久しぶりに友と
どうにかレンリさんの泰三に対する誤解を解いた俺は、食事を摂って体を拭いて身綺麗にした後、今後に備えて今日は休むことにした。
予想通りペンターの襲撃によって俺たちが寝泊まりしていた家屋は壊れてしまったので、俺たちは最終防衛ラインとして設定していたダルムット船に泊まることにした。
元々は客船として使われていたという巨大なダルムット船は客室の数もそれなりにあり、俺はその内の一つを借りてミーファと一緒に休もうと思った。
そう……休もうと思ったのだ。
「……どうしてこうなった!」
パチパチと爆ぜる焚き火の音を耳にしながら、俺は思わず思ったことを口にする。
「本当なら今頃ミーファと一緒に、ぬくぬくと寝ているはずだったのに、俺はどうして屋外で寝床の準備をしているのだ!」
「ハハハ、それはもう素直に諦めましょう」
わざわざ付き合ってくれなくてもいいのに、槍の手入れをしていた泰三が苦笑しながら相槌を打ってくれる。
「守ってくれる兵士の方々が亡くなってしまった以上、誰かが見張りに立たないといけないのですから」
「それはそうだけどさ……」
いつ敵がわからないのだから誰かしら……戦闘力のある者が見張りに立たなければいけないのは重々承知している。
地下遺跡にいる者で戦える者と言えば俺と泰三、そしてシドしかいないのだから、どれだけ疲れていても見張りに出るしかないのはわかる。
だけど、俺がゴネているのは、何も見張りに出るのが嫌だったからではない。
「ううぅ、まさか、ミーファに一緒に寝るのを断られるなんて……」
俺は体を綺麗した後、肉を食べてご機嫌だったミーファと一緒に寝ようと誘った時のミーファの反応を忘れることができない。
最初、ミーファは俺からの誘いに嬉々として「いっしょにねよう」と胸に飛び込んできてくれた。
だが、ミーファはいつものように首元に顔を埋めてクンクンと匂いを嗅いだ後、顔をしかめたかと思うと、
「……やっぱいい」
と言ってダルムット船の中へそそくさと入って行ってしまった。
今日はシドはソラと、ネイさんはレンリさんと一緒に寝ることになっているので、このままではミーファは一人で寝ることになってしまうと思われたが、
「でしたらミーファはわたくしと一緒に寝ましょう」
「ぷぷっ」
そこへフィーロ様とうどんが一緒に寝ると申し出てくれ、ミーファは寂しい夜を過ごさずに済んでいる。
ミーファの父親代わりという立場からすれば、一安心なのだが、
「なあ泰三、どうしてミーファは俺のことを避けたと思う?」
今までもミーファから今日は一緒に寝ないと言われることはあったが、今日のように途中から態度がガラリと変わったことはなかった。
結果として見張りにつくので一緒に寝ることが叶わなかったとしても、あの態度の真意は何だったのだろうか?
「もしかして俺、臭いのかな?」
「どうでしょう? 少なくとも僕からは特に嫌な臭いは感じませんが……」
「そうだよな……」
俺も自分の腕を嗅いでみるが、気になるような臭いはしない。
となるとここは、においのスペシャリストに聞いてるとしよう。
俺は周囲の見張りをしているはずの黒い狼のことを読んでみる。
「お~い、ロキ」
「わふぅ?」
囁くような俺の呼びかけに、ロキは「呼んだ?」と返事をしてすぐ隣にやって来る。
いつものように顔を擦り付けて甘えてくるロキをあやしながら、俺は彼女に気になっていることを尋ねる。
「なあ、ロキ。俺の体って臭かったりするか?」
「わん」
俺の質問に、ロキは「どれどれ」と返事しながらスンスン、と匂いを嗅ぐ。
「わんわん」
「えっ……マジで?」
「わん」
思わぬ解答に思わず聞き返すと、ロキは「マジ」と言って再び頭を擦り付けてくる。
どうやら臭いの正体には気づいているが、ロキは気にしていないようだ。
「ロキは何と言ったのですか?」
「えっ? そのだな……」
ロキの言葉がわからない泰三の尤もな疑問に、俺は言葉に窮しながらどうにか答える。
「女を抱いた臭いがするって」
「女を抱いたって……こんな時に浩一君、もしかして?」
「ま、待て! これにはちゃんとした理由があるんだって」
三白眼で睨んでくる泰三に、俺はシドを抱くことになった経緯を話すことにした。
ロキによると、ミーファが俺を避けたのは、どうやら俺の匂いの中にシド匂いを感じ、自分が邪魔をしては悪いと察して遠慮したのだという。
「……というわけなんだよ」
「そう……ですか」
事情を聞いた泰三は、納得したように小さく頷く。
「まさか今日まで、そんなプラトニックな関係を維持しているとは思いませんでした」
「俺だってまさかこんなにもお預けを喰らうとは思ってなかったよ」
紆余曲折はあったが、晴れてシドと恋仲になり、ソラにも認めてもらったのだから、今後はもっと堂々とイチャイチャしていこうとは思っている。
「まあ、俺の方はもういいだろう」
俺だけ恥ずかしい話をするのは不公平だと思い、せっかくなので親友の恋愛事情も聴いておくことにする。
「それより泰三の方はどうなんだよ。クラベリナさんとは少しは仲良くなれたのか?」
「……どうでしょう?」
俺の質問に、泰三は困ったように笑う。
「隊長からは、一対一で勝てたら処女をくれてやると言われています」
「知ってるよ。でも、それって全員に言ってることだろう?」
「はい、ですので僕は勝負に勝てたら結婚して下さいと言いました」
「お、おう、そうか」
まさかそこで結婚とは、泰三も大きく出たものである。
「それでクラベリナさんは?」
「あっさりと了承してくれました。それから隊長の両親にも挨拶しました」
泰三によると、挨拶に行ったクラベリナさんの両親は、婿の貰い手など現れると思っていなかったそうで、それは大層感謝されたそうな。
あんな破天荒な性格をしたクラベリナさんだから、てっきり両親も同じ感じだと思っていたが、どうやら違うようだ。
「ともかく、隊長に勝たねば何も始まりませんので、とにかく強くなるために努力し続けますよ」
「そう……か」
この一年で最も成長したであろう泰三なら、きっと近いうちにクラベリナさんを超える戦士になるだろう。
あの気の弱かった泰三の変化を頼もしく思いながら、俺は親友に向かって右拳を突き出す。
「頑張れよ。俺にもできることがあれば、何でも手伝うからさ」
「ありがとうございます。でしたら今度、浩一君も手合わせして下さいね」
「ああ、わかった」
互いに拳を合わせて頷き合った俺たちは、見張りの交代時間を打ち合わせして休むことにした。
明日になったら、ミーファにこれからも変わらず甘えて構わないことを伝えようと思いながら、俺は先に休ませてもらうために眠りへと落ちていった。




