やったか、やってないか
ここがチャンスと見たシドは、風を切って駆けながら唖然としているマリルに向かって叫ぶ。
「マリル、ここで一気に決めるぞ!」
「き、決めるって、何かわかったのか?」
「ああ、あいつの弱点だ」
鱗粉を握り込んだ拳を掲げながら、シドは気付いたことを話す。
「オークキングは火が弱点なんだよ」
「はぁ!? いやいや、そんなわけないだろう」
シドの後に慌てて続きながら、マリルが早口で捲し立てる。
「最初にあいつは鱗粉の中で派手な爆発を起こしてみせただろう? つまり、奴は火に強いってことだ」
「ああ、そうだな」
マリルの解答に、シドは大きく頷く。
オークキングは登場時に大勢の魔物たちに鱗粉を散布させ、それを発火させるという非道な技で一気に決着を付けようとして来た。
そのことがあったから、シドもオークキングの弱点を模索する時、火を使うという選択肢を早々に除外していた。
「だが、それこそが奴の狙いだったんだよ」
「どういうことだ?」
「考えてみろ。奴は現れた時、寄生した虫が姿を見せていなかっただろう」
最初に姿を見せたオークキングは一度やられた痛々しい傷痕こそあったものの、虫に寄生されている様子はなかった。
本性を現したのは、シドが吹き飛ばして瓦礫の下敷きにした後で、そこから先はオークキングを中心に大きな爆発は起きていない。
「どちらにしても、こいつを奴の鼻っ面にぶちまけて爆発させれば全てハッキリする」
「お、おい、それでもし何もなかったらどうするつもりだ?」
「その時はまた別の手を考えるさ。倒し切るまで何度もな」
「…………」
考えると言っても、肝心なところは行き当たりばったりなことにマリルは唖然とするが、
「まあ、いいだろう。何事も挑戦してみることは悪くない」
「そういうことだ。華麗なる変身を遂げるあたしを期待してな」
「はいはい……」
呆れたように笑いながら、マリルは駆けながらシドが投げたオークの体を拾う。
「なら、せっかくだから花火は盛大に上げてやろうぜ」
ニヤリと笑ったマリルは、大きく振りかぶってオークの体を前方に向かって思いっきり投げる。
オークの体は、シドが投げた時より早く、高く飛んだかと思うと、後ろに下がり続けるオークキングを超えて地面へと落下して周囲に鱗粉を盛大に撒き散らす。
「――っ!?」
突如として空から降って来たオークを前に、オークキングは驚いたように足を止めるが、
「ブモッ!?」
足が二本増えて四本になった弊害か、後ろの足が止まり切れずに前足にぶつかり、つんのめるようにうつ伏せに倒れる。
そして、そんな致命的な隙をシドが見逃すはずがなかった。
「ハッ、馬鹿な奴だぜ!」
一気に距離を詰めたシドは、大きく跳んで鱗粉を握りしめた拳をオークキングの背中へと叩きつける。
「ウボオゥッ!」
「まだ、こんなもんじゃないぞ!」
すぐさま立ち上がったシドは、マリルが投げ捨てたオークを拾って踵を返す。
「ほら、お前の大好物だよっ!」
オークの上半身をオークキングの背中へと叩きつけると、その衝撃で鞘翅の中に入っていた鱗粉が大量に舞う。
「シド姫!」
シドがオークを叩きつけると、再び斧を手にしたマリルが走りながら叫ぶ。
「奴が起き上がる前に着火するぞ!」
「――っ、任せた!」
鱗粉を叩きつけることまでは考えていたが、着火の方法までは考えてなかったシドは、マリルに感謝しながら下がる。
「焼け死ぬような真似はするなよ」
「ハッ、そんな愚を犯すわけないだろ!」
シドが下がるのを確認したマリルは、手にした斧をオークキングに向かって投げる。
クルクル回転しながら飛んだ斧は、オークキングの眼前の石畳に突き刺さると同時に火花を散らす。
次の瞬間、火花が周囲の鱗粉へと引火して、大爆発を起こした。
「ペッペッ、死ぬかと思った」
必死に爆発の範囲から逃げたシドは、体に積もった埃を払いながら立ち上がる。
「……どうなった?」
オークキングがいた場所を睨むが、爆発の余波による砂煙が酷くて視界が殆ど利かない。
シドは頭の上の耳を忙しなく動かし、砂煙の中に怪しい動きがないかと探るが、中心にいるはずのオークキングが動いた気配はない。
「どうだ?」
警戒を続けるシドの下へ、愛用の剣を拾ってきたマリルが話しかける。
「やったか?」
「…………」
「どうした?」
いきなり顔をしかめるシドを見て、マリルは不思議そうに首を傾げる。
「何か変なことでも言ったか?」
「いや、コーイチがな……」
シドはかつて浩一から聞いた「やったか?」という台詞のフラグについて簡単に説明する。
「……というわけで、その言葉を吐いた時は大体倒せていないそうだ」
「じゃあ、奴はまだ生きているということか?」
「どちらにしても、死体を確認するまでは油断するつもりはないがな」
ゆっくりと晴れて行く砂煙の先を見ながら、シドたちは臨戦態勢を続ける。
そうして砂煙が晴れた先には、
「……ブ、ブヒ」
火傷で全身がただれ、息も絶え絶えとなっているオークキングがいた。
かつて炎に飲まれても無傷でいたはずの体は真っ黒に焦げ、無数にあった触手と、追加で増えた手足の全てが炭化して見る影もなかった。
「おいっ!」
フラフラと死に体同然となっているオークキングを見て、マリルがシドに向かって抗議の声を上げる。
「やってないんじゃなかったのか?」
「いや、実際やってなかっただろう……戦えるかどうかは別にしてな」
軽口を叩き合ったシドたちは顔を見合わせて笑い合うと、オークキングに止めを刺すために前へと進み出た。




