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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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変幻自在の虫

 シドに吹き飛ばされ、折り重なったゾンビたちがもたもたと起き上がろうとしているのを見て、獣人たちはこの機を逃すまいと一気に攻め立てる。


「い、いきます!」

「俺たちだって、やってやるんだ!」


 身長と同じぐらいの長い槍を手にした二人の獣人が、ようやく起き上がった二人のゾンビの腹部へとやりを突き立てる。


 だが、十分な勢いをつけて繰り出された槍であったが、ゾンビの胴体を貫くことなくわずかに穂先が埋まったところで硬質な音を響かせて止まる。


「グガッ……」


 さらに腹を刺されたゾンビたちは槍を引き抜こうと血が吹き出すのも構わず刃の部分を力強く握る。


「……ヒッ!?」

「怯むな!」


 恐れを知らないゾンビの行動に思わず悲鳴を上げる獣人たちに、シドがすかさず檄を飛ばす。


「お前たちならやれる。あたしの言葉を信じて全力で押し込め!」

「は、はい!」

「うおおおおおおぉぉぉ!!」


 シドの激励で目に力を戻した二人の獣人は、叫び声を上げながら槍をさらに押し込む。


「グガ……ガッ……」


 すると、ゾンビの持つ手から噴き出す血の量が増え、ミシミシと音を立てて槍が徐々に埋まっていく。


「いけ! ここで男を上げてみせろ!」

「「うわあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!」」


 二人の獣人が雄叫びを上げながら槍を押し込むと、ゾンビの腹部から何かが割れるような音がして黄色い体液が溢れ出してくる。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!」

「ギャアアアアアアアァァ…………ァァ…………」


 その一撃が止めとなったのか、ゾンビたちは絶叫したかと思うと腹に槍を刺したまま背後にいた他のゾンビを巻き込んで倒れる。



「や、やった……」


 動かなくなったゾンビを見て、止めを刺した獣人たちの顔に笑みが浮かぶ。


「で、でも、槍が……」

「待ってろ。今すぐ回収してくる」


 ゾンビを倒すことには成功したが、槍を二本同時に失ってしまったことを危惧した一人が武器を回収をしようと前に出る。


 だが、


「おい、何やってんだ」

「えっ? わ、わあああああああぁぁ!」


 その前にシドが手を伸ばして前に出ようとした獣人の首根っこを掴んで後ろへと放る。

 まともに受け身も取れずに地面に倒れた獣人に、シドは後ろを見ることなく吐き捨てるように言う。


「武器は無理に回収する必要はない。むしろ使い捨てるつもりでいろ」

「で、ですが……」

「言い訳無用!」


 まだゾンビは残っているのに戦えなくなることを心配している獣人たちに、シドは背後を指差してピシャリと言い放つ。


「いいから下がって代わりの武器を探して来い。ウォル爺さんなら何か持っているはずだ」

「わ、わかりました」

「すぐに戻ってきます」


 二人の獣人は慌てたように足をバタバタさせて武器を探しにいく。



「ついでにあたしたちの追加の武器も、持ってきてくれると助かるんだけどな」


 そんな小言を消えて行く背中へとかけるシドであったが、残念ながら二人の獣人は気付いた様子はない。


「……やれやれ」


 とりあえず手持ちの武器だけでなんとかしようと思ったシドは、先程の二人の様子を見て気付いたことを仲間たちに伝える。


「虫の表皮は、最初の勢いが足りないと貫くのに苦労しそうだ。やる時は躊躇せず、思いっきりやるんだ」

「わかりました!」


 シドのアドバイスを聞いた獣人の一人が、頷きながらショートソードを手に前へと出る。


「はああああああぁぁっ!」


 斧を手にした仲間たちがゾンビたちの手足を切り落として無効化してくれている中、ショートソードを手にした犬人族(いぬびとぞく)の男性は、両腕を失ったゾンビの胴目掛けて全力の突きを繰り出す。


 体ごとぶつかるようにして繰り出された突きは見事にゾンビの腹を貫き、背中まで貫通する。


「や、やった……」


 上々の手応えに、犬人族の男性は喜ぶが、


「喜ぶのはまだ早い! 武器を捨ててすぐに逃げろ」

「えっ? うわあああぁぁ!」


 喜んだのも束の間、犬人族の男性は悲鳴を上げながらショートソードを放り出して逃げ出す。


「た、助け……」

「任せろ!」


 涙を流しながら逃げる犬人族の男性に代わって、シドは前に出て腹にショートソードが突き刺さったゾンビを見やる。


「ギッ……ギギッ……」


 腹部を貫かれても死ぬ様子をみせないゾンビの口が裂けるほど大きく開かれ、中から大量の血で赤く濡れた黒い塊がギチギチと不気味な音を立てながら出て来ていた。


「ったく、今度は口かよ!」


 シドは文句を言いながら、ショートソードを横薙ぎに素早く振るう。

 風切り音を響かせながらシドが剣を振り抜くと、少し遅れてゾンビのあご上から半分が中の虫ごと真っ二つに切り裂かれ、赤と黄色の液体を周囲に撒き散らす。


「まさか危険を察知して体内を移動してきたのか?」


 返り血を浴びないように、シドはゾンビを蹴り飛ばしながら仲間たちに声をかける。


「気を付けろ。虫は危険を察知すると体内を移動するみたいぞ!」

「そのよう……ですね!」


 シドの言葉に、斧でゾンビの手足を切り落としていた熊人族(くまびとぞく)の男性が一体のゾンビの首を切り落としながら話す。


「虫が移動する際は、その部分が異様に盛り上がるのですぐにわかります。しかも、移動中は表皮が柔らかくなっているのか、斧でも簡単に真っ二つにできます」


 そう言って熊人族の男性が切り落とした首を転がすと、中から細長くなった虫が一緒に出てくる。


 どうやら黒い虫は体内を移動する時、移動しやすいように形態を変化させるだけでなく、表皮の硬さも自在に変えるようだ。


「……ますます不気味なやつだ」


 人に寄生して自在に操るだけでも恐ろしいのに、宿主が使い物にならなくなった途端、躊躇なく体の外に出て次の宿主を探そうとするのは、生き物として考えられないほど強い生存本能を持っているようだった。


「だけど、これで作戦も決まったな」


 宿主を無効化させ、寄生した虫が外に出るように仕向ければ、力の足りない者でも難なく虫を殺すことができそうだった。



 熊人族の男性のアドバイスを共有してから、ゾンビ掃討の効率は格段に良くなった。


 倒したゾンビの死体を新たなバリケードにすることで相手の動きを封じ、射程外から無力化させて虫が出て来たところで止めを刺す。

 全員の無事を確保しながらの戦いは決して簡単ではなかったが、シドと彼女をの指示を信じて戦う獣人たちは、確実にゾンビたちを倒していった。


 この戦い、勝てるぞ。


 残りのゾンビを数えながらシドが密かに勝利を確信していると、


「やれやれ、儂の可愛い虫たちが散々ではないか」


 シドたちの耳に、場に似つかわしくないしわがれた声が聞こえて来た。

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