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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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本気(マジ)でいくしかない

 ハバル大臣の背中の羽から射出された白い礫が、無数の雨となって泰三たちに襲いかかる。


「マリルさん、僕の後ろへ!」


 迫りくる礫を前に、近くに遮蔽物がなく、回避が困難と察した泰三は、前へ出て長槍を構える。


「はああああああああぁぁぁ!」


 気合の雄叫びを上げながら泰三が長槍を眼前で高速で回転させると、飛来してきた礫を次々と弾いていく。


「マリルさん、今のうちに避難を!」

「あ、ああ、すまない」


 この場にいては泰三の足を引っ張ると判断したマリルは、慌てて退避しながら叫ぶ。


「離れると一方的に攻められるぞ。距離を詰めて好き勝手に暴れさせるな!」


 これまでのような様子見は危険と判断したマリルの判断に、獣人の戦士たちが応えるように、腕を組んで超然と立ち尽くすハバル大臣へと襲いかかる。




 ※


「大臣、お覚悟!」

「散っていった仲間たちの無念、ここで晴らさせてもらいます!」


 獣人の戦士たちによる四方から一斉攻撃に、ハバル大臣は身構えることなく腕を組んだままゆっくりと目を開けると、虚空に向かって話しかける。


「……ペンター、露払いは任せていいんだな?」

「勿論じゃ」


 ハバル大臣の声に呼応するように、二対の翼の一つから真っ白な老人の顔が現れてニヤリと笑う。


「ワシの最高傑作の力、とくと見るがいい」

「不気味な顔を近付けるな」

「ホッホッ、酷い男じゃ。愛嬌のある顔じゃろうが」


 ペンターが不服そうな表情を浮かべながら、二対の翼を素早く動かす。


 すると、ハバル大臣へと迫って来た獣人の戦士たち伸ばした翼で受け止めてみせる。

 さらに続けてやって来た攻撃に対しても、翼の形を自在に変えて受け止め、弾き、返す刀で獣人の戦士たちへ白い礫を放っていく。


「ホッホッ、どうじゃ? 自動で防御し、反撃までしてくれるワシの自慢の兵器は?」

「悪くない。だが、まだまだ手緩いな」

「ほう、例えば?」

「そうだな……」


 ペンターの問いかけに、ハバル大臣は首を巡らせ、一度弾いて再び斬りかかって来た獣人の戦士へと目を向ける。


「ペンター、他は任せた」


 同時に攻めてくる他の獣人の戦士たちの処理をペンターに任せたハバル大臣は、狙いを定めた獣人の戦士に向かって駆け出す。


「大臣、覚悟!」


 槍を手にした獣人の戦士は、自分に迫るハバル大臣に臆することなく突撃する。


 細身の身体を限界まで縮めて力を溜め、バネが弾けるように一気に力を解放させて槍を放つ。


「はああああああああぁぁぁ!」


 長い年月をかけて磨き上げられた突きは、銀の閃光となって不敵に笑うハバル大臣へと襲いかかる。



 空気を切り裂いて迫る槍に対し、ハバル大臣は回避する素振りを見せることなく、右拳を握り込むと、


「ふんっ!」


 短く息を吐きながら、槍に向かって正拳突きを放つ。


 たてがみのように赤い禍々しい光を纏ったハバル大臣の右拳は、銀の閃光と正面からぶつかったかと思うと、破砕音と共に槍が粉々に吹き飛ぶ。


「なっ!?」

「消し飛べ!」


 必殺の一撃を武器ごと破壊されて驚く獣人の戦士に向かって、ハバル大臣は再び右拳を構えて正拳突きを繰り出す。


「う、うわああああああああああぁぁぁ…………」


 禍々しい赤い光を纏った右拳が獣人の戦士の上半身を捉えたかと思うと、彼の体が内側から大きく弾け飛んだ。



 血と臓物の雨、残った下半身が力なく崩れ落ちるのにも目もくれず、周囲からやって来る攻撃を弾いているペンターに話しかける。


「やるならこれくらい徹底的にやってもらいたいものだな」

「そんなことができるのは、貴様ぐらいじゃよ」


 無茶苦茶な要求をするハバル大臣に、ペンターは呆れたような声を上げる。


「そんなことより、次はワシでも防ぐのは容易ではないぞ」

「むぅ……」


 その声にハバル大臣が首を巡らせると、敵対する中でも最強格である三人が動くが見えた。




 ※


「クッ、遂に犠牲者が……」


 誰も死なせることなくこの戦いを終わらせるつもりだった泰三は、悔し気に歯噛みしながら長槍を構える。


「もう、これ以上は誰も死なせない!」

「おい、タイゾー!」


 勇んで前へと出る泰三に、横に並んだシドが制するように手を伸ばして止める。


「気持ちはわかるが少し落ち着け」

「ですが!」

「気持ちはあたしも同じだ。仲間を殺されて冷静になれる奴なんていない」


 シドは泰三の肩を掴んで止めさせると、大きく息を吐いて自分の胸をドン、と強く叩く。


「ここから先はあたしもマジでやる」

「マジ……本気ってことですか?」

「ああ、見てろ」


 シドは大きく深呼吸を一つすると、力を解放させて獣の姿へと変貌する。


「シドさん……」


 浩一に獣化した姿を見られるのを恐れていたシドが変身したのを見て、泰三は彼女の心境の変化に驚きながらも思ったことを口にする。


「……カッコイイです」

「よせよ。褒め言葉はコーイチからだけで十分だよ」


 シドはあしらうように手を振りながら泰三に背を向けると、何やらペンターと話し込んでいるハバル大臣を睨む。


「この姿になった以上は長期戦はキツイ。だから一気に勝負を決めるぞ」

「お手伝いします」

「……私も行く」


 泰三に続いて、脂汗を浮かべたマリルが後に続く。


「生憎と私も長くは戦えん、ここから先は時間の勝負だ」

「なら決まりだな」


 シドは剣を肩に担ぐと、ズラリと並んだ牙を見せるように笑う。


「あたしが全力で奴をかき乱すから、お前たちであのバケモノ共を殺し尽せよ!」


 物騒な宣言したシドは、先陣を切るようにハバル大臣へ向かって駆け出した。

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