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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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残された策は……

 爆発によってオークキングに寄生していた虫を無効化することに成功したシドたちは、死に体同然の魔物に情け容赦なく襲い掛かった。

 万が一の反撃を想定して手足を地面に縫い付け、心臓を潰した後に寄生した虫を探すべくオークキングの体を解体していった。



「……ふぅ、もう起き上がることはないな」


 オークキングの体から寄生した虫を見つけて潰したシドは、潰した残骸を見て大きく息を吐く。


「まさか、三体の虫に寄生されていたなんてな」


 呆れたように呟くシドの目には、オークキングの肩甲骨に寄生していた長い紐のような形をした寄生虫が二匹と、腰の後ろに隠れていた三葉虫に似た白い虫の死骸が転がっていた。


「このいつもの白い奴が身体を操って、残る二匹が触手を動かしていたんだな」

「ああ、それぞれが別々の頭を持っているから、あんな複雑な動きをしていたんだな」


 オークキングの首を切り落として踏み潰したマリルは、足に付いた血を払いながら話す。


「まさかとは思うが、こんな複数の虫に寄生されたバケモノみたいな魔物が他に出てくるとかないよな」

「おいっ!」


 不穏なことを口にするマリルに、シドは咎めるように声をかける。


「そういうことを言うと、本当にヤバい奴が現れるってコーイチが言ってたぞ」

「おいおい、またコーイチ殿かよ」


 先程と同じ展開の指摘に、マリルは大袈裟にかぶりを振る。


「そう言ってさっきは倒してなかったが、殆ど倒したも同然だっただろうが」

「だ、だけど、コーイチが言う通りになったことだって何回かあったんだぞ」

「何回かって……ただの偶然だろ?」


 浩一の意見に懐疑的なマリルは、兜の中で鼻を鳴らすと呆れたように手を振る。


「コーイチ殿がどういう考えかは知らないが、私がハッキリ断言してやるよ。これ以上、魔物の襲来はない」

「じゃあ、次はハバルの野郎が来るって言うのか?」

「そうだ。だから今のうちに後方に下がって少しは休んで……」

「……マリル?」


 退却を進言しようとするマリルの言葉が途中で止まったことに、シドは怪訝そうに眉を顰めて彼女に詰め寄る。


「おい、どうした。途中で言葉を止めるなよ。何か悪いことが起こる予兆みたいだろ!」

「……みたいじゃくて、その通りだ」


 マリルはシドの肩を掴むと、彼女の後ろを指差して静かな声で話す。


「オークキングではないが、似たような魔物が現れたようだ」

「はぁ?」

「しかも三体……いや、もっと多いな」

「な、何だって!?」


 シドが驚いて後ろを振り返ると、街の入口の方から背中に触手を生やした大型の魔物たちがゾロゾロとやって来るのが見えた。



「ほら見ろ。言った通りじゃないか!」


 シドは自信の考えが正しかったというように、マリルに避難の眼差しを向ける。


「お前が余計なことを言うから、とんでもない事態になったじゃないか!」

「それこそ結果論だろ。私が口にしなくても、奴等が来ることには変わりはないだろうが……それより!」


 思わず反論するマリルであったが、今はそれどころじゃないことに気付く。


「我々だけじゃ、あの数の敵をまともに相手にするのは流石に無理だ。ここは一度下がって皆と合流すべきだ」

「そ、それもそうだな」


 こうして口論している間にも、魔物たちの数が次々と増えて行くのを見て、シドは冷や汗を流して頷く。


「悔しいが連中を倒し切るにはあたしたちだけじゃ無理だ。全員の力を……自由騎士の力が必要だ」

「いや、まだその必要はない」

「えっ?」


 思わず顔を上げるシドに、マリルは大袈裟に肩を竦めてみせる。


「確かに連中は脅威だが、まだ我々にやれることは残されている」

「そう……なのか?」

「ああ、何を置いても命には代えられぬからな……覚悟を決めるさ」


 マリルはやって来る魔物たちを睨むと、諦観したように嘆息する。


「とにかく一度下がろう。手を打つにしても皆と合流することが先決だ」

「あ、ああ、そうだな」

「…………城さえあれば、まだ何とかなるはずだ」

「何か言ったか?」

「いや、何でもない」


 マリルは小さくかぶりを振ると、カナート王城に向かって小走りで移動し始めた。




 ※


 休むためにカナート王城へと戻った泰三であったが、元来の人の良さから困っている人を放っておくことができず、怪我人の搬送作業を手伝っていた。


「後は僕たちに任せて、ゆっくり休んでくださいね」

「すみません、自由騎士の方にこんなことを……」

「気になさらないで下さい。それよりしっかり休んで、早く元気になって下さいね」

「ありがとう……本当にありがとう」

「いえいえ」


 手当てされた怪我人を一通りベッドに休ませた泰三は、忙しく動き回っている犬と思われる垂れ耳の衛生兵に話しかける。


「あの、他に何かお手伝いできることはありませんか?」

「いえ、こちらはもう十分です。ありがとうございました」


 垂れ耳の衛生兵はニッコリと笑うと「そういえば」と人伝に聞いた話をする。


「この近くにコーイチ様が運ばれたという話を聞きました」

「浩一君が?」

「はい、聞いたところ随分とお疲れの様子だそうです。それで、よろしければコーイチ様をこちらにお連れいただければ、お食事や寝床といったものをご用意できますので……」

「わかりました」


 泰三は二つ返事で垂れ耳の衛生兵に頷いてみせる。


「それでは浩一君を連れてきますので、何か精の付くものをいただいてもいいですか?」

「はい、お任せください」

「お願いします」


 垂れ耳の衛生兵に笑顔で見送られながら、泰三は浩一を探すために城の外へと出る。



 そうして外に出たところで、


「あれっ? 空が……赤い?」


 つい先程まで青空が広がっていたはずなのに、どうしてか空が赤くなっていることに泰三は怪訝な表情になる。


「――っ、違うっ!?」


 だが、すぐさま空が赤い原因に気付いて顔を青くさせる。


「そ、空が赤いんじゃない。街が……街全体が燃えているんだ」


 火事で空が赤くなっていることに気付いた泰三は、ただごとではない事態が起きていると察して慌てて街に向かって駆け出した。

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