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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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むしムシ虫ベアー

 突如として現れた巨大な影は、俺たちに向かって真っ直ぐ突っ込んでくる。


「ロキ!」


 対処法を考えるより、回避を優先させるべきだと判断してロキに声をかけると、すぐさま「わかってる」という声が聞こえて俺たちは左右に別れる。


 これで敵がどちらか一方に向かうことがあれば、残るもう一方が背後から強襲するという算段だ。



 そう思ったのだが、影は俺とロキのどちらにも向かうことなく、そのまま通り過ぎていく。


「あ、あれ?」


 思いもよらない挙動をみせた巨大な影は、そのまま暫く走り抜けた後、砂煙を上げてようやく止まる。


「な、何だ……あれは?」


 ゆっくりとした動作で振り返る巨大な影の正体を見て、俺は驚きに目を見開く。


 現れたのは、魔物の証である真っ赤な目をした巨大な熊だった。

 だが、その熊は明らかに他の熊とは一線を画していた。


 何よりも目を引くのは、ただでさえ凶悪な太さの腕が通常の倍の四本あるということ。

 そして背中を覆うのは毛皮ではなく、何処かで見たような丸い鞘翅と思われる甲羅……、


「ま、まさか……」


 あの熊も、ペンターの虫に寄生されているのか?


 そんなことを思っていると、熊が両手を広げて威嚇するように口を大きく開ける。


「ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォン!!」


 雄叫びこそ熊のままであったが、その顎は虫人のように二つに分かれ、獣の顔に不気味な花を咲かせていた。


「うげええぇぇ……」


 虫人ならぬ虫熊の登場に、俺は全身に鳥肌が立ち、背中に嫌な汗が浮かぶのを自覚する。


「もう、何でもありかよ!」

「わふぅ」


 俺の心からの雄叫びに、ロキも「気持ち悪い」と吐き捨てるように言って顔をしかめる。


「ウガッ……ウガアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!」


 忌避感を覚える俺たちの気持ちなど察することなく、虫人は背中の鞘翅を開き、大量の鱗粉のような粉を撒き散らしながら再び俺たちに向かって突撃してくる。


 それを見た俺は、鱗粉が毒であることを考慮して口を布で覆い、防ぐ手立てがないロキに向かって叫ぶ。


「ロキ、あの粉を吸わないように一先ず移動しよう」

「わん」


 ロキが「わかった」と言って伏せると同時に、俺は彼女の背中に飛び乗る。


「よし、行ってくれ」

「わん」


 俺が軽く背中を叩くと、ロキは立ち上がって移動を開始する。


 現在地は虫熊の風下なので、ここにいては鱗粉をもろに浴びてしまうので、一先ず横へと移動して鱗粉の範囲から逃れることにする。



「グオオオオオオオオオオオオオオオォォォン!!」


 すると、逃げる俺たちを見て、虫熊はこちらを追うように移動してくる。


「今度は追ってくるのかよ……」


 虫熊の考えていることがわからず、俺は舌打ちしながら腰のポーチへと手を突っ込む。


「……頼むから、効いてくれよ」


 相手が虫に寄生されているとはいえ、元が熊ならばと思った俺は、特製の目潰し用の小瓶を取り出してやつに向かってぶちまける。


 トウガラシがたっぷり入ったこの小瓶は、人にも有効だが野生動物にも絶大な効果がある。


 特に熊はトウガラシが苦手なようで、日本でも熊避けに人の集落との境にトウガラシを練り込んだ杭を立てて、熊が寄り付かないようにしている地域もあるそうだ。



 そんな熊の弱点と言っても過言ではないトウガラシの粉末は……、


「ギャアオオオオオオオオオオオオオオォォン!!」


 どうやら異世界の熊にも効果絶大のようで、虫熊は四本の腕で顔にかかった粉末を取り払おうとゴロゴロのたうち回る。


 虫熊は、近くにあった岩に付着したトウガラシを落とすように顔を擦り付け、八つ当たりするように手を無茶苦茶に振り回していた。


「よし、ロキ! 今のうちに逃げるぞ」

「わんわん!」


 ロキにトウガラシの粉がかからないようにと、風上逃げるように指示しながら俺は虫熊をどうやって倒そうかと考える。


 虫に寄生されているということは、あの熊も既に死んだ状態……つまりはゾンビ化しているということだ。


 奴を倒すためには、体内に寄生している虫を倒すことが必須で、シドによると虫が寄生している場所は個体によって違うようで、まずは何処に虫が潜んでいるかを探す必要がある。


「問題は……その方法だよな……って熱っ!?」


 どうやって虫が潜んでいる場所を突き止めようかと思っていると、背後から激しい熱気が襲いかかって来る。


「な、何?」


 おそるおそる背後を振り返った瞬間、耳を劈くような轟音が響き、俺の視界が真っ白に染まる。


「――っ!?」


 続いてやって来た衝撃波に俺とロキの体が宙に浮き、何かが爆発する大音響と熱波に体を焼かれる感覚が来たかと思うと、体が地面に強かに叩きつけられる。


「ぐうぅぅ……」


 目を開けると熱で眼球が焼ける可能性があるので、俺は目を閉じて体をなるべく丸くして地面を転がり続ける。


 その間に第二、第三の爆発が起き、その度に熱波と衝撃波が体を襲う。


 一緒に吹き飛んだロキの無事も確認したいが、彼女は彼女で自分の身を守るのに精一杯だろうから、互いの無事を祈るしかなかった。



 エリモス王国で似たような境遇に遭ったからか、爆発の余波を最小限のダメージで乗り切った俺は、素早く身を起こして状況を確認する。


「ロキ、無事か!?」

「わんわん!」


 声をかけると、すぐさまロキが寄って来て無事を喜ぶようにスリスリと身を寄せて来る。


「よかった。怪我も……火傷もないな」


 互いに無事を確認した俺は、一体何が起きたのかを確認する。


 さっきまで虫熊がいた場所は、爆発の影響で地面が真っ黒になっており、周囲の木々は炭化していたり、爆発による熱で火が点いて燃え続けているものもあった。


「いきなり爆発するなんて……何が起きたんだ?」

「……わふ」


 俺の疑問にロキも「わからない」と言ってかぶりを振る。

 近くには可燃物なんてなかったし、あったとしてもこんな大惨事を引き起こすような火種があったら、誰かから注意が入るはずだ。


 もしかしたら地面の中に誰も知らない爆発物が埋まっていて、虫熊が暴れた所為で爆発したのかもしれないが、どちらにしてもあのバケモノも無事ではないだろう。



 そう思っていると、


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!」


 地鳴りのような唸り声が聞こえ、炭化した地面の下から死んだと思った虫熊が勢いよく飛び出す。


「なっ、ば、馬鹿な!?」


 爆心地にいたので体のあちこちに火傷の痕が見てとれたが、それでもあれだけの熱に焼かれて五体満足でいることに俺は衝撃を受ける。


「グオオオォォォ、グオオオオオオオオオオオオオオオォォォン!」


 虫熊は自身の健在ぶりをアピールするように四本の腕を大きく広げ、叫びながら再び背中の鞘翅を開いて鱗粉を撒き出す。


「ま、またかよ……」


 せっかく爆発で鱗粉が無くなったのに……と思っていると、空中に撒かれた粉が燃えている木に近付き、真っ赤な炎を上げて爆発する。


「えっ……ええっ!?」


 それを見た瞬間、俺は全身から汗がどっと吹き出すのを自覚する。


「も、もしかして、さっきの爆発って……」


 あの鞘翅から出てきた鱗粉に引火したのか?


「……ということは、あの鱗粉を大量に撒かれたら?」

「わ、わふぅ」


 俺とロキは最悪の展開を予期して互いに顔を見合わせる。


 今は爆発の影響で、火種になりそうなものは山ほどある。

 しかも、爆心地にいても倒し切れないということは、こいつがカナート王国内に入ったらそれだけで大惨事になりかねない。


 つまり、俺たちにできることは……、


「ロキ、鱗粉を大量に撒かれる前に奴を倒すぞ」

「わんわん!」


 やられる前にやる。


 そう結論付けた俺たちは、勇気を出して威嚇するように仁王立ちする虫熊目掛けて突撃していった。

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