伝わらない話
不意を突いて虫人を攻撃した俺とロキは、一先ず影の中に身を潜めて連中が動かなくなったのを確認してから再び姿を現す。
「どうだ。上手くいったか?」
「わんわん!」
おそるおそる倒れている虫人たちを見る俺に、ロキから「こっち見て!」と言われたので、そちらの方へと目を向ける。
「あっ……」
うつ伏せに倒れた虫人の腰あたりから血が溢れ出したかと思うと、中から血塗れの虫が出てくるのが見えた。
どうやら宿主が動かなくなったからか、中から寄生した虫が這い出て来たようだ。
「ギッ……ギギッ」
「ガウッ!」
ゆっくり出てきた虫を、ロキは足を振り下ろして容赦なく踏み潰す。
ついでにもう一人の虫人からも寄生していた虫が出て来ていたので、こちらもロキが同じように潰して黙らせる。
「ふぅ……どうやら読み通りだったみたいだな」
「わんわん」
「うん、ロキも完璧だったよ」
事前の打ち合わせ通りに動いてくれたロキに感謝していると、
「コーイチ!」
マリルさんと一緒に逃げていたはずのシドが踵を返して来て、俺たちの近くに倒れている虫人へと目を向ける。
「お、お前たち、そいつ等を倒したのか?」
「ああ、実は寄生した虫のある特性に気付いてね」
後ろからマリルさんもやって来るのが見えたので、俺は寄生虫たちの特性について話す。
「虫が寄生したゾンビと言っても、動かす仕組みは生物だったってことだよ」
「……どういうことだ?」
「死体であろうと動かすには、動かすための要を押さえる必要があるというわけさ」
そう言って俺は自分で攻撃した箇所、虫人の首の後ろ……人で言う延髄を指差して自身の考察を披露する。
「生物は脳から出た命令を脊髄を通して体を動かしているんだけど、指令そのものは別に脳からでなくても同じような信号でも可能なんだ」
死体に寄生した虫人は、体のコントロール権を得るために触手を伸ばして疑似的な脊髄を構築し、自分自身を新たな脳にして身体を操っているのだ。
「だから虫人を倒すもう一つの方法は、伸ばされた偽の脊髄を破壊する……特に全身の神経が集まる首の後ろを攻撃すれば、行動不能にすることができるんだ」
状況も状況なので手早く一気に説明した俺は、シドたちの反応を待つ。
だが、
「……おい、わかったか」
「いや、さっぱりだ」
口を「へ」の字にして額を押さえるシドだけなく、マリルさんも呆れたようにかぶりを振る。
そ、そんなに分かりづらかったかな?
「まあ、でも倒し方だけは分かった」
落胆する俺に、マリルさんは「気にするな」と言うように肩を叩いてくる。
「要するにあいつ等は首の後ろを刈り取れば、倒せるということだな?」
「えっ? ま、まあ、そうです」
「なら、それだけで十分だ」
マリルさんは大きく頷くと、金色の兜をぐるりと回して仲間たちに声をかける。
「聞いての通りだ。次から狙いは胴から首に変える。それに合わせて隊列も変えるぞ。まずは……」
「…………」
少々不本意ではあるが、一番大事な情報は伝わったのでよしとしよう。
ただ、シドはともかく、どうやらマリルさんも脳味噌まで筋肉でできているようなタイプのようで、最初から理解する気がなかったような気もしなくもない。
ロキだって俺の説明でちゃんと理解してくれたんだけどな……、
そんなことを思っていると、マリルさんが首をこちらに向けて不思議そうに首を傾げる。
「どうした? まだ、何かあるのか?」
「……いえ、何でもないです」
自分の伝達能力の未熟さを思い知った俺は、部下に説明しているマリルさんの邪魔にならないようにと、少し移動してシドに気になっていたことを尋ねる。
「ねえシド、そういえば泰三は何処に行ったの?」
「ああ、あいつなら兵士たちの悲鳴を聞いて助けに向かったぜ……って噂をすればほら」
シドが指差す先へと目を向けると、百メートルほど先の曲がり角から、助けて来たと思われる獣人たちと退却してきた泰三の姿が見えた。
「おおっ!」
流石は泰三、と言おうと思ったが、現れた三人の様子が何やらおかしいことに気付く。
やたらと背後を気にしていると思ったら、泰三たちが現れた通路の先から、巨大な影が彼等を追いかけるように現れたのだ。
「あ、あれは……」
地面に這いつくばり、六本の足をわしゃわしゃ動かして現れたのは、何やら後ろの二本の足がやたらと長い異様なフォルムの虫人だった。
「な、何だあれは……」
「カマドウマ型の虫人だ。タイゾーから散々気味が悪いと聞かされたから、もう驚く必要はないぞ」
「さ、さいですか」
カマドウマ型の虫人は初見なのだが、虫が苦手な泰三が相当派手なリアクションをしたのか、シドの辟易したような態度を見て俺は一気に冷静になる。
敵の姿に忌避感を抱いたところで、逃げるわけにはいかないのは変わらないので、俺は前へと出てこちらに気付いた様子の泰三に向かって叫ぶ。
「泰三、そいつは虫に寄生されているが、動いている仕組みは生物と一緒だ!」
「……浩一君?」
「死体に寄生した虫が脳の役割を果たしているだけだ。だから行動不能にするなら……」
「わかりました!」
皆まで言わなくても俺の言いたいことを理解した泰三は、二人の獣人たちを先に行かせて自分だけ振り返る。
「ギシャアアァ!」
急に立ち止まった泰三に対し、カマドウマ型の虫人は前脚にあたる右手の一本を勢いのまま振り下ろす。
「見え見えです。パリィ!」
真正面からの攻撃に対し、泰三は後ろに下がりながらランサーの第一スキルであるパリィを使ってカマドウマ型の虫人の攻撃を横へと受け流す。
「ギシャッ!?」
攻撃をパリィされたカマドウマ型の虫人は、自由騎士のスキルの効果もあって体勢を大きく崩す。
同時に泰三は素早く横に移動して脇の建物の壁を蹴って大きく跳ぶと、カマドウマ型の虫人の背後を取る。
「はああああぁぁっ!」
雄叫びを上げながら、泰三は長槍で空中に弧を描くように素早く振る。
空気を切り裂くように槍が振るわれると、カマドウマ型の虫人の首の後ろから血が噴水のように勢いよく吹き出し、異形のバケモノは糸が切れた操り人形のようにバタリと倒れる。
「よしっ!」
見事に弱点を突いてカマドウマ型の虫人を圧倒するのを見た俺は、泰三に中から寄生した虫が出てくるからそれを潰すように指示しながら、やはり俺の伝え方が悪いというより、シドたちの理解力の問題だと思い直すことができて密かに胸を撫で下ろした。




