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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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先日とは別人のお姫様

「えっ……フリージア……様?」


 現れたフリージア様を見て、俺は思わず息を飲む。


 俺が知っているフリージア様は、年齢はソラより幼く、体はミーファより一回り大きな程度で、多少おませなところがあってもまだまだ幼い子供という印象だった。


 だが、後ろに二人のお付きの人を従えたフリージア様は、見た目こそ幼いままであったが、身に纏う雰囲気は昨日とはまるで別人であった。


 それがフリルのたくさんついたピンク色のドレスの上に、豪奢な赤いローブを身に付けているからか、それとも、そこまで変わるざるをえない何かがあったのか。


 状況から考えて良い予感はしないが、それでもここは周りに倣い、俺も片膝を付いて頭を下げる。


「ど、どうもフリージア様。こんな朝早くに訪問してしまい……その、申し訳ございません」

「フフッ、いやですわ。コーイチ様」


 咄嗟のことで変な挨拶をする俺に、フリージア様は口元を押さえて上品に笑う。


「わたくしとコーイチ様の仲ではありませんの。そんなに畏まられると、背中がむず痒い気持ちになってしまいますので、どうかこれからも今まで通りにお話しください」

「は、はあ……わかりました」

「お願いしますね。それと、そちらはコーイチ様のお知り合いですか?」

「えっ? あっ、はい」


 俺は立ち上がると、緊張したように片膝を付いている泰三をフリージア様に紹介する。


「フリージア様、こいつは泰三。俺の親友で、俺と一緒にイクスパニアにやって来た自由騎士です」

「まあ、コーイチ様のご友人で自由騎士の方ですの」


 自由騎士という言葉に、フリージア様は目をキラキラを輝かせて泰三に駆け寄る。


「はじめましてタイゾー様。わたくしはカナート王国の王女のフリージアと申します。どうかお顔をよく見せてもらえますか?」

「あっ、は、はい……」


 シドたち以外の王族と相対するのは初めてなのか、泰三はぎこちない動きで顔を上げ、ついでに口角も少しだけ上げて笑顔になる。


「ど、どうも泰三と申します。フリージア様、どうぞよろしくお願いします」

「ええ、よろしくお願いしますわ。タイゾー様もどうかもっと気楽に構えてくださいませ」

「ぜ、善処します」


 どうにか努力すると答える泰三だったが、どう見てもフリージア様と気楽に話せる雰囲気ではない。



 ここで泰三の緊張が解けるまで待つのも彼に悪いので、俺はフリージア様に本題を切り出す。


「それで、フリージア様。既に聞いていると思いますが……」

「はい、王との……父上との謁見ですね。ご案内しますわ」


 フリージア様は大きく頷くと「こちらへ」と言って手招きして城へと向かって行く。


 フリージア様が闊歩するように歩く様は実に胴に入っており、周りの者たちは彼女の存在に気付くと必ず頭を下げて見送る。

 もしかしたらこちらが王族としてのフリージア様の本当の姿で、地下遺跡で見せた姿は仲間内だけの特別なものかもしれない。


 だとしたら、先程感じた不安も杞憂かもしれない。


 そんなことを思いながら、俺は仲間たちにフリージア様に付いていこうと身振りで示してカナート王城へと入って行った。



 カナート王城に入った俺たちは、かつてカナート王と面会した城の階段を上がる。

 狭い通路にいくつもの扉がずらりと並ぶさまは、相変わらず城というよりはホテルみたいだなと思っていると、


「コーイチ様、こちらですわ」


 フリージア様は三階まで上がったところで通路へと出る。


「お父様は今、こちらの階にいらっしゃいます」

「あっ、はい……」


 てっきり以前と同じように五階の応接間に向かうと思っていた俺は、踵を返してフリージア様の後へと続く。

 三階層へと続く通路には見張りの兵士たちが直立不動で立っており、フリージア様は彼等に軽く挨拶してさらに前へと進む。


「こちらの階層は、わたくしたちの私室や寝室があるのです」

「なるほど……」


 ということはさっきの兵士たちは、王族の私室に不届き者が入らないように立っているのだろう。



 三階層は四階層と比べ天井が低く、窓はあっても全体的に暗い通路は、とても王族が暮らす雰囲気ではない。


 当初はそう思われたが、


「わぁ……いい香りですね」


 三階層に入った途端、他の階層とは明らかに違う香りがすることに、ソラが天を仰いで匂いを嗅ぐように双眸を細める。


「街の中と同じ、花の香りで溢れてますね」

「そうだね」


 ソラの意見に、俺も彼女に倣って鼻をスンスンと鳴らして周囲の匂いを嗅ぐ。


 街の中ほどではないが、それでもこの階層は他のフロアとは一線を画していた。


 床に敷かれた絨毯や置かれた高価そうな調度品の数々、そして何より街の中と変わらない色とりどりの花々によって、暗いホテルの廊下に華が添えられていた。


「この花たちは、街の方が毎日届けて下さるものですわ」


 華やかな花に見惚れる俺たちに、フリージア様が近くにある黄色いチューリップのようは鼻の香りを嗅ぎながら話す。


「わたくしたちが巫女派、王子派というくだらない争いをしている間も、毎日届けてくださって、感謝してもしきれませんわ」

「フリージア様……」


 生花がどれだけ持つかわからないが、カナート王国は連日猛暑日が続く酷暑の地なので、日頃から新鮮な花が献上されているというだけでも、フリージア様たちが街の人たちからいかに慕われているかが伺える。


 王子派の筆頭だったレオン王子は亡くなってしまったが、彼の分までフリージア様には皆に慕われるようなリーダーであって欲しいと思う。



「……着きましたわ」


 そんなことを思っていると、前を歩くフリージア様の足が止まる。

 一見すると他の部屋と変わらない扉の前に立ったフリージア様は、真剣な表情でこちらをみやる。


「コーイチ様、一つお願いがございます」

「な、なんでしょうか?」


 射貫くような視線に見詰められ、俺は頷いて息を飲んでフリージア様の言葉を待つ。

 俺が頷くのを確認したフリージア様は、後ろにいる仲間たちへと目を向ける。


「他の皆様も、どうかこの中で見たことは他言無用で願います」

「えっ、それって……」

「お願いいたしますわ」


 どういう意味? という俺の疑問には応えず、フリージア様は扉を開けて中へと入って行く。

 話の流れ的に嫌な予感しかしないが、中に入らないことには話にならない。


「……行こう」


 俺は皆に確認するように話しかけると、フリージア様に続くように室内へ足を踏み入れた。

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