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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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 自分の記憶を頼りに、シドはゴブリンが持っていたナイフを探す。


「……ったく、こんなことなら下敷きにしようなんて思うんじゃなかった」


 かつての自分の乱暴な戦い方に文句を言いながら、シドは崩壊した家屋の瓦礫をひっくり返していく。



「ナイフは……あった!」


 程なくして、潰れたゴブリンの死体の脇にあったナイフを見つけたシドは、巨大な石壁を蹴り飛ばして刃こぼれしてボロボロの刃物を拾う。


 その瞬間、ナイフが地面を僅かに擦って火花が発生したのか、ゴブリンの死体が巨大な炎に包まれる。


「おわっ!?」


 驚きながらも、シドは素早く身を退いて炎に呑まれることなく脱出する。


「ま、まだ鱗粉が残ってやがるのか……」


 鱗粉による爆発を恐れて魔物たちを家の下敷きにして倒したのだが、臭い物に蓋をしただけで、足元に大量の爆弾を抱えただけなのかもしれない。


 とんでもない可能性に気付いたシドは、どうしたものかと思ったが、


「と、とりあえず、今はオークキングの方が先決だな」


 これ以上の厄介ごとは考えたくないと思考を放棄したシドは、近くの瓦礫を刺激しないようにその場から逃げ出した。



 ボロボロのナイフを手に戦場へと戻ると、既にマリルが巨大なハンマーを手にオークキングと戦闘を繰り広げていた。


「悪い、遅れた」

「気にするな。デカい音で状況は大体察した」


 気にしていないと片手を振ったマリルは、後ろに跳んでハンマーを勢いよく振り下ろす。

 地震かと思う程の地響きを上げて振り下ろされたハンマーは、複雑な動きで迫る五本の触手を見事に触手を捉える。


「おおっ!」


 あっさりと触手を押し潰すマリルの手際に、シドが感嘆の声を上げる。


「やるじゃないか」

「当然だ」


 マリルはこの程度なら造作もないと肩を竦めると、ハンマーを持ち上げて後ろに下がる。


「……どうだ?」


 シドは戦果を確認するように、ハンマーが振り下ろされた場所を凝視する。

 そこには潰され、中に詰まっていたと思われる黄色い液体を滴らせている平たくなった触手があった。


「…………やったのか?」

「いや、残念ながらやってない」


 マリルがかぶりを振ると、潰された触手がスルスルと地面を這いながらオークキングの元へと戻ると、一際大きく膨らんだ後、サイズを修正するように震えながら元通りに復元する。


「断ち切っていないからか、ああやって回収されるとすぐに回復するんだ」

「じゃあ、押し潰す作戦は失敗か?」

「いや、そうでもない」


 マリルはハンマーをぐるりと回して肩に担ぐと、オークキングの頭上でゆらゆらと揺れている触手を指差す。


「確かに回復は斬るより早いが、命令系統がイカれるのか、潰れた側の触手は暫く遅くなるんだよ」

「そう……なのか?」

「ああ、だから私一人でも問題なく対処できたのだ。今ならシド姫のそのふざけた武器でも楽に立ち回れるはずだ」

「そうか、わかった」


 マリルの見立てを聞いたシドは、背中に背負っていた彼女の剣を一時的に返却すると、身軽になってナイフ片手に前へと出る。


 重さを確認するようにシュッ、シュッと素早くナイフを振ったシドは、刃をクルリと回して逆手に持つ。


「コーイチとはスタイルは違うけど……まあ、見せるわけじゃないからな」


 軽く素振りをして可動域を確認したシドは、姿勢を低くして地面を滑るように駆け出す。



「ブモッ!」


 正面から突撃してくるシドに、オークキングは背中の触手を一斉に動かす。

 だが、マリルのハンマーによって潰された方の触手は明らかに反応が鈍く、緩慢な動きでその場でゆらゆらと揺れているだけで、攻めてくる気配はない。


「……なるほど」


 マリルが言った通りの展開になっていることを理解したシドは、遅い方の触手を忘れて自分に迫る方へ注力する。


「片方だけなら……」


 触手の動き自体は既に何度も見て理解しているので、シドは迫る触手を前に出ながら紙一重で回避すると、逆手に持ったナイフを走らせる。


「グッ……」


 ボロボロの刃のため、簡単には両断できなかったが、


「おらああああああぁぁぁ!!」


 シドは力任せにナイフを振るって二本の触手を両断してみせる。


 だが、元がボロボロの刃だった為か、三本目の触手に触れた時点で、ナイフの刃が半ばから折れてしまう。


「ゲッ、っとと……」


 急に腕への負担が無くなったため、シドはバランスを崩して倒れそうになるが、どうにかたたらを踏んで転ぶのだけは避ける。


「ふぅ……」


 転ばなかったことに、シドは思わず溜息を漏らすが、


「馬鹿! 一息ついている場合か!」

「わかってるよ!」


 マリルから厳しい声がすぐさま飛んできて、彼女は折れたナイフを捨てて慌ててその場から飛び退く。


 直後、シドがいた場所に無事だった触手が突き刺さり、さらに緩慢な動きしかできなかった触手が次々と襲いかかってくる。


「ちょっ!? き、聞いてないぞ!」


 余裕の状況から一転してピンチに陥ったシドは、必死に足を動かして迫る触手を紙一重で躱していく。


「お、おい、マリル。聞いてた話と違うぞ!」

「何を言っている。だから暫く遅くなると言っただろう」

「そうだけどさ!」

「今助けに行く。だからそれまでどうにか耐えるんだ」

「わ、わかった……うひぃ!?」


 シドは切れ味抜群のマリルの剣を返却したことを激しく後悔しながら、どうにか迫る触手たちを回避していく。



「クッ……このっ……あぐっ!」


 だが、数十本にも及ぶ触手全ての攻撃を回避し続けるのは決して容易ではなく、這う這うの体で逃げるシドは直撃こそ受けることはないが……、


「しまっ!?」


 逃げることに専念し続けていたので注意力が散漫になっていた所為か、シドは逃げ場のない瓦礫の山へと追い込まれてしまう。

 壁を背に立つシドに、ようやく獲物を追い詰めたと触手たちが彼女を包囲するように立ちはだかる。


「クソッ、何か……何かないのか?」


 追い込まれたシドは、視線を忙しなく動かして状況を覆す術を探す。


 そうして、視界の隅に光るものを見えたシドは、


「ええい、ままよっ!」


 祈るような気持ちで飛び込んで、がれきの下にあった何かを手繰り寄せる。



 そうしてシドの手に飛び込んで来たのは、瓦礫の下敷きになり、胸部から上が残った死に体同然のオークだった。


「ブ、ブヒ……」


 体の大部分を失ってもまだ生きているオークがうめき声を漏らすと、背中の鞘翅からパラパラと鱗粉が落ちる。


「うぎゃっ!? そ、それだけは止めろ!」


 火が触れれば大爆発を起こす鱗粉が舞い上がるのを見たシドは、奇声を上げながらオークの上半身を触手たちに向かって投げる。

 上位種であるオークキングは、自分より下位のオークの死体になど目もくれずにシドへと襲いかかる。


 そう思われたが、


「……えっ?」


 どういうわけか、触手たちは飛んできたオークを忌避するように避けると、そのままスルスルと本体へと戻っていった。

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