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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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ゾンビだけどゾンビじゃない?

 その後もシドたちは、バリケードが壊れそうになる度に僅かに撤退し、新たなバリケードを築いては耐えるという行為を繰り返していた。


「チッ……マズいな」


 バリケードを押さえる手に向こう側からの圧力を感じながら、シドはチラを後ろを振り返って舌打ちをする。


 ここまで五度に渡って撤退を繰り返してきたが、いよいよ残されたバリケードは今押さえている壁と合わせて二つとなっていた。


「まだか……まだなのか?」


 こんな時に浩一なら何かいい策の一つでも思い付くのに……などとシドは考えてしまうが、まだ彼が現れる様子はない。


 最後に対峙したのがあのハバル大臣だったから、一筋縄ではいかない戦いになっていると思われる。

 ロキも一緒にいるので万が一が起きている可能性は低いが、それでもこうして一緒にいないだけで、シドはどうにも落ち着かなかった。


「ああっ、もう……」


 シドは今一調子の出ない自分への苛立ちを紛らわすように頭をガシガシと掻くと、一先ず少しでも打開策はないかと周囲に意見を求める。


「誰でもいい。あんたたちの中にゾンビたちを倒せる方法を知ってるやつはいないか?」


 バリケードを支える手を緩めることなく首を巡らせるが、生憎とシドの声に応える者はおらず、誰もが顔を伏せるか、小さくかぶりを振る。


「……まあ、そうだよな」


 そんなものがあれば、既に意見として出ていそうなものだ。

 獣人の戦士たちには期待できそうにないので、シドは今度は別のアプローチをする。


「エルフたちの方はどうだ? 姫さんとか何か知らないか?」

「残念ですが……」


 フィーロは申し訳なさそうにかぶりを振ると、ゾンビについてわかっていることを話す。


「実はあのゾンビたちは、普通のゾンビとは違うようです」

「……まあ、急に走って来た時は流石のあたしもビビった」

「はい、それもですが、どうやらあの者たちは不死(アンデッド)ではないようなのです」

「不死……じゃない?」


 フィーロの見解に、シドは意味が分からないと首を捻る。


「殺しても死なないのだから、それこそ不死じゃないのか?」

「そうですわね。そういった意味では不死なのは間違いありません。ただ……」


 フィーロが言葉を濁しながら手を上げると、一人の女性エルフが前へ進み出てくる。


「彼女は光魔法を得意としていまして、普通の不死なら一瞬で全滅させる浄化魔法が使えるのです」

「おいおい、まさかもう使ったのか?」

「はい、最初のバリケードで塞いだ時に……三度ほど試しましたが、全く効果が現れませんでした」

「じゃ、じゃあ、この壁にいる連中は一体何なんだよ?」

「わかりません。私共の方も理解が及ばず、混乱しているのです」

「……マジかよ」


 魔法ならどうにかなると思っていたシドにとって、フィーロからもたらされた情報は寝耳に水だった。


 浄化魔法とは、生きている者には全く効果はないが、不死者には絶大な効果をもたらす魔法で、ゾンビが浄化魔法を受ければ抵抗する間もなく塵となって消えるのだという。

 浄化魔法は問題なく作用したはずなのに、ゾンビたちが塵になることがなかったことから、あの者たちは不死者ではないのだという。


「なら、いっそのこと連中を魔法で燃やすというのは?」

「逃げ道のない地下遺跡では、私たち諸共焼け死んでしまいますよ。万が一火から逃れても、煙を吸ってしまえばそれで終わりです」

「うぐぐぅ……」


 フィーロからの鋭い指摘に、ぐうの音も出ないシドは悔し気に歯噛みする。


「……だったら、どうすればいいんだよ!」

「それを私たちも必死に考えているのです……ただ、何も思い付かないだけで」


 想いはシドと同じだが、対応策が何もないことにフィーロもまた下唇を噛む。



「こんな時に役に立てず、申し訳ございません」

「姫さん、謝るのは無しだ。それはあたしたちも同じだ」


 頭を下げようとするフィーロを、シドは手で制する。


「正直、こんな時にコーイチがいてくれたらと思うけど、残念ながらあいつはあいつで頑張ってる。だからここはあたしたちが……この世界に住むあたしたちが意地を見せる時だ」

「シド様……」

「何、殺せなくても、手足を切り落とせば動きを封じることはできる。最後のバリケードまでにコーイチが来なければ、それでどうにか切り抜けよう」

「そう……ですね」


 シドらしい力押しの作戦に思わず苦笑を漏らすフィーロであったが、他に方策がない以上、彼女に従うしかないと頷く。


「わかりました。では、子供たちはダルムット船まで退避してもらうとしましょう」

「ああ、頼む……それとミーファ、お前も姫さんと一緒にいってくれ」

「……えっ?」


 つい先程シドを助ける立役者となったミーファは、腕の中のうどんを差し出しながら話す。


「で、でも、うどんがいれば……」

「ああ、ミーファとうどんがいれば子供たちを守ることができる。ミーファ、お前だけが頼りなんだ。お前にしかできないんだ……わかるな?」

「ミーファが……」


 シドからの期待の言葉に、ミーファの目がキラキラと輝き出す。


「わかった。ミーファ、うどんといっしょに、ショコラちゃんとルルちゃんと、モスくんと……あとバドくんもまもる!」

「ぷぷぅ!」

「そうか、いい子だ」


 シドは一人と一羽の頭を優しく撫でると、微笑を浮かべているフィーロに目で「頼む」と彼女たちを託す。

 戦闘用の魔法が使えないフィーロは「任されました」と一言挨拶すると、ミーファと一緒に最下層へと降りていった。




「さて……と」


 守るべき最終ラインを決めたシドは、周囲の視線が自分に集まっているのを確認して話を切り出す。


「ここまでは逃げの一手だったけど、今から逃げるまでに少しでも敵の数を削るぞ」

「最下層まで行ってしまったら、敵が散開してしまいますからね」

「そういうことだ。動きが制限されている間に、一人でも多く削ってしまいたい」


 そう言ってシドは、仲間たちに次のバリケードまで下がる時の立ち回り方を仲間たちと共有していく。

 二名のエルフが次のバリケードを準備するために下がり、シドを真ん中に左右に四名の戦士が展開し、その後ろにサポートのエルフたちが待機する。


 全員が配置に付いたのを確認したシドは、バリケードに取り付いた獣人の戦士に目配せをすると、手に持ったハンドアックスを勢いよく振り下ろす。


「いくぞ!」


 その言葉と同時にバリケードが壊され、同時にゾンビたちが我先に飛び出してきた。

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