柔らかな太ももの上で
パチパチと木が爆ぜる音が聞こえ、俺はゆっくりと目を開ける。
「……起きたか?」
声に反応して顔を上げると、焚き火の向こう側で微笑を浮かべているシドと目が合う。
「タイゾーも言っていたが、本当に何をしても起きなかったな……そんなに疲れてたのか?」
「えっ? あっ、そうか……」
昨夜はレド様に謎空間に呼ばれていたので、シドに夜中の見張りを代わってもらったんだ。
話したいことはいっぱいあるが、まずは役目を果たせなかったことを謝らなければならない。
俺は身を起こして正座をすると、シドに向かって頭を下げる。
「ごめん、シド。見張り代わってもらっちゃって……起きれなくて悪かった」
「い、いいよ、気にするなって」
シドは慌てたように立ち上がると、隣にやって来て俺の手を取る。
「あんなに気持ちよさそうに眠っていたら起こせないって……それに、コーイチの寝顔を存分に見させてもらったしな」
「えっ? あっ……」
そう言われて俺は、泰三からシドが寝ている俺に何をしていたのかを思い出す。
「膝枕……」
「えっ?」
「膝枕して、頭を撫でてくれていたって聞いてたけど……」
「ええっ、な、何で知ってんだよ!?」
思わず上半身を仰け反って驚くシドを見て、泰三の言っていたことが事実だったことを知る。
シドが目で「起きていたのか?」と聞いてくるので、俺はかぶりを振って否定してみせる。
だけど、膝枕……ね。
俺は寝ていたので、当然ながら膝枕をされたという意識はない。
だけど何だろう……膝枕をしてもらっていたとわかった時から、俺の中でシドに膝枕をしてもらいたくてしょうがない衝動がこみ上げてくる。
「泰三は……」
首を巡らせると焚き火の近くで丸まって眠るロキと、すぐ近くで同じように丸くなって眠る泰三が見える。
昨日はロキも激闘続きだったし、泰三も砂漠の長い長い道のりを超えて来たのだから、相当疲れが溜まっていたのだろう。
地下なので陽が登っているのかどうかはわからないが、普段は日の出と共に起きてくるソラとネイさんが起きてこないことをみると、夜明けまではまだ時間があるのだろう。
となればと俺は、シドの頭の上の三角形の耳へと口を寄せて囁く。
「ねえ、せっかくだからもう一回膝枕してもらっていい?」
「あえ? あ、ああ……」
甘えるように言ってみると、シドは頬を赤く染めて頷き、正座してしなやかで柔らかそうな太ももをポンポン、と優しく叩く。
「ほら、特別だぞ」
「それじゃあ、失礼して」
俺は断りを入れてから、シドの太ももの上に頭を乗せる。
「おおっ」
シドの太ももは、超越した運動能力を発揮してくれる筋肉とは思えないほど柔らかくて、温かくて、彼女の花のような匂いも感じられてとても安らかな気持ちになる。
そうか……膝枕をしてもらうって、こんなにも気持ちよかったんだな。
「はぁ……」
「な、何だよ。いきなり溜息なんか吐いて」
「いや、ちょっとね……」
ちょっと不機嫌そうに眉をひそめるシドに、俺は目だけを動かして思ったことを口にする。
「懐かしいって思ってさ」
「懐かしい?」
「だってシドにこうして膝枕をしてもらうのって二回目だろ?」
「ああ……」
シドも当時の状況を思い出したのか、苦々しい表情を浮かべる。
初めてシドに膝枕をしてもらったのは、彼女と出会って二回目、俺の人生を大きく変えるきっかけとなったグランドの街にあった違法風俗店である。
そこで俺がたまたまシドを指名し、プレイを行う代わりにイクスパニアに来てからの苦労話を聞いてもらった後に膝枕をしてもらったのだ。
「あの時は緊張と、その後の事件で殆ど覚えていなかったけど、シドの膝枕……とても気持ちいいよ」
「そう……か」
「そうだよ。あの時の衣装のシド、凄い綺麗だったからいつかまた見たいな」
「……バカ」
シドは照れたように目を逸らして頭を叩いてくるが、全然痛くないし、太ももも柔らかいままだ。
あの時は自警団の連中が現れた瞬間、シドの太ももが筋肉で緊張でカッチカチになったが、今はその心配もない。
「はふぅ……」
俺が再び大きく息を吐くと、甘えるようにシドの太ももに体を預ける。
「フフッ、まるで子供だな」
頭をグリグリ動かす俺に、シドは優し気な微笑を浮かべて頭を優しく撫でてくれる。
こうして堂々とイチャイチャできるのも、シドと正式に付き合うことになったからだ。
「ふあぁぁ……」
子供をあやすようにシドに優しく撫でられると、それだけで眠気が襲ってくる。
「おいおい……」
大きな欠伸をすると、シドの呆れたような声が聞こえてくる。
「ついさっきまで爆睡していた癖にまた眠る気か?」
「あ、ああ、ごめん。シドも夜通し見張りしてたから眠いよね」
何なら代わろうか? と頭を動かそうとすると、シドは俺の頭を押さえてかぶりを振る。
「そっちは大丈夫だけど……そ、そんなにあたしとのことで疲れたのか?」
「えっ? いやいや、そうじゃないよ」
確かにシドとの行為は、彼女の性格を現すように激しいものになったけど、流石にその程度で疲れ切るほどやわではない。
「実は、熟睡していたようで、熟睡してなかったんだよ」
「何だよ、それ?」
「実は夢の中で、泰三と一緒にレド様と大事な話をしていたんだ」
「なん……だと?」
俺がレド様の名前を口にした途端、彼女の太ももがカッチカチになる。
シドは俺の両肩を掴むと、上から鋭い視線で覗き込んでくる。
「おい、コーイチ。その話を……母様からの話を詳しく聞かせろ」
「あっ、はい……」
俺は急に居心地が悪くなったシドの太ももから顔を上げると、レド様から聞いた話をかいつまんで説明していった。




