胸いっぱいの想い、伝えて
教訓、シドに奇襲を仕掛けるような真似は絶対にやめよう。
まるで後ろに目が付いているかのように、俺を容赦なく殴り飛ばしたシドは、てっきり再び逃げ出してしまうのかと思ったが、罪悪感からか、獣化のまま俺に駆け寄って来て抱き起こしてくれる。
「悪い、コーイチだとは気付かなくて……」
「い、いいよ。今のは俺が全面的に悪いからさ……いてて」
我ながら阿呆なことを考えたものだと思うが、結果としてシドを止められたのだからよしとしよう。
少しでも表情を動かすと顔がめちゃくちゃ痛いが、俺は痛みを無視して心配そうにこちらを見ているシドの手を取る。
「やっぱりシドだ。一目見た時からそうだとわかったよ」
レオン王子と同じ『王の力』というやつだろうか。
そう思いながらしげしげとシドを見ていると、彼女は嫌そうに顔を背ける。
「……見るな」
「何で?」
反射的に逃げようとするシドの手を強く引いて、俺は彼女に問いかける。
「シド自信はどう思っているか知らないけど、俺は今のシドもカッコよくて好きだよ」
「見え透いた嘘を吐くなよ」
「嘘なもんか」
俺は強く手を引いてシドにこちらを向かせると、真っ直ぐ目を見つめて話す。
「シドの耳は、人が嘘を吐いているかどうかわかるんだろ? だったらさっきから俺が嘘を吐いていないことぐらいお見通しのはずだ」
「…………」
「シド」
まだ素直になってくないようなので、俺は身を起こして顔を背けている彼女の背中に優しく囁きかける。
「シド、好きだよ」
「んにゃにゃにゃ!?」
まさかいきなり告白されるとは思っていなかったのか、シドは狼の顔をしているのに猫のような可愛らしい悲鳴を上げながらこっちを見る。
「な、何だよ。いきなり……」
「何ってシドが素直になってくれないから、俺の気持ちを伝えただけだよ」
「気持ちって……」
目を激しく泳がせているシドは、恥ずかしそうにこちらをチラチラ見ながら話しかけてくる。
「そ、その、あたしもコーイチのこと好きだから……って、何言わせんだよ!」
返答したシドは顔を真っ赤にして俯いておとなしくなったので、俺は繋いでいた手を放して本来の目的を果たすことにする。
「シド、怪我をしているだろう。見せてくれるかい?」
「…………うん」
獰猛な虎から一転して、借りて来た猫のようにおとなしくなったシドを見て、俺は思わず笑みを零しながら怪我をしたと思われる足を見ることにする。
すると、
「あいたっ!?」
患部を見ようとしたところで頭頂部に鋭い痛みが走ったので思わず顔を上げると、顔を赤くしたシドと目が合う。
「何ニヤニヤしてんだよ。どうせまたあたしのこと、猫っぽいって思っただろ?」
「うぐぅ!? ソ、ソンナコトナイデスヨ?」
まるで心を見透かされたようなシドの言葉に、俺はこの表情を読まれてしまうというどうしようもない弱点を恨む。
でも、それも仕方ないことなのだ。
「それだけシドが可愛いってことだからさ」
「んにゃ!? だ、だからいきなりそういうこと言うの、やめろよ」
「ハハハ、ごめんって」
不貞腐れたように顔を背けるシドであったが、背後の尻尾は嬉しそうに揺れている。
決して素直に自分の魅力を認めようとしないシドに苦笑しながら、俺は彼女の足の怪我に応急処置を施していった。
地下遺跡で見た血の跡からシドの怪我は相当酷いと推測していたのだが、いざ怪我の具合を見てみると、思った以上に軽傷で肩透かしを喰らってしまった。
「実は、獣化してると怪我の治りが早いんだよ」
「なるほど……」
戦闘が終わり、移動した先でもシドが変身を解かなかったのは、怪我の回復を待つためだったというわけだ。
「それにしても……」
包帯の巻かれた足を眺めながら、シドはズラリと並んだ鋭い牙を見せながら嘆息する。
「コーイチ、本当に今のあたしを見て怖いとか、嫌いとか全く思っていないんだな」
「えっ? あっ、うん……そうだね」
目の前でシドがいきなり変身したら驚いたかもしれないが、生憎とこの手の変身は初見ではなかった。
「多分、レオン王子が獣化したのを先に見ていたからだと思うよ。だから、シドももしかしたら? とは常々思っていたし」
「そうか、はぁ……」
シドは再び大きく嘆息すると、自分の頭をわしゃわしゃ撫でながら喚き出す。
「この姿をコーイチに見られたら絶対に嫌われると思っていたのに、まさかあのバカ王子のお蔭で助かったなんて……」
「いやいや、レオン王子は関係ないよ」
初見じゃなかったから幻滅しなかったなんて思われたら心外である。
「俺はシドがどんな姿になったとしても、絶対に嫌いになったりしないから」
「そんなの……」
「わかるよ。だって……」
俺はシドの手を取ると、指と指をしっかりと絡めて逃がさないようにして、彼女の目を真っ直ぐ見据える。
「俺はシドのこと本気で愛してるから」
「あ、愛って!?」
これまでより一段高い言葉に、シドが大きく目を見開いて仰け反る。
「で、でもそれってソラやミーファにも言ってる言葉だろ?」
「違うよ。確かに二人にも同じ言葉は言っているかもしれないけど、意味合いは違うから」
俺は自分の気持ちを確認するように、丁寧に説明していく。
「確かにソラもミーファも愛してるよ。でも、ソラへの想いは妹と似た感情だし、ミーファへは自分の娘に対しての感情だよ」
「コ、コーイチお前……娘がいたのか?」
「例えだよ。俺に娘がいたら、きっとそういう感情になっていたなってことだよ」
まさかここに来てこんなベタなボケをされるとは思っていなかったが、こうなったらとことん突き進んでやる。
「わからないなら何度でも言うけど、俺のシドへの気持ちは他の誰でもない……君だけの特別なものだよ」
「あ、あたしだけの?」
「そうだよ。俺の噓偽りない本当の気持ちだ。これがその証拠だよ」
驚いているシドを引き寄せると、俺は彼女の頬にキスをする。
こんなことをするのはシドだけ……そんなカッコつけた台詞を言おうとしたのだが、
「むっ……」
獣化したシドの顔は何処も毛むくじゃらで、キスをした俺の口の中に盛大に毛が入ってしまったので、俺は口内の毛を取り出しながら驚きで固まっている彼女にお願いする。
「シド、キスしづらいから元の姿に戻ってくれる?」
「あっ、うん……」
俺の要請に、シドはこっくりと頷いて獣化を解いてくれる。
どういう理屈なのかは不明だが、俺より大きな体がみるみると縮んでいき、全身を覆っていた体毛は風となって流れ、下からいつもの見慣れた美少女が姿を現す。
だが、獣化して巨大化した時に身に付けていた上半身の衣服は弾け飛んだからか、元に戻ったシドの白い肌が露わになる。
「……あっ」
自身が裸だと気付いたシドは、慌てて隠そうとするが、
「シド……」
俺は意地悪するようにシドの手を掴んで隠すのを辞めさせると、尖っていない柔らかな唇へ自分の唇を押し付ける。
「んんっ、ふむぅ!」
不意打ち同然のキスにシドは最初こそ驚いた様子を見せていたが、徐々に体の力を抜いて俺に応えるように舌を絡めてくる。
ピチャピチャと水音を立てながら互いの唇を貪り合ってから離すと、俺はシドの両肩を掴んで我慢できない想いをぶちまける。
「シド、いいよね?」
「コーイチ、で、でも……」
「言い訳は聞かない。嫌なら嫌とハッキリ言って欲しい」
我ながらズルい物言いだと思ったが、これまで何度も……それこそ一年以上もお預けを喰らってきたのだ。
この機を逃したらもう二度とチャンスは来ない。
そう思いながら俺は素早く上着を脱いで、シドの背中が当たる位置に敷いて彼女の両肩を掴む。
「シド、愛してるよ」
「……あたしも、あたしもコーイチのことを愛してる!」
そう言って今度はシドの方から唇を求めて来たので、俺はそれに応えながら彼女を敷いた上着の上へと押し倒した。




