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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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詰めの甘さは……

「…………ふぅ」


 自由騎士のスキルにより、空中から舞い戻って来た愛用の槍を受け取った泰三は、大きく息を吐いてこれまでの戦況を振り返る。


 これまで三度、ランサーのスキルである『ディメンションスラストスロー』で虫人たちを葬ってきた泰三であったが、空に浮かぶ虫人はまだまだ数え切れないほどいる。


「……こういう時、マップ兵器で一層できたら楽なのに」

「えっ? マップ? 何ですか?」

「い、いえ、何でもないです」


 思わず漏れた呟きを、数メートル離れた犬人族(いぬびとぞく)の男性に聞かれ、泰三は照れたように手を振って何でもないとアピールする。


「……びっくりした」


 まさか絶対に聞かれると思っていなかった呟きを拾われ、泰三は大型バリスタの装填作業をしている犬人族を見ながら獣人たちの能力に舌を巻く。


 個々の能力が高いのも確かだが、戦士としての練度も高く、照準器もついていないバリスタで、豆粒ほどの大きさの虫人たちに正確無比な射撃を繰り出していく。

 その多くは虫人たちの機動力によって回避されてしまうが、それでも泰三が知る戦士たちでは、ここまでの戦果を出すことはできなかっただろう。


「あの人も……強かったな」


 今度こそ犬人族の男性にも聞こえない声で呟いた泰三の脳裏に思い浮かぶのは、かつて地下墓所(カタコンベ)で浩一たちを庇って死んでいったココという名の獣人の戦士だ。


 ネームタグによって記憶を改ざんされていたとはいえ、あの時に獣人たちの声にもっと耳を傾けていれば、彼等の言葉を真っ直ぐ信じることができていればと思ったことは一度や二度ではない。


 それに、自分の手で殺めてしまった大切な親友のこともある。


 だが、泰三はもう泣かないし、過去を振り返って落ち込むような真似はしない。


 あの悪夢のような夜が明けた後、一生分の後悔をし、涙が枯れ果てるまで泣き尽くしたからだ。



「だから今度は……」


 獣人たちの期待に応えて、今度こそ皆を守ってみせる。


 それこそが、つまらない人生を捨てて異世界へと渡った泰三の願いだった。



「よしっ!」


 クールタイムが終了し、再びディメンションスラストスローを発動できるのを確認した泰三は、再びスキルを発動しようと構える。


 だが、


「……あれ?」


 泰三が構えに入ったところで、空を飛ぶ虫人たちが一斉に降下していくのが見えた。


 その速度は降下というよりは落下という言葉が似合うほど早く、泰三が次の標的を見定める前に全ての虫人たちが視界から消える。


「まさか、僕がスキルを使うタイミングを見計らって降りたのか?」


 最初の投擲から次の投擲までは、スキルのクールタイムが終了すると同時に使っていたので、相手にタイミングが読まれたとしてもおかしくはない。


 シドの報告では、今回は虫人たちを操る指揮官がいるようで、泰三の能力を脅威とみなして、多少時間がかかっても地上から攻める戦法へと切り替えたようだ。


「だとしても、判断が早過ぎでしょう」


 敵を目視できなければ槍で貫くことはできないので、泰三は構えを解いて残りは獣人たちに任せることにする。



 周囲を見れば、獣人たちは巨大バリスタの角度を調整し、弓なりの軌道で空から虫人たちを狙うようだ。


 とはいっても、敵が何処にいるか見えないので、完全に勘だけに頼った射撃になる。


 さらに敵がどれぐらいの時間で接敵するかわからないので、退却のタイミングが非常に難しくなる。

 こうなったら、


「僕がしっかりしないと……」


 自分一人だけでどうにかできるとは思っていないが、少なくとも素早い対応で救える命があるはずだ。

 そう判断した泰三は、まずはこの場を任されている獣人に、撤退のタイミングを進言することにした。




 泰三の提案で、大事を取ってバリスタの掃射は二度までとした。


 地上に降りた虫人たちがどれくらいの速度で移動してくるかはわからないが、目視できる距離まで詰められたら、全員が無事で逃げられる保証はないと泰三は考えていた。


「よし、全員撤収だ!」


 適当に狙いを付けたバリスタの一斉掃射の後、指揮官の声と共に獣人の戦士たちが前線を下げるべく、退却へと移っていく。


「早く……早く……」


 このまま何事もなく退却が完了すると思われたが、


「おい、敵だ! 虫野郎が来たぞ!」

「――っ!?」


 最前列でバリスタを操っていた獣人たちのひっ迫した声に、退却する様子を確認していた泰三は、弾けたように声のした方へと顔を向ける。


 すると二体の虫人が、砂煙を上げながら猛然と突っ込んでくるのが見えた。


「そ、そんな馬鹿な……」


 まるで馬のような速度で駆けてくる虫人を見て、泰三は自分の見立てが甘かったと悔し気に歯噛みする。


 しかも、


「な、何だあの姿は……」


 やって来た虫人は、人間でいう足の部分にあたる部分が異様に長く、走るというよりは跳ねるという様子で移動していた。


「ま、まるでカマドウマみたいだ」


 嫌いな虫のフォルムを思い出し、泰三は反射的に鳥肌が立つのを自覚するが、強くかぶりを振って怖気を振り払って逃げ遅れた獣人たちを救出するために前へと出る。


 現れた虫人は二体のみで、他の個体はまだ見当たらない。


「……そうか、あいつ等は移動に特化した個体ということか」


 虫人にも色々な個性があることを知った泰三は、援軍がやって来る前にカマドウマ型の虫人を倒し切ると決める。


「振り返らないで! 真っ直ぐこっちに向かって走って!」


 恐怖で足が竦みそうになっている獣人たちに声をかけながら、泰三はあっという間に距離を詰めて来たカマドウマ型の虫人に槍を突き出す。


「はあぁぁ!」


 研鑽に研鑽を重ね、最早一流の戦士にまで成った泰三の突きは、風を切り裂きながら飛び込んで来たカマドウマ型の虫人の腹へと吸い込まれていく。


 しかし、泰三の槍はカマドウマ型の虫人の胴を捉えることに成功するが、激しい火花を散らすだけで、表面の装甲すら貫くことなく大きく弾かれる。


「なっ!? こ、この見た目でこれだけの装甲が……」


 カマドウマに似ているのだから、胴体部分は柔らかいと思っていた泰三は、目論見が外れて全身に冷や水を浴びたように汗が吹き出すのを自覚する。



「ギギャッ!」


 泰三の攻撃を弾いたカマドウマ型の虫人は、獲物を見つけたと二つの顎を開いて、目を見開いて固まる人間へと襲いかかる。


「――っ、だったら!」


 一瞬で頭を切り替えた泰三は、弾かれた槍を強く握り直し、


「ディメンションスラスト!」


 相手の装甲を無視する一撃必殺のスキルを、迫るカマドウマ型の虫人の顎目掛けて繰り出す。


 瞬間、青白い閃光がカマドウマ型の虫人の顎を捉え、異形の魔物の顔が血を撒き散らしながら爆散する。


「うわっ!」


 途端、周囲に鼻が曲がるほどの強烈な悪臭が発生し、泰三は堪らず鼻を摘まんで大きく後ろへ跳ぶ。


 だが、本能的に逃げに転じた泰三の行動は、完全に誤りだった。


 退却する泰三に追従するように、もう一体のカマドウマ型の虫人が四本の腕を振るいながら襲いかかって来たのだ。



「しまっ……」


 泰三は自分が踏ん張りが利かない空中へ逃げてしまったことが失敗だったと悟り、せめてダメージを最小へ止めようと防御姿勢をとる。



 するとそこへ、


「おい、諦めるのが早いぞ!」

「えっ? あがっ!?」


 声が聞こえたと思うと同時に、泰三の腹部に激しい衝撃が走って彼の体が大きく跳ばされる。


「あぎゃっ! んぎゃ! おっふ!」


 地面を三度バウンドしてようやく止まった泰三は、手にした槍で自分を刺さなかった幸運に感謝しながら顔を上げる。


 すると、嬉しそうに尻尾を振って凶悪に笑うシドと目が合う。


「敵を倒した後の詰めが甘いところは、コーイチと同じだな」

「す、すみません」


 シドの指摘に自覚がある泰三は、謝罪しながら立ち上がって槍を構える。


「迷惑をおかけました。もう大丈夫です」

「ああ、とりあえず目の前のバケモノを蹴散らすぞ」


 泰三はシドと目を合わせて頷き合うと、歯をガチガチと鳴らしているカマドウマ型の虫人を挟み込むように攻撃を仕掛けていった。

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