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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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戦果を確認する

 俺が突き出したナイフは、いつも通り何の手応えもなくナイフが根元まで埋まるが、そこから先は少し違った。


 いつもなら黒いシミを中心に相手を切り裂くことができる亀裂がいくつも走るのだが、今回は一本、臀部から脳天に向かって伸びる線だけだった。


 どうして亀裂が一本だけなのかはわからないが、迷っている暇はない。


「うおおおおおおぉぉぉっ!」


 俺は雄叫びを上げながら手に力を籠め、亀裂に沿って一気にナイフを走らせる。

 虫熊が俺より体格のあるため、最後は飛び上がるような形になったが、俺が黒い亀裂を走り切ると同時に、巨体の動きがピタリと止まる。


 …………やったか?


 相手が殺しても死なないゾンビである以上、安易に結論を出すわけにもいかないので、思わずやっていないフラグを立ててしまう。


 だが、ここまでの経験上、やはりあれは物語の中だけの話で、実際にそう都合よく倒し切れないなんてことはない……はずだ。

 心の中で「そのまま倒れてくれ」と必死に願っていると、虫熊の体がゆっくりと傾き、そのまま地響きを立ててうつ伏せに倒れる。



「…………」


 暫く無言のまま睨み続けてみるが、虫熊が再び動き出す様子はない。


「…………ふぅ」


 ようやく不気味な獣を倒せたと、俺は大きく息を吐く。


 そう思った瞬間、虫熊の体が大きくビクリと震えたかと思うと、背中の鞘翅が開き、視界を覆う煙のようなものが大量に。


「……えっ?」

「わん!」


 何事かと思って虫熊へと目を向けた途端、何かに気付いたロキが「危ない!」と鋭く声を察して俺に突撃してくる。


「ロキ?」


 まさか、自分の身を挺して俺を庇うつもりか?


「やめ、うげぇっ!?」


 それだけは止めて欲しいと思った瞬間、ロキは俺のすぐ脇を通り過ぎて襟首を咥えて走る。


 なるほど、それなら自分も俺の身の安全も確保できるわけだ。

 だが、


「ぐ、ぐるじぃ……」


 今から姿勢を直す余裕がないのは重々承知しているが、首がきっちり絞まっているので、このままでは数十秒ともたずに意識が飛んでしまう。

 せめて少しだけでも呼吸ができるように、何かできることはないかと思っていると、倒れている虫熊の体が赤く発行するのが見える。


 ま、まさか、苦労して倒したと思ったら、最後に自爆するつもりなのか?


 だとしたら背中の鞘翅が開き、体内に残った鱗粉を全て吐き出したのも納得できる。

 光はみるみる大きくなり、赤から白へと変わったかと思うと、俺の視界が真っ白に塗り潰される。


「――っ!?」


 またかよ! と心の中で盛大に愚痴りながら、俺は続いてやって来た衝撃波と熱風にもみくちゃにされながら、怪我をしないように体を丸めて一刻も早く嵐が去るのを待ち続けた。




 二度目の爆発は撒かれた鱗粉の量が少なかったからか、最初ほどの酷い爆発にはならなかった。


「……ぷはっ!?」


 埋もれた砂の中から飛び出した俺は、一先ず肺の中に空気を目一杯取り込んで一息ついてから、すぐ近に感じる温もりへと話しかける。


「ロキ、助かったよ。ありがとうな」

「わふっ」


 立ち上がったロキは「気にしてないよ」と軽い調子で言うと、体を思いっきり振って体に付いた砂を振り払う。


「わぷっ……」


 すぐ近くにいた俺は、ロキが払った砂を思いっきり浴びてしまい、口にも盛大に砂が入ってしまう。

 砂を払う前であったので被害はそれほどではないが、せめて払う前に何か言って欲しかった。



「ロキ?」

「……わふぅ」


 俺の声でこちらの惨状に気付いたロキは、しまったという風に目を見開いた後「ごめんね」と甘えた声を出しながら俺の顔を舐めて来る。


「きゅ~ん」

「あ、ああ、大丈夫。別に怒ってないから。それに、ロキの舌に砂が付いちゃうから」


 俺は怒っていないことをアピールするように笑ってみせると、水袋を取り出しロキの舌に付いた砂を取るついでに水分補給をしてもらう。


 ロキに水をやりながらついでに自分も水分補給した俺は、虫熊の死体へと目を向ける。


 周囲にあった樹木が跡形もなく吹き飛ぶほどの爆心地にいたにも拘らず、やはりというか虫熊の死体は原型を留めたまま黒ずんだ地面に横たわっていた。


「ど、どんな身体構造をしてるんだよ」


 自分の身体から出た鱗粉が爆発したのだから、それが原因で死ぬことはないという理屈もわからなくはないが、地下に現れた虫人は爆発によって死んだことを考えると、この魔物化した熊が特別な存在だという可能性は十分ある。


「……一応、死体を調べておくか」

「わんわん」


 ロキからの「気を付けてね」という声に頷いた俺は、念のためにアラウンドサーチを使い、赤い光点が浮かび上がらないのを確認してから虫熊の死体へと近付く。



「うわぁ……」


 この世界に来て、それなりに死体を見ることに耐性ができていると思っていたが、思わず声が漏れるほどの悪臭に、俺は鼻を摘まんで布を取り出して口を覆う。

 悪臭が完全に消えるわけではないが、これを付けると死体漁り(スカベンジャー)としてのスイッチが入るのか、酷い環境でも普通に立ち回れるような気がする。


「ふぅ……」


 深呼吸を一つして気を落ち着けた俺は、何より気になっている虫熊の臀部へとナイフを突き立てる。


 バックスタブのスキルを使っていないので、死後硬直が始まって既に固くなっている肉の繊維を引き裂くように切り開き、中にいた寄生した虫を取り出す。


「うへぇ、気持ち悪い」


 中から出てきたのは、見たこともない真っ白な虫だった。


 無数の足を持つ虫を見た最初の印象は、子供の頃に図鑑で見た三葉虫に似ていると思った。


 だが、クワガタムシを思わせるような角なのか牙なのかよくわからないギザギザの器官と、不釣り合いなほど大きな赤い目玉は、虫というより地球外生命体かと思ってしまう。


 一応、噛まれないように気を付けながら引き摺り出すと、胴体の部分に俺がナイフで突き刺した穴の開いた空間が現れる。


 さらに全容を確認しようと引き抜くと、


「な、何だこれ……」


 そこで俺は、異様な光景を目の当たりにする。

 虫のお尻の先に鎖のような楕円形をした尻尾が付いていると思ったら、ズルズルと虫熊の体内から次から次へと尻尾のような器官が出てきたのだ。

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