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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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絶望との再会

 外から爆発するような大きな音が聞き、古いダルムット船の船倉に子供たちと隠れていたソラの耳がピクリと反応する。


「……姉さん?」


 これまで何度か似たような音は聞こえていたが、今のは何かが違うような気がして、ソラの中に考えたくない気持ちが膨れ上がる。



「ソラおねーちゃん……」


 心配そうに外の様子を伺うソラに、同じように不安そうな表情のミーファが話しかけてくる。


「シドおねーちゃん、だいじょーぶだよね?」

「うん、勿論。姉さんは誰よりも強いんだから、負けるはずないでしょ」


 自分に言い聞かせるようにミーファに声をかけながらも、ソラは胸が締め付けられる想いに駆られる。


 せっかく魔法という戦う力を手に入れたのに、それを振るうことなく、自分だけどうして逃げることしかできないのだろうか。


 どうにか簡単な魔法は上手く扱えるようになったソラであったが、世界樹の中でコーイチを呼ぶことができたあの召喚魔法は、未だに上手く扱うことができない。

 例えシドの力になれなくても、せめて召喚魔法を自在に操ることができれば、戦況を変えることができるのにと思う。



「焦る必要はありませんわ」


 悔しくて握り締めるソラの手に、横から細くてしなやかな手が伸びて来て包み込むように重なる。


「ソラ、いつも言っているでしょう。魔法は精神が大いに左右されるから、常に冷静でありなさいと」

「フィーロ様……」


 ソラが顔を上げると、微笑を浮かべ、堂々とした様子のフィーロと目が合う。


「残念ながらわたくしたちには祈ることしかできませんが、せめて笑顔で……心から信じて祈りましょう」

「笑顔で……」

「そうですわ。わたくしたちの不安は、子供たちにも伝播しますからね」

「あっ……」


 そう言われてソラは腕の中のミーファと、部屋の隅でネイや大人たちの腕の中で震えている子供たちへと目を向ける。


 誰もが未知の恐怖に怯えているのが見てとれ、普段は三人の子供たちをまとめているバドですら、早く嵐が去ってくれと願うように耳や尻尾と一緒に小さくなっている。

 ソラの腕の中のミーファもまた、励ましの言葉をかけたはずなのにその表情は未だ暗く、不安そうに姉のことを見ている。


 これもきっと自分が不安そうな顔をしているのが原因だと思ったソラは、ミーファのぷにぷにの頬を撫でながら優しく声をかける。


「ミーファ、お姉ちゃん。怖い顔してた?」

「……うん、シドおねーちゃんみたいだった」

「そっか、姉さんと一緒か」


 シドの散々な評価に思わず苦笑を漏らしながら、ソラは笑顔を浮かべる。


「ミーファ、心配かけてごめんね」

「ソラおねーちゃん?」

「もう怖がるのはおしまい。姉さんたちなら大丈夫だから」


 シドの強さを知っているからこそ、ソラは確信を持って力強く頷く。


「どんな悪い奴が現れても、姉さんが軽く倒してくれるよ。だから私たちは、疲れて帰って来る姉さんを笑顔で迎えてあげましょう……そうだ」


 ソラは顔を上げると、ネイに向かって声をかける。


「疲れた皆を労うためのご飯を用意しませんか?」

「ごはん!?」


 食事と聞いて、ミーファの顔にも笑顔が戻る。


「ミーファもおてつだいする!」

「うん、お願い……いいですか?」


 そう言って伺いを立てるのは、巨大ダルムット船を管理しているウォルだ。


「ウォルお爺様、ここで料理してもいいでしょうか?」

「……いいも何も、ここは火気厳禁の木造船なんだがな……」


 苦言を呈しながらも、ウォルの表情はまんざらでもない顔をしている。


「だが、それで辛気臭い雰囲気がなくなるならいいだろう。だが、くれぐれも火事にだけは気を付けてな。ショコラ、手伝ってやりなさい」

「はい」


 ウォルに寄り添うように座っていたショコラは立ち上がると、ソラに向かって笑顔で声をかける。


「ソラさん、私も手伝いますから一緒においしいご飯を作りましょう」

「うん、よろしくね」


 明らかに場違いなことをしている自覚はあったが、気まずい雰囲気でどんどん暗くなっていくよりはマシである。


「実はこの船にはお爺ちゃんがいざという時のために、お肉を隠してあるんです」

「えっ、おにく?」


 肉という単語に、ミーファの耳がピクリと反応して顔を上げる。


「ミーファ、たくさんおにくたべたい!」

「はいはい、ちゃんと皆で平等に分けるからね」


 現金なミーファの態度に、ソラは苦笑を漏らしながら材料を取りに行くために立ち上がる。



 すると、


「ホッホッ、せっかくじゃから儂にも肉をもらえんかのう?」

「――っ!?」


 突如として船倉に響いたしわがれた声に、ソラはハッとして入口の方へと目を向ける。


 すると暗がりの向こう、爛々と不気味に光る赤い目と目が合い、ソラはビクリと身を固くさせる。


「む、虫? で、でも……」


 聞こえた声は、最も聞きたくないあの老人の声だったはず。

 ソラが困惑していると、六本の足を持つ巨大な虫が現れて、四つに分かれる口から流暢に人の言葉を話す。


「ホッホッホッ、ようやく会えたな。召喚魔法の娘よ」

「そ、その声……もしかしてペンター!?」

「いかにも、姿は違えど、儂が捏血(ていけつ)のペンターじゃ」

「――っ!?」


 ペンターが名乗りを上げると同時に、既に心構えができていたソラは躊躇なく動き出す。


「皆、力を貸して!」


 ソラが大きな声で周囲に呼びかけると、彼女の周りに光の玉が次々と集まる。


「ウォルお爺様、大切な船を傷付けちゃうけど、ごめんなさい!」


 手加減をしている余裕なんかあるはずもないので、ソラはウォルに謝りながら最も自信のある雷撃魔法を全力で放つ準備をする。


「構わん、思いっきりやってやれ!」

「はい!」


 ウォルの声を耳にしながら、ソラの手の中で集まった精霊たちが派手に火花を散らしながら今にも破裂しそうなほど大きくなる。


 このままいけば、とんでもない威力の魔法が放たれると思われたが、


「ホッホッ、悪いが邪魔な精霊にはお帰り願おうか」


 ペンターが右足を振り上げて地面に叩きつけると、黒い霧が波となって船倉内を駆け巡る。

 すると、ソラの手元に集まった精霊たちが黒い霧に圧されるように船倉の端へと追いやられ、そのまま霧散する。



「……えっ?」


 発動寸前だった魔法が無効化され、ソラは思わず呆気にとられるが、


「も、もう一度! お願い、力を!」


 気を取り直して再び魔法を唱える。

 だが、


「ど、どうして……」


 いくらソラが呼びかけても、魔法を使うための精霊たちが集まらない。


「ホッホッ、精霊は好きじゃからのう。場を汚してしまえばこんなものじゃ」


 精霊の弱点を熟知しているのか、ペンターは二つの顎をギチギチと鳴らしながら触手のような長い舌を出して舌なめずりをする。


「さて、楽しい楽しい食事の時間じゃ」

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