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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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老獪なる者の援護

 致命的な隙を晒したハバル大臣に、これまで戦いを見守っていた泰三とマリルが同時に襲い掛かる。


「大臣、悪いがここで終わらせてもらうぞ!」

「全力でいきます。ディメンションスラスト!」


 それぞれの得物を手に、全力の攻撃をハバル大臣目掛けて仕掛ける。


「うぬぅ……」


 左右から同時に攻めてくる泰三たちを見て、回避は不可能と判断したハバル大臣は、


「止むを得ん……」


 両手を捨てることを決め、せめて致命傷を受けるのは防ごうとする。



 すると、


「ホッホッ、諦めるのはまだ早いぞ」


 何処からともなく老人の声が聞こえたかと思うと、ハバル大臣のすぐ脇の石畳の隙間から白い粘液が溢れ出てくる。

 溢れ出た白い粘液はあっという間に人型の姿になると、ハバル大臣を守るように立ち塞がる。


「今の声は……」

「そんなことよりタイゾー殿、このまま押し込むぞ!」

「は、はい、お任せ下さい!」


 想定外の邪魔は入ったが、それは逆に押し切ればまたとないチャンスになると察した二人は、構わず渾身の一撃を繰り出す。


「うおおおおおおおおぉぉぉ!」

「はああああああああぁぁぁ!」


 それぞれの必殺の一撃を受けた人型の粘液は激しく形を変えていくが、マリルが放った一撃はハバル大臣へと至る手前でピタリと止まる。


「クソッ! 後少しで……」

「大丈夫です。僕の一撃なら……」


 泰三の宣言通り、防御無視、絶対貫通のディメンションスラストは白い粘液を易々と貫いてハバル大臣へと至るが、攻撃が片方だけになったことでハバル大臣にすんでのところで回避され、彼の右肩を少しだけ抉る留まってしまう。


「うぐぅ……」

「クッ、ならもう一撃……」


 僅かしかダメージを与えることしかできなかった泰三は、素早く槍を引いて再びディメンションスラストを放とうと構えが、


「ホッホッ、そう何度もやらせると思うてか」


 再びしわがれた老人の声が響いたかと思うと、槍を受け止めた人型の白い粘液がプルプルと震え出す。


「自身の放った凄まじい力、果たしてその身で受け切れるかな?」

「――っ、いけない!?」


 響いた声でこれから起こること察した泰三は、反射的に槍を引いて横方向へと転がるように退避する。



 泰三は地面を転がりながら、まだ白い粘液を押し込もうと力を籠め続けているマリルと、隙を見て攻撃を仕掛けようとしているシドに向かって叫ぶ。


「マリルさん、シドさんも逃げて下さい! 今すぐ!」

「チッ……」


 泰三の声に素早く反応したシドは、攻撃の手を止めて後方へと退避する。


「何?」


 だが、鍔迫り合いをしていて僅かに反応が遅れたマリルが顔を上げると同時に、震えていた二体の白い粘液が大きく爆ぜて無数の針へと変化して襲いかかる。


「う、うわああああああああああぁぁぁ!!」

「クッ……」


 悲鳴を上げながら吹き飛ぶマリルを尻目に、泰三は自身に迫って来る針から必死に逃げる。

 白い粘液は、泰三をサーチしているかのように針を伸ばし続けるが、距離が長くなるほどに針の本数が減り、細くなってやがて止まったかと思うと、スルスルと音もなく戻って人型へと戻る。


「……ふぅ」


 どうにか危機を脱した泰三は、大きく安堵の溜息を吐くが、


「そ、そうだ。マリルさんは!?」


 すぐさま正気に戻って立ち上がると、マリルが吹き飛んでいった方へ向かって走る。


「マリルさん、大丈……」


 倒れているマリルへと声をかけた泰三の言葉が途中で止まる。


 蹲るようにして倒れるマリルの左手は、咄嗟に防御したものの黄金の防具を貫いて無数の穴が開いており、そこからとめどなく赤い血が溢れ出ていた。


「いけない……」


 このままでは失血死する可能性があると察した泰三は、敵のすぐ前であるにもかかわらず、槍を放り捨ててマリルの小手を外しにかかる。


「待っててください。今すぐ止血しますから」

「いや、いい……」


 応急処置を試みようとする泰三を、青い顔をしたマリルが手で制する。


「私程度の治療のために、最大戦力であるタイゾー殿を失うわけにはいかない」

「で、ですが……」

「大丈夫。私はまだ戦える」


 マリルは小手を外して下に着ていた衣服を引きちぎると、片手と口で器用に穴の開いた腕に巻き付けてギュッと結ぶ。


 力任せに引っ張り続けると腕に巡る血が止まったのか、腕の出血は止まるが代わりにうっ血して早くも指先が青紫色へと変化する。

 最後に麻酔効果もある丸薬を取り出して喉に押し込んだマリルは、薬の苦味に顔を歪めながらニヤリと笑う。


「これで暫くは動ける」

「こ、こんな無茶な止血方法じゃ、後で切断する羽目になりますよ」

「構わない。それに敵はさらにパワーアップしてそれどころじゃないみたいだ」

「えっ?」


 マリルが顎で示した先へと泰三が目を向けると、ハバル大臣が二体の人型の白い粘液と共に起き上がっていた。


 二体の人型の白い粘液が再び液体に戻ったかと思うと、ハバル大臣の体に取り憑くように巻き付いていく。

 スルスルと音もなくハバル大臣の背中を登る白い粘液は、彼の肩甲骨で止まったかと思うと大きく左右に分かれて広がる。


「あれは……翼?」


 まるで鳥の羽を思わせるような翼を手に入れ、赤いたてがみをなびかせているハバル大臣を見て、泰三は小さく息を飲む。


「これじゃあまるで虎に翼じゃなくて、獅子に翼じゃないか」

「と、虎に……何だって?」

「僕の世界の言葉です。最強の獅子に翼が生えたら、それこそ手が付けられれないほど強いってことです」

「フッ、じゃあ、どうする? このまま白旗でも上げるか?」

「それでおとなしく帰ってくれるのなら、検討の余地はあるかもですけどね」

「絶対にないな」

「ですね」


 泰三とマリルは頷き合うと、それぞれの獲物を構えて臨戦態勢を取る。



 すると、


「何やらコソコソと話しているようだが……」


 二度、三度と翼の調子を確かめるように羽ばたかせたハバル大臣は、ゆっくり首を巡らせて泰三たちを見てニヤリと笑う。


「そこは既に、私の攻撃範囲内だぞ」


 そう言ってハバル大臣が手をサッと掲げると、二対の羽から無数の針が泰三たちに向かって射出された。

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