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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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やるべきことを……

 シドは一度息を吐いて呼吸を整えると、再生していくオークキングを見ながら話す。


「確かにああいうバケモノは、あたしたちよりコーイチやタイゾーの方が向いているだろう」

「それがわかっているなら何故そうしない? 適任者に託すことの何が悪いのだ?」

「悪くない……悪くないさ」


 目の前の勝利を確実に取りに行こうとするマリルに、シドは苦しそうに自分の胸を抱いて思いを吐露する。


「だけどそれじゃあ、あたしが成長できないんだよ」


 獣人王の娘として、余りある才能を活かして戦ってきたシドにとって、地下遺跡での虫人との戦いでの敗北にも近い戦果は衝撃的であった。

 泰三の登場で事なきをえたが、あっさりと自分が苦戦した虫人を倒す自由騎士の力に、シドの中にある疑念が浮かんだ。


 今のままで、自分は最後まで戦い抜くことができるのだろうか?


 ハバル大臣や混沌なる者の分体というこれまでとは比べものにならない強敵を前に、前哨戦ですらない虫人の一体に追い詰められてしまった。

 ただ、あの時は守るべき家族の下へペンターに先行されたという焦りがあったということもあり、冷静さを欠いていた。


 敗戦の反省を活かし、今回はゾンビ化した魔物たちを前に冷静に、上手く立ち回って圧倒することができた。

 だが、ただでさえタフな上に、再生能力を持つオークキングという力押しだけでは倒せない敵の登場は、シドにとって大きな壁となった。


「今まであたしの手に負えない敵が現れる度に、コーイチに助けられてきた。何度も、何度もな……」


 代わりに浩一が苦手な相手の時は、シドが前に出て彼を助ける。

 そうやって互いに支え合ってやって来たし、上手くやれているつもりでいた。


「だから今もあたしの中ではコーイチならば、コーイチに頼ればという考えが常にある」


 しかし、それは本当に対等の関係だっただろうか?


 シドと一緒に浩一が倒してきた敵は、キングリザードマンをはじめ、多くの者たちが恐れおののき、一筋縄ではいかない強敵ばかりだった。


 結果として今にも死にそうになっている浩一を見た時、シドは自分の考えの浅さに愕然とした。


「あたしはコーイチに背中を預けて対等でいたつもりだったのに、実際はヤバイ敵を押し付けるばかりで、コーイチに寄りかかって頼り切っていたんだ」


 二人の関係は、公私ともに対等でありたい。

 浩一がそう願うように、シドもまたそれを強く願っていた。


「コーイチはどれだけ追い詰められても、諦めずに立ち向かって最後に盤をひっくり返すんだ。それがあいつにできて、あたしにできないはずなんてない」


 ここがきっと今後の命運を決める分水嶺になる。


 シドはそのことを強く感じていた。


「ここで逃げたら、あたしはまたコーイチに頼ることになる。それであいつが死んだら、あたしは自分が死んでも許せない。だから……」

「ここであのバケモノを倒して、一皮剥けようというのか?」

「そうだ」


 策はないし、倒せる保証もない。

 だが、だからといって誰かに託して逃げることは、もうしたくなかった。


「別にマリルが付き合う必要はない。あたし一人で奴を倒す術を見つけて、実行するだけだ」


 シドはマリルに「これは借りるぞ」と言って彼女の剣を手に前に出る。


 すると、前に出たシドの隣に巨大な影が並ぶ。


「私も女だからという理由で、常に下に見られていた過去がある」

「へぇ……それで、騎士団長様はどうやって評価をひっくり返したんだ?」

「単純な話だ。勝てるまで何度も挑んだ。諦めることなく何度も……何度も……」


 マリルは「フッ」と鼻を鳴らして笑うと、腰を落として斧を構える。


「というわけだ。たまには泥にまみれるのも悪くないだろう」

「いいのか?」

「構わない。手伝ってやるから、この戦いで少しは成長してみせろよ」

「そのつもりだ」


 シドはニヤリと笑ってみせると、完全に回復して臨戦態勢を取っているオークキングに向かって走り出す。



「それで、どうするつもりだ?」


 シドの後に続きながら、マリルが彼女に問いかける。


「また同じ手で挑むつもりか?」

「いや、短期決戦は諦める」


 シドは浩一がオヴェルク将軍から教わっていたことを思い返しながら、取るべく作戦を伝える。


「まずは情報集めだ。オークキングに何が弱点がないかを探る」

「随分と消極的だな」

「かもしれん。だが、敵を知るということはとても重要なこと……だそうだ」


 普段は敵を知るより早く倒していたので、情報を集めることにどんな意味があるのかと思うシドであったが、


「やることを全部試すんだ……全部」


 ここで変わってみせるという決意を口にすると、オークキングが伸ばしてきた触手を剣で斬り伏せる。



 バラバラと落ちていく触手を見ながら、シドは早くも再生し始めているオークキングの触手を観察する。


「再生しても強度は変わっていない……なら他には」

「斬るだけではなく、潰すのはどうだ?」


 シドに続いて、触手の露払いをしていたマリルから提案が飛んでくる。


「見たところ切り口が綺麗すぎる方が再生が早いような気がする。ならいっそのこと、傷口をぐちゃぐちゃにしてやるのはどうだ?」

「それだ!」


 思わぬ妙案に、シドはパチン、と指を鳴らしてマリルを指差す。


「あっちにオークが持っていたハンマーがあったはずだ。それに、ゴブリンがたち持っていた刃がボロボロのナイフを使うのも悪くない」

「よし、それじゃあハンマーの方は私が受け覆うとしよう」


 そう言うなり、マリルはシドが指差し画法へと駆けていく。


「よし、ならあたしはナイフの方だな」


 ゴブリンがいたと思われる方を見ながら、シドはこちらの様子を伺っているオークキングを睨む。


「見てろ……やれることを全部やって、完膚なきまでお前を殺し尽してやるからな」


 変わるための手応えはまだ何も感じてはいないが、それでも必ずきっかけを掴んでみせると、シドは全方位に目を配りながらゴブリンがいた場所に向かって駆けていった。

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