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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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蠢くモノの正体

 眼前の障害物がなくなったゾンビたちは、目の前に立つシド目掛けて一斉に走り出す。


 ゾンビとは思えない速度に初見なら面食らうだろうが、流石に二度目となればシドも慌てることはない。


「今だ、引け!」


 シドが声をかけると同時に、左右に待機していた獣人たちが地面に仕掛けておいた紐を引っ張る。


 すると膝ほどの高さに紐がピンと張られ、先頭のゾンビが簡単に足を取られて前のめりに倒れる。

 最初のゾンビが倒れても後から続くゾンビの勢いは止まることはなく、二人目、三人目も足を取られて折り重なるように倒れていく。



「よし、動きが止まったぞ。お前たち、かかれ!」


 ゾンビたちの勢いが止まったところで、シドの掛け声と共に一斉に襲い掛かる。


「絶対に噛まれるなよ! 噛まれた箇所は容赦なく切り捨てるから一撃離脱を試みろ!」


 大声で指示を飛ばしながら、シドはハンドアックスをクルリと回して手前のゾンビの腕を切り落とす。


「もういっちょ!」


 返す刀でもう片方の手を切り落としたところで、シドは大きく後ろに跳んで別の戦士とスイッチするように入れ替わる。


「任せたぞ」

「はい、うおおおおおおぉぉぉ!」


 シドと入れ替わるように前に出たのは、若い虎人族(とらびとぞく)の男性で、手にしたショートソードを横薙ぎにしてゾンビの両手を切り落としてみせる。


「おわっ!? つ、次、頼みます」


 切り口から噴き出した血を慌てて回避しながら、虎人族の男性は下がって次の獣人の戦士に最前線を任せる。



 その後も入れ代わり立ち代わり隊列を入れ替えながら、シドたちは折り重なったゾンビの群れの手足を切り、地面に縫い付けるように刃を立てていく。


「よし、撤退だ!」


 十体前後のゾンビを行動不能にしたシドは、背後から迫るゾンビたちの圧を察して仲間たちに指示を飛ばす。


「絶対に深追いするなよ。邪魔なら武器は捨てて構わない。自分と仲間の命を最優先させろ!」


 その言葉に全員が「了解!」と声を揃えて返事をすると、それぞれをフォローしながら階下に向けて移動を開始する。



「うが……があああぁぁ!」


 逃げるシドたちを追撃しようと、後方のゾンビたちが唸り声を上げながら折り重なった死体を乗り越えようとしてくる。


「全く……しつこいんだよ!」


 全員が安全圏まで退避するのを確認したシドは、今にもゾンビの山を乗り越えようとするゾンビ目掛けて小振りのナイフを投げる。

 手首のスナップを効かせて投げたナイフは綺麗な弧を描き、山を乗り越えたゾンビの眉間に深々と突き刺さる。


「あぎゃっ!?」


 額にナイフが刺さったゾンビは、血を拭き出しながら上半身を大きくのけ反らせる。

 シドの投げたナイフの威力が凄まじかったのか、大きくのけ反ったゾンビの背中からボキリと嫌な音が聞こえる。


「ヘッ、ざまあみろだ」


 撤退のついでにもう一人追加で行動不能にすることができたと、シドは唇の端を吊り上げてニヤリと笑う。


 そのままシドは背を向けて撤退しようとするが、


「ギャアアアアアアアァァッ!!」


 背骨が折れたゾンビが突如として絶叫を上げたかと思うと、腹部が大きく裂けて血と共に黒い影が飛び出してシドに向かって一直線に飛んでいく。


「うえっ!?」


 高速移動に続き、まさかの飛び道具まで飛び出したことに、シドは奇声を上げながらもどうにか黒い影を迎撃するためにハンドアックスを構える。


「フッ!」


 短く息を吐いてひと息にハンドアックスを振るうと、シドの眼前で火花が散り、金属のような甲高い音を響かせて黒い影が大きく弾き飛ばされる。


「どうだ!」


 不慮の事態にも華麗に対処してみせたシドは、ハンドアックスをクルリと回して獰猛に笑う。


 シドに吹き飛ばされた黒い影は、地面と周囲の壁に何度もぶつかり、徐々に速度を上げていく。

 そうして何度か床に壁へと跳ね返った黒い影は、一度目とは比べ物にならない速度でシドに向かって突撃する。


「……えっ?」


 まさかの一度退けた敵が再び来るとは思わず、完全に虚を突かれたシドは迎撃態勢すら取れずに立ち尽くす。



 すると、


「姉さん、しゃがんで!」

「――っ!?」


 背後からソラの声が聞こえ、シドは妹の声に応えるように素早くしゃがむ。

 直後、シドの頭上を黄色い閃光が駆け抜け、彼女に向かって飛来した黒い影に直撃したかと思うと、激しい火花と共にバチバチと爆ぜるような音を響かせる。


「うひいいぃ!」


 飛んできた火花が髪に引火しないように両手で押さえながら、シドは慌てて階下へと避難する。

 同時に、控えていたエルフたちが魔法を発動させて廃材を一斉に動かし、新たなバリケードを築いていった。




「ったく、何だってんだ……」


 すっかり閉じ、獣人たちによって再びしっかりと押さえられたバリケードを恨めしそうに眺めながら、シドは身を投げ出すように座り込んで嘆息する。


「姉さん、大丈夫ですか?」


 憔悴した様子のシドに、ソラが駆け寄って来て姉の具合を確かめていく。


「怪我は……ないようですね?」

「ああ、助かった。ソラのお蔭だ」


 シドはソラが伸ばしてきた手を掴むと、彼女の体を抱き寄せて背中をポンポンと優しく叩く。


「まさか、ソラに助けられる日が来るとはな……ソラこそ、体の方は大丈夫か?」

「はい、さっきのは初歩の雷撃魔法ですので」

「初歩? あれで?」


 目の前で火花が弾けるのを見たシドは、静電気が気になるのか、手櫛で乱れた髪を直しながら苦笑する。


「魔法って……凄いんだな」

「はい、発動までに時間がかかるので無敵ということはありませんが、未熟な私でも姉さんを手助けするくらいはできます」

「それは嬉しいけど……あんま無理はしてくれるなよな」


 シドとしてはソラとミーファは命を賭けてでも守りたい存在であり、一緒に戦っては守り切ることが難しくなってしまう。

 ただ、ソラもミーファも大人しく守られるだけのつもりはなく、日々成長していつかは姉の隣に並ぼうという気概を、シドは複雑な想いで見ていた。


「それより姉さん、見ましたか?」

「えっ、何を?」

「さっきゾンビの体内から出てきた物です。まさかとは思いましたがあれは……」

「ああ、ゾンビの正体見たり、だったな」


 シドは激しく叩かれるバリケードを見ながら、自身が見た黒い影の正体を明かす。


「あれは……虫だ」

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