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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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意外な反応

「何だ……何が起こった?」


 意図ぜず振り出しに戻った状況に、シドは困惑したように自分が投げたオークを見る。


「…………」


 地面に横たわるオークは、シドに投げられた衝撃で完全にこと切れたのか、周囲に鱗粉を撒き散らしたまま微動だにしない。


 一方のオークキングは、十分に距離を取った場所でこちらを警戒するように立っている。

 ゆらゆらと触手を揺らして臨戦態勢を取ってはいるが、向こうから攻めてくる様子はない。


「どうして奴は攻めてこない……」


 あのままオークキングに押し切られたら、ある程度のダメージを与えることはできても、間違いなく触手に絡めとられていた。

 大怪我を負っても全快できるのだから、あの状況でオークキングが後ろに下がることがどうしても理解できなかった。


「まあいい……というわけにもいかないよな」


 普段のシドなら、深く考えずに運が良かったぐらいの認識で戦いに戻っていっただろう。


 だが、今回の戦いは絶対に負けられない……しかも、可能な限り無傷で勝ち切らなければならないのだ。

 完璧な勝利を勝ち取るためにも、今のオークキングの動きの理由を考えるべきだとシドは考える。


 すると、


「シド姫!」


 助けに回ると言っていたマリルが、やや遅れてシドの下へとやって来る。


「あの状況を返すとは、一体何をやったんだ?」

「いや、何もしてねぇよ」


 シドはゆっくりかぶりを振ると、状況を整理するために起きた事をマリルに話す。


「壁際に追い詰められ、玉砕覚悟で突っ込むしかないと思っていたところに、たまたまアレを拾って投げただけだ」

「オークか……」


 駆け寄りながら状況を見ていたマリルは、近くにあった赤子の頭ほどの大きさの瓦礫の破片を拾ってオークに向かって投げる。


 弧を描いて飛んでいった破片は、オークの体から這い出て来た寄生していた虫を潰す。


「確かに投げられたオークを見てビビッて逃げたように見えたが……たまたまじゃないのか?」

「そんなわけないだろう。自分より下位の存在なんて、奴にとって捨て駒同然なんだからよ」

「それもそうだな……」


 魔物の生態についてある程度認識があるマリルは、静かに首肯してこちらを警戒しているオークキングに目を向ける。


「だが、王の名を冠する魔物は、他の魔物より臆病だという報告もある。シド姫の予測不能な行動に反射的に逃げに回ったのかもしれんぞ」

「……まあ、あるか」


 かつてグランドの街の地下墓所(カタコンベ)で死闘を繰り広げたキングリザードマンも、圧倒的な強さを持ちながらその巨体に似つかわしくない臆病な一面も持っていた。


 故にオークキングも同じだと断ることは簡単だが……、


「マリル、もう一度だ」


 わからないことを、わからないままにしておきたくないと思ったシドは、マリルにある提案をする。


「この辺には、まだ生きているゾンビ共がうじゃうじゃいるはずだ。それをあいつに向かって投げてみよう」

「投げるって……もし途中で爆発したらどうするんだよ」

「だったらあたしが見つけて放るから、今度はマリルが囮になってくれ」

「えっ? あっ、おい、シド姫!」


 抗議の声を上げるマリルを無視して、シドは自分の中に浮かんだ疑念を晴らすために瓦礫の山に向かって駆け出す。



「何処だ! 何処にいる!」


 魔物が埋まっている場所を把握しているわけではないので、シドは手当たり次第に瓦礫の山を崩していく。


 爆発に気を付けながら瓦礫をひっくり返し続けていると、


「――いたっ!?」


 程なくして、下半身が瓦礫の下敷きになったゴブリンの頭部を見つける。


「チッ、ゴブリンか……まあいい」


 オークではないので完璧な状況の再現はできないが、これがダメでも次を試せばいいと、シドはゴブリンの頭を掴んで引っ張り出すと、オークキングに向かって投げ付ける。


「マリル、いったぞ!」

「わかった」


 マリルは返事をしながら斧で触手を追い払い、大きく後ろに下がる。

 同時に、マリルの背後から血しぶきを上げながらゴブリンの頭部がオークキングに向かって行く。


「どうなる……」


 手に付着したゴブリンの体液を拭いながら、シドは投げた頭部の行方を追う。



 ゴブリンの頭部は狙い違わずオークキングの手前数メートルのところに落ちるが、


「……ブモッ?」


 オークキングは「何だこれ?」という風にゴブリンの頭部を一瞥すると、増えた足で容赦なく踏み潰す。


「全然ダメじゃないか!」

「い、今のはゴブリンの頭部だったからだ。次はオークで探すからもう少し待ってろ!」


 再び攻勢に転じるオークキングを尻目に、シドは次々と瓦礫をひっくり返して瀕死のオークを探す。


「考えろ……オークだけじゃない。他にも奴が逃げる要因があったはずだ」


 肢体を探しながら、シドは先程の状況を思い出す。


「確かあの時は……無我夢中で引っ張り出したオークが……あっ!?」


 そこでシドは、ある可能性に気付く。


「いや、でも……それだと説明つかないことがある……けど」


 腑に落ちない点はあるものの、一度抱いた疑念は晴らさなければ気が済まない。


「やるだけやってみるさ」


 そこからシドは瓦礫の下敷きになったオークの死体の中でも、条件を満たしている個体を探して回る。



「違う……これじゃない……」


 幾度となく瓦礫を退け、下敷きになった魔物たちを探り続ける中、


「あった!」


 ようやく目的の個体を見つけたシドは、虫の息となっているオークを瓦礫の下から引き摺り出す。

 それは、全身が押し潰されたほぼ完全な状態の小柄なオークだった。


「……ブヒッ……」


 まだ息があるのか、ピクピクと口を動かすオークを、シドは容赦なく蹴って裏返す。


「せっかく見つけたんだ。頼むぞ……」


 願いを口にしながら、シドがオークの背中に付いた鞘翅を叩く。 

 すると、鞘翅が僅かに開いて中から可燃性の鱗粉が出てくる。「


「よし、こいつだ!」


 まだ鱗粉が出てくるのを確認したシドは、オークが持っていたであろうハンドアックスを使って腰から下を切り離すと、首根っこを掴んで引き上げる。


「マリル、今度のはデカいからぶつかるんじゃないぞ!」


 叫びながら、シドは振りかぶってオークの上半身を思いっきり投げ飛ばす。


「全く、人使いが荒い姫様……んきゃっ!?」


 必死にオークキングと切り結んでいたマリルは、背後から飛んできた巨大な影に悲鳴を上げながら慌てて飛び退く。



「……ったく」


 思わず可愛らしい悲鳴を上げてしまったことに顔を赤くさせたマリルは、呼吸を整えながらオークキングの反応を見る。


 今度も狙った通り、オークの上半身はオークキングの手前数メートルに落ちる。

 しかし今度は先程とは違い、地面に叩きつけられると同時に背中の鞘翅が壊れ、中から大量の鱗粉が出てくる。


「――ッ、ブモモッ!?」


 その瞬間、オークキングは驚いたように声を上げると、背中の触手を引っ込めて大きく後ろに跳ぶ。


「よし、思った通りだ!」


 ついにオークキングの弱点を見つけたシドは、足元に落ちている鱗粉を素早く集めて握り込むと、巨大な魔物と決着を付けるべく一気に駆け出した。

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