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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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吠え面をかかせる

 マリルから借りた剣を手に、シドが乱戦の中へと飛び込んでいく。


「お前たち、あたしに道を譲れ!」


 シドが叫び声を上げると、ハバル大臣と切り結んでいた獣人の戦士たちが一斉にその場から飛び退く。



「おらっ、いくぞ!」


 シドが後方からハバル大臣の背中に向かって剣で刺突を繰り出すと、彼は後方を見ることなく半身を横へずらして回避する。


「随分とうるさい女だ……」


 ギョロリと眼球を動かしてシドを睨んだハバル大臣は、彼女が伸ばした剣を掴もうと手を伸ばす。


「おっと!」


 だが、回避されることを想定していたシドは素早く剣を引くと、


「そのガタイで随分と素早く動けるようだが、これはどうかな?」


 再び前へと出て、今度は素早い突きを連続で繰り出す。


「オラオラオラァ、あたしの突きはそこらの奴とはひと味違うぞ!」

「ぬぅ……」


 これまで全ての攻撃を回避してきたハバル大臣であったが、目にも止まらぬ速さで次々と繰り出される突きを前に防御を余儀なくされる。

 ハバル大臣は武器を持っていないので、シドの突きを真剣を素手で捌いていくが、その手が切り裂かれることはない。


「クッ……やるな」


 突きを決して正面で受けることなく、手の甲で横に流すことで痛打にならないように防御するハバル大臣を見て、シドの笑顔が僅かに引き攣る。


「どうした。この程度か?」


 油断なくシドの猛攻を凌ぎながら、ハバル大臣が唇の端を吊り上げて笑う。


「獣人の王の子といっても、所詮は女だな」

「はあっ!?」

「こんなゴミが後継者とは、獣人王も子には恵まれなかったようだな」

「――っ、こいつ、バカにするんじゃねぇよ!」


 ハバル大臣の挑発に、シドは怒りで顔を真っ赤にさせて強引に前へと出る。

 これまでの削るような連続の突きから、確実にダメージを与えるための大振りの攻撃をシドは繰り出す。


「あたしがゴミかどうか、その身で確かめさせてやるよ!」

「フッ……」


 だが、それこそハバル大臣の思う壺であった。


「やはりゴミだな」


 流れるような動作でシドの渾身の一撃をくるりと回って回避したハバル大臣は、回転した勢いを利用して回し蹴りを繰り出す。


「その短絡さを悔いて死ぬがいい」


 空気を切り裂きながら繰り出された蹴りは、剣を振り抜いた姿勢でいるシドの首を刎ね飛ばすかと思われたが、


「フッ……」


 薄く笑った声が聞こえたかと思うと、ハバル大臣の目から彼女の姿が剣だけ残して掻き消える。



「……何?」


 突如として目の前から消えたシドに、ハバル大臣は驚きに目を見開く。


「一体何処に……」


 消えたシドを追って首を巡らせハバル大臣であったが、


「あがっ!?」


 背後から首元に激しい衝撃が走り、衝撃に耐え切れず体勢を崩す。



 たたらを踏んでどうにか転ぶことは耐えたハバル大臣は、素早く首を巡らせて背後から襲いかかって来た者を見やる。


「ヘッ、どうだ!」


 するとそこには、空中で足を振り抜いた姿勢で不敵に笑うシドがいた。


「そうか……」


 それを見てハバル大臣は、自分の身に何が起きたのかを理解する。


「剣を足場に大きく跳び、そのまま蹴ったというわけか」

「そうだよ。お前がバカにしたゴミの一撃ってやつだよ!」


 ハバル大臣に有効打を与えたシドは、さらなる追撃を仕掛けるために地面に突き刺さった剣を手に前へと出る。


「真の王とか偉そうなことを言っている割に、お前もたいしたことないな」

「……舐めるな」


 小馬鹿にするようなシドの言葉に、額に青筋を浮かべたハバル大臣も前へと出る



 そこからシドたちは、これまでの探るような戦いから一転して真正面から打ち合う。


 真剣と素手という得物の違いこそあるが、二人は火花を散らしながら互角に切り結んでいく。


「ハッ、何だ。まともに戦うこともできるじゃないか!」

「貴様こそ……小娘にしては少しはやる」


 激しく火花を散らしながら戦いを続ける二人であったが、


「悪いけど、あたしはまともにやり合うつもりはないぜ」


 シドは薄く笑うと、振りかけた剣を引いて身を深く沈める。

 すると、シドの背後から狙ったかのように矢が飛んで来て、彼女の正面に立つハバル大臣の顔を目掛けて飛んでいく。


「むう!」


 完全に虚を突かれる形となった攻撃に、ハバル大臣は慌てて身を反らして回避する。


「隙を見せたな」


 無理矢理回避したことで、ハバル大臣が体勢を崩したのを確認したシドは、犬歯を剥き出しにして獰猛に笑う。


「あたしの一撃で、弾け飛べ!」

「……チッ」


 まともに防御も回避もできない状況に追い込まれたハバル大臣は、舌打ちをしながらクルリと回ってシドに向かって背を向ける。


「私の武器は、両手足だけではないのだよ」


 そう言ってハバル大臣は、これまで無類の強さを誇っていた尻尾を振るってシドを迎え撃つ。



 だが、


「そいつを待ってた!」


 ハバル大臣が尻尾を振るうことだけをひたすら待っていたシドは、剣の腹を突き出して尻尾を受け止める。


 マリルが被っていた黄金の兜を真っ二つにしてみせたハバル大臣の尻尾であったが、シドが突き出した剣を断ち切ることは叶わない。


「むぅ……近衛の剣か」

「ハハッ、その通りだ。この国一番の名剣の前には、自慢の尻尾も役立たないようだな」


 ハバル大臣の尻尾を絡め取ったシドは、そのままの状態で力任せに引っ張る。


「ぐぬぅ!」


 尻尾を引っ張られることに、ハバル大臣は抵抗しようと足を踏ん張ろうとするが、


「と見せかけて……」


 シドはあっさりと剣から手を離すと、身を屈めて足を上げたハバル大臣の足を掬う。


「うぬぅ」


 全く予期してなかったシドの行動に、ハバル大臣は体勢を大きく崩されてその場に尻餅を付く。


「よし、お前たち、後は任せたぞ!」


 宣言通りハバル大臣を崩したシドが声をかけると、


「よくやった。後は任せろ!」

「いきます!」


 これまでシドの戦いをジッと見守っていた泰三とマリルが、ハバル大臣へと猛然と襲いかかった。

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