変わる時、成長を見せる時
「な、何と……」
何事もなかったかのように再生してウネウネと蠢く触手を見て、マリルは兜の中で驚愕に目を見開く。
「斬られた傍から再生するとは、一体どのような仕組みなのだ?」
「わからんんし、わかりたくもない」
元より考えることが得意ではないシドは、オークキングの再生能力について考えるより、次に自分がすべきことを考えていた。
「とにかく……触手とじゃれ合っていたらいつまで経っても終わらん」
「なら、次は触手を無視して本体だな」
「そういうことだ」
次にやるべきことを確認したシドは、斧を拾ってマリルに投げながら話す。
「あたしが前に出て斬りかかるから、マリルは触手を蹴散らしてくれ」
「ああん? どうして私が……」
「何言ってんだ。さっき助けてやったんだから、あたしに華を持たせるのが筋だろ?」
「うくっ……わ、わかったよ」
それを言われると弱いのか、マリルは不承不承というように頷いて先を行くシドの後に続く。
「いくぞ!」
後ろからマリルが付いてくるのを確認したシドは、再生した触手を蠢かせているオークキングに突っ込んでいく。
「ブルワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!」
真正面から攻めてくるシドに、オークキングは両肩から触手をシドに向かって一気に放つ。
「ハッ、舐めるなよ!」
迫り来る触手に対し、シドは下がりながら剣を振るって斬り捨てる。
「斬るだけなら、一度感触を掴めば簡単なんだよ!」
そうして返す刀でもう一度触手を両断してみせると、一気に前へと出る。
「やり方は見せたから続いてみせろ!」
見本を見せたことでマリルも触手を一撃で両断すると踏んだシドは、オークキングを翻弄するように左右にステップを踏みながら前へと出る。
「ブルル……」
一転して変則的な動きを見せるシドに、オークキングは戸惑ったように首を巡らせるが、
「ブモオオオオオオオオオオオオオオォォォォン!」
考えるのが面倒と思ったのか、まだ無事な触手を左右に展開してシドを包囲するように動かす。
だが、それこそがシドの狙いであった。
「来るぞ。しくじるんじゃないぞ!」
「わかってる!」
シドの挑発するような言葉に、マリルは彼女に左側から迫る束となっている触手に勢いよく斧を振り下ろす。
「おらああぁぁ!」
雄叫びを上げながら振り下ろされた斧は、ブチブチと音を立てながら次々と触手を貫通していき、数本の束を一気に両断してみせる。
「ほらっ、お膳立てしてやったんだから、いいところ見せろよ!」
「当然!」
片側の触手がなくなって遮るものが無くなったのを見たシドは、反対側から来た触手を置き去りにしてオークキングへと突進する。
「ブモッ!」
突進してきたシドに、オークキングは四本の腕を振り上げる。
だが、
「遅すぎるぜ!」
強く踏み込んでさらに速度を上げたシドは、両手を上げているオークキングに肉薄すると、すれ違い様にオークキングの右側の腕を二本斬り飛ばしてみせる。
「ブギャアアアアアアアアアアアアァァァ!!」
腕を斬り飛ばされたオークキングは、悲鳴を上げながら触手を無茶苦茶に動かすが、その時には既にシドは攻撃範囲から逃れていた。
「ヘッ、どうだっ!」
安全な位置まで退避したシドは、同じく距離を取っているマリルにニヤリと笑ってみせる。
「お望み通りデカい一撃を喰らわせてやったぜ」
「ああ、流石だな」
最上に近い結果を引き出してみせたシドに、マリルは手を叩いて出迎えながらオークキングを見やる。
「さて、どうなることやら……」
触手は再生したが、まさか腕までは再生しないだろう。
そう思っていたが、
「んなっ!?」
「まさか……」
シドたちの目に、オークキングの斬られた日本の右腕がボコボコと泡立つのが見える。
「クソッ、再生する前に……」
「待て、シド姫!」
再び前に出ようとするシドを、マリルが肩を掴んで止める。
「もう遅い。今行っても復活した触手に阻まれるだけだし、同じ手が通用するとは限らない」
「それは……そうか」
冷静なマリルの声に、シドも冷静になって肩の力を抜いて小さく頷く。
オークキングを見やると、斬られた傷口がボコボコと泡立ちながら、新たな二本の腕が生えてくるのが見える。
流石に触手ほどの素早い再生はできないようだが、元の姿に戻るのは時間の問題だろう。
本当なら今すぐ追撃を仕掛けるべきなのだろうが、オークキングは再び再生した触手をゆらゆらと漂わせながらシドたちを警戒している。
「チッ……忌々しいやつだ」
全方位をカバーするように触手を振り回すオークキングを見て、シドは吐き捨てるように舌打ちをする
既に手の内を一度見せてしまった以上、同じ手が通じるほど甘くはないだろう。
シドもマリルも真正面から打ち貫くのが得意で、搦め手を使っての戦いは苦手としており、次の手がポンポン出てくる器用でもなかった。
そうこうしている間にオークキングの腕は肘の辺りまで再生が進んでおり、もう間もなく新しい腕が生え変わりそうだった。
「マズいな……」
無駄に時間が過ぎていくことに、シドは苛立ちを紛らわすように爪を噛む。
「一つ言えることは、あたしたちじゃ……今の戦い方では勝てないってことだ」
「それは……そうだな」
自分たちの力押し一辺倒の戦い方では、触手を潜り抜けてオークキングに攻撃を当てても、倒し切れなかったらチャンスが一転してピンチになりかねない。
「だが、どうする? 今から人数を集めて戦うにしても犠牲者がいくら出るかわからないし……そんな手は流石の私も使いたくない」
「当然だ。そんなのは外道のする最低の行為だ。無駄な犠牲はなしだ」
人数をかけたところで倒せる保証はない。
それにシドたちがオークキングと二対一で戦えるのは、他の者たちがそれぞれの場所で必死に戦ってくれているからだった。
「…………」
「…………」
早く次の手を考えなければんらないのだが、互いに有効的な方策が見つからず、二人の間に沈黙が続く。
「…………潮時か」
硬直した状況に、マリルが先に動く。
「シド姫……このままでは勝てる見込みはない」
二人ではこれ以上の善戦は難しいと判断したマリルは、シドに次の作戦を提案する。
「やはりここは恥を忍んでコーイチ殿は無理でも、せめてタイゾー殿に援軍を……」
「それだけは絶対にダメだ!」
マリルの提案をシドは激しくかぶりを振って一蹴する。
「まだ諦めるには早すぎるだろう。まだ……あたしたちはまだ全てを試していない」
「全てを試していないって……じゃあ、どうするのだ?」
「わからない……わからないから考えるんだよ」
シドはマリルの兜の奥の目を真っ直ぐ見つめながら真意を話す。
「あたしたちはどうしようもないバカだが、バカでもバカなりに必死に考えるんだよ!」
それは本能の赴くまま戦い、圧倒的な才能で勝利を積み重ねて来たシドが変わろうとした瞬間だった。




