僕だってやれるはず
「ふっ!」
短く息を吐きながら泰三が横に薙ぐように長槍を振るうと、三体のオークの首が一斉に飛ぶ。
寄生された魔物を倒すのに延髄を切らずとも、首を刎ねれば同じということで泰三は研鑽を重ねて得た技術を持ってゾンビと化した魔物たちを屠っていた。
「すみません、後始末をお願いします」
血を噴いて倒れるオークたちには目もくれず、泰三は体内に残った寄生虫の始末を獣人の戦士に任せて次の獲物目掛けて駆け出す。
最初の飛んできた虫人にディメンションスラストスローを投じて以降、泰三は最前線で戦い続けていた。
グランドの街の自警団をまとめるクラベリナに憧れ、彼女に師事を得ながら誰よりも努力を重ねて来た泰三は、既に並の獣人の戦士たちを凌駕するほどの実力をもつ一角の戦士になっていた。
「はぁ……はぁ……次!」
全身の火傷によって動きが遅くなっている魔物たちを再びまとめて薙ぎ倒した泰三は、流石に疲れの色も見えたが、それでも止まることなく動き続ける。
「わ、わああああぁぁ!」
「――っ!? いけない!」
近くで戦っている誰かの悲鳴に、泰三は顔を上げてすぐさま声のした方へと駆け出す。
「はぁ……はぁ……ど、何処だ?」
だが、周囲は火事による煙で視界は悪く、戦闘はそこかしこで繰り広げられているので、救出に向かおうとも、何処に行けばいいのかわからない。
「こんな時、浩一君がいてくれたら……」
アラウンドサーチを使って周囲の状況を確認できるのにと思う泰三であったが、浩一が自分よりさらに奥で戦って頑張っていることを思い出し、彼に頼ろうとした弱気な考えを振り払うようにかぶりを振る。
「僕だって浩一君みたいに……」
どれだけ追い詰められても諦めず、誰かを守るためなら実力以上の力を発揮する。
そんな浩一に密かに憧れている泰三は、どうにかして自分で状況を切り拓きたいと思っていた。
「何処ですか? 僕の声が聞こえたら声を上げて下さい!」
もう一度情報を集めようと思った泰三は、助けを求めていた者へ大きな声で呼びかける。
「何でもいいです。もう一度声を上げて下さい!」
だが、敵味方が入り乱れる最前線で、自分の位置を周囲に知らしめるような大声を上げたのは間違いであった。
「お願いします。声を……」
声を上げ続ける泰三のすぐ近くに、地響きを上げて巨大な影が空から舞い降りて来る。
「ブモ、ブモオオオオオオオオオオオオオオォォォォン!」
「なっ!?」
突如として現れた二メートルを超える巨大な影に、泰三は目を見開いて驚く。
「お、大きい……もしかして、こいつがオークキング?」
浩一から倒したはずのオークキングが復活したという話を聞いていた泰三は、気を取り直して長槍を構える。
「こいつを倒せば、きっと魔物たちも打ち止めになるはず」
ボスの登場に、気合を入れ直す泰三であったが、
「ブモオオオオオオオォォォン!」
「キシャアアアアアアアァァァッ!」
「ギャッギャッ!」
オークキングの声に呼応するように、次々と魔物たちが泰三の前に現れる。
その数はみるみる増えていき、あっという間に泰三は十数体の魔物たちに囲まれてしまう。
「……まだ、こんなに残っているのか」
流石に一人で相手するには多過ぎる数の魔物たちを前に、泰三は冷や汗を浮かべる。
「でも、ここで退く訳には……」
これ以上後ろに下がれば、残っているのはカナート王城だけだ。
城に火の手が回ることがあれば、カナート王国の復興は絶望的に遠のくし、その先は可燃物で溢れているエルフの森しかない。
故に、何としても爆発する魔物たちは街中で食い止めるべきだと泰三は考えていた。
「ここはやはり、ディメンションスラストで一気にオークキングを……」
頭を潰せば魔物たちの統制が瓦解して、残りの魔物も一気に打ち崩せるかもしれない。
そう考えた泰三は、多少無茶をしてでも一気に前に出てオークキングを倒そうと画策する。
そう思った矢先、
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!!」
オークキングが天に向かって雄叫びを上げたかと思うと、泰三の周りにいた魔物たちが一斉に足を止める。
「な、何だ……」
困惑する泰三の目に、集まった魔物たちの背中が一斉に開くのが見える。
「ま、まさか……」
自分一人を倒すためだけに、ここにいる魔物全員を巻き込んで爆発させるつもりか?
現れた多くの魔物はゴブリンやオークといった爆発に耐性がない魔物で、これまで泰三も火傷で全身の皮膚が爛れ、殆ど死に体同然のオークたちを数多く屠って来ていた。
いくら虫に操られているとはいえ、命令一つで自爆を強要されるのは堪ったものではないと泰三は考える。
「ブヒッ、ブモッブモッ」
非情な命令を下したオークキングは、狼狽する泰三を見て鼻を鳴らし、手を叩いて嘲笑う。
「あ、あの野郎……」
泰三が額に青筋を立ててオークキングを睨むが、醜悪な魔物を逆に喜ばせるだけであり、今はそれどころではない。
「ど、何処かに退避しないと」
ぐるりと視線を巡らせて逃げ道を探す泰三であったが、一体や二体の魔物を蹴散らしたところで包囲網を抜けられる様子ではなかった。
「クッ、こんなところで……」
絶体絶命の状況に泰三が悔し気に歯噛みするのと同時に、
「ブモッ、ブモオオオオオオオオオオオオオオォォォォン!」
オークキングが雄叫びを上げながら手にした斧を石畳に叩きつけて火花を発生させると、周囲に撒き散らされた鱗粉に引火して大爆発を起こした。
「…………」
爆発に巻き込まれた泰三は死を覚悟した。
「…………あれ?」
せめて少しでも助かる可能性を上げようと地面に伏せたのだが、やって来るはずの熱や衝撃波はやって来ない。
「まさか、浩一君?」
親友が助けに来たのかと顔を上げる泰三であったが、
「いや、違うぞ」
「残念だが、コーイチの出番は当分なしだ」
そこには泰三を庇うように巨大な瓦礫を盾のようにして持つ、シドとマリルが不敵な笑みを浮かべて立っていた。




