る影を見て困惑したような声を上げる。
「さっきから戻ろうとしているのじゃが、獣共がワラワラと……」
「や、役立たずが……」
マリルをはじめとした獣人の戦士たちの連携に翻弄されているペンターを見て、ハバル大臣は本格的にマズいと表情を歪める。
「さあ、そろそろ終いにしようか」
シドはクールタイムを終え、技を放つ準備が整った様子の泰三に向かって叫ぶ。
「タイゾー、思いっきりやっちまえ!」
「はい、いきます!」
シドの声に応えるように、泰三は猛然と前へ出て限界まで引き絞っていた槍を一気に開放する。
「くらえ、ディメンションスラスト!」
「ウ、ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!」
最後の足掻きをするハバル大臣の体に、防御無視の必殺の一撃が吸い込まれていった。




