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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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古典的な罠

 俺たちが逃げ出すと同時に、壁のあちこちに穴が開いて中から虫人たちが這い出て来る。


「うへぇ……やっぱ気持ち悪い」


 遠目に見るともろに虫のフォルムであり、しかもそれが自分と変わらないサイズまで巨大化しているのだから忌避感は尋常ではない。


 しかし、代わりと言っては何だが、奴を容赦なく倒すことへの抵抗感は薄い。


 ここは情け容赦なく、現れた敵を駆逐しようと思う。


「わん!」

「わかった」


 ロキから「飛ぶよ」という声が聞こえ、俺は返事をして彼女の背中にしっかり掴まる。

 俺がしっかりと掴まるのを確認したロキは、大きく沈んでから強く地を蹴って大きく跳ぶ。


「……くうう!」


 ロキの背中から振り落とされないように必死にしがみつきながら、俺は着地の瞬間を待つ。



 程なくして地面に降りる気配がして目を開けると、先程いた場所から十メートル以上は離れた場所にいた。


「……流石」

「わふぅ」


 ロキの「当然」という得意気な声を耳にしながら背中から飛び降りて、俺は近くにあった石を拾うと、こちらに気付いた様子の虫人に向かって投げる。


「ふっ!」


 手首のスナップを効かせて投げた石は、真っ直ぐ飛んで一番近くの虫人の顔目掛けて飛んでいく。


 人に当たれば、怪我では済まない速度で飛んだ石であったが、


「ギギャッ!」


 虫人は二つの顎で石をキャッチすると、強力な顎で粉々噛み砕いてみせる。


「……チッ」


 流石にこの一投で倒せるとは思っていなかったが、それでも一体は削って起きたかった。



「ギャッギャッ!」

「ギギャッ!」


 攻撃してきた俺を敵と認識したのか、虫人たちが一斉にこちらに向かって突進して来る。


「うひいいいぃぃ……き、来た!」


 四つん這いになり、カサカサと足を忙しなく動かして走る虫人たちを見て、俺は鳥肌が立つのを自覚しながらロキに話しかける。


「ロ、ロキ、ここは俺が受け持つから、仕掛けの方をお願いできるか?」

「わふぅ?」

「うん、怖いけど……俺がここにいた方が効果はてきめんだと思うから」

「わん!」


 俺の要請にロキはあっさりと「わかった」というと、事前に打ち合わせしていた場所へと駆けていく。


「……後は、俺次第だな」


 集団で迫る虫人たちのプレッシャーと来たら、それだけで漏らしてしまいそうなほど怖いが、逃げ出しそうになる足を奮い立たせて立ち続ける。


 まだだ……まだ、逃げるな。


 奥を見れば、空いた穴からさらなる虫人たちが湧いて出てくるのが見えるので、可能な限り第一陣はここで倒しておきたい。


「おらおら、こっちだ!」


 迫る虫人たちを挑発するように声を出し、ナイフで地面を叩いて音を出し、横に逸れて行きそうな個体を見つけては石を投げ付けて注意をこちらに向ける。


「ギギャアアアアアァァァ!!」


 俺のわかりやすい挑発に、虫人たちは感情を露わにして真っ直ぐ突っ込んでくる。


 互いを押し退けて来るように迫る虫人たちは、まるで開店前からバーゲンセールのために並んでいた熱狂的な顧客のようだが、ギチギチと歯を鳴らしながら迫る客なんかは一秒たりとも相手にしたくない。


 だが、不気味なモンスターカスタマーを相手にするのもここまでだ。



 目前まで迫って来た先頭の虫人が、突如として俺の視界から消える。

 続いて二体、三体と次々と姿を消していく。


 一体何事かと思うが、タネさえわかればたいしたことではない。


 俺の一メートル先の地面をみると、先程までなかった大きな穴が開いていた。


 これは敵襲を予期して用意した罠の一つで、ロキと協力して三メートルほどの深さまで掘ったものだ。


「ギャッ!」

「ギギャギャッ!」


 前の奴が落とし穴に落ちたのに気付いた虫人が急制動をかけようとするが、後からやって来たまだ落とし穴の存在に気付いていない虫人たちに押されて、一緒になって落ちていく。


 俺の安い挑発に乗った代償か、第一陣の八体の虫人、全員が落とし穴に落ちていった。


 おそるおそる中を覗き込んでみると、


「うひっ!」


 中に水を入れておいたのもあり、泥まみれの虫人たちが穴の中で降り重なって蠢く様は、地獄絵図のようなおぞましさがある。


 しかも、先に落ちた虫人を足場にして、上の方にいた虫人が這い上がって来そうな気配がしたので、俺は近くにいるはずのロキに向かって叫ぶ。


「ロキ、やってくれ!」

「わん!」


 俺の声にロキからの「わかった」という声が聞こえ、頭上に張ってあったロープが切れるのが見える。


 すると、落とし穴の上に仕掛けてあった木製の桶が傾き、大量の油が落とし穴の中へと注がれる。


 これにより、落とし穴を登りかけていた虫人も地の底へと叩き落とされ、再び登ろうにも油で滑って上手く登れないでいた。


「よしっ!」


 穴の中に満遍なく油が撒かれたのを確認した俺は、火炎瓶を取り出して先端に火を点ける。

 危ないので十分に距離を取ったところで火炎瓶を穴の中に投げ入れると、油に火が点いて巨大な火柱が上がる。


「――ッ、ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!」


 中から虫人たちの断末魔の叫び声が聞こえ、俺は堪らず耳を塞ぐが、とりあえず第一陣を退けることには成功した。



 振り返れば、仲間たちの叫び声が引き金になったのか、敵意剥き出しの虫人たちがこちらに向かってくるのが見えた。


 もう落とし穴作戦は使えないので、俺は次の作戦に移るべく隣にやって来たロキの背に飛び乗ると、近くの紐を引いて煙の罠を発動させる。


「ロキ、今のうちに……」

「わふっ」


 煙が虫人たちどれだけ有効かは未知数だが、俺たちは連中を次の罠に嵌めるための移動を開始する。

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