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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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真綿で首を締めるように

 浩一たちがハバル大臣と対峙している時、カナート王国内の地下遺跡もまた別勢力による侵攻を受けていた。


「次のバリケードの準備ができたぞ! お前たち下がるんだ!」


 シドが大声を張り上げながら身振りで指示を出すと、廃材を組み上げて造ったバリケードに取り付いていた獣人たちが一斉に背を向けて逃げ出し、遺跡の奥へと続く階段を降りていく。


 全員が無事に逃げたところで、シドはちらと振り返って向かってバリケードの僅かな隙間の先に見える者を睨む。


「あ、うあぁ……」


 うめき声を上げなが迫るのは、何かを求めるように両手を突き出して千鳥足で歩く獣人だったもの……ゾンビたちだった。



 第二防壁でハバル大臣の私兵による強襲を受け、フィーロと共にシドが地下遺跡へと戻るとそこには既にハバル大臣の私兵による襲撃が行われていた。


 森の集落から移住してきたエルフと、カナート王国から派遣された兵士たちが共闘してハバル大臣の私兵と対峙していた。


 新たな巫女となったショコラと、召喚魔法の使い手であるソラを狙って攻めて来たハバル大臣の私兵に対し、派遣されてきた獣人の戦士たちは指揮官がいないこともあって、かつての同胞に手を出すことに躊躇していた。


 エルフたちも獣人の戦士たちが積極的に動かないので、守りに徹することができなかったが、そこへフィーロと共に現れたシドが手近なハバル大臣の私兵を打ちのめしたところ、その者がゾンビ化したことで状況は一変する。


 倒したはずの兵士が起き上がったことへの混乱もさることながら、ゾンビ化した兵士に襲われた者がまたゾンビへとなり、別の者に襲いかかったのだ。

 ゾンビ化した兵士はいくら攻撃しても怯むことなく、手を切られても足を切られても倒れることなく標的へと襲いかかる。

 そこに敵味方の区別はなく、ゾンビとなった者は手当たり次第に近くの者を次々と襲っていった。


 ゾンビ相手に有効な手立てを見出せない中、フィーロがいち早く撤退の指示を出し、いざという時のために用意していたバリケードで奥へと続く階段を封鎖し、籠城することにしたのだった。




 無数のゾンビたちが押し寄せ、バリケードが今にも崩れそうな悲鳴を上げる中、


「シド様!」


 全員の避難が完了したのか、下からフィーロが切羽詰まった様子で叫ぶ。


「早く避難して下さい。残るはあなただけです」

「ああ、わかった」


 フィーロに返事をしながら、シドはちらと背後を見やる。


「……助けてやれなくて、悪いな」


 ゾンビ化した者の中にはカナート王国から派遣されてきた獣人の戦士もおり、不意を打たれたとはいえ、彼等を救えなかったことをシドは謝罪する。


「だけど、生き残った皆はあたしがキッチリ守ってやるから安心しな」


 決意の言葉を口にしながら、シドはバリケードに背を向けて自分も避難する。

 シドが背を向けると同時に限界が来たのか、バリケードが破砕音を響かせながら崩れる。


「シド様、早く!」

「わかってるって」


 必至の形相で急かすフィーロだったが、シドは反して慌てる素振りは見せない。

 その理由は、ゾンビは力は強いが動きは遅く、シドの能力ならまず攻撃を受ける心配はないからだった。


 それに、いざとなればどうとでも対応できる。


 そう思っていたが、


「おわっ!?」


 何者かに背中を強く押され、シドはバランスを崩して前に躓くように倒れそうになる。


「おわっ、とっとと……」


 足を素早く動かしてどうにか転ぶことを避けたシドは、背後を振り返って自分を攻撃しようとした者の正体を見極めようとする。

 だが、


「うがああああああああああああああぁぁぁ!!」

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!」


 振り返ると同時に眼前に現れたゾンビに、驚いたシドは堪らず可愛らしい悲鳴を上げる。

 それでも流石の身のこなしでゾンビと距離を取ったシドは、臨戦態勢を取るべく身構えようとする。


「す、少し驚いたけど、動きの遅いゾンビ如きに後れを取るあたしじゃ……」


 だが、距離を取ったシドへ、ゾンビはアスリートのようなフォームの走りで一気に距離を詰める。


「ちょ、ちょっ!?」


 ゾンビがそんなに早く動くなんて聞いていない。


 予想外の動きを見せるゾンビを前に、完全に虚を突かれたシドはあたふたするばかりで対応できないでいた。


 このままではシドまでゾンビ化してしまう。


 そう思われたその時、


「シドおねーちゃん!」


 小さな影が階下から飛び出して来て、腕の中に抱えたものを放つ。


「うどん、やっちゃえ!」

「ぷぅ!」


 可愛らしい声に「わかった」と応えながら飛び出したのは、トントバーニィのうどんだった。


 目にも止まらぬ速さで駆けたうどんは、首を拘束で振って耳の裏に隠された刃を閃かせる。

 すると、シドに襲いかかろうとしたゾンビの手足が一瞬で切り離され、バラバラと血を撒き散らしながら倒れる。


「うが……があああぁぁ!」

「ヒイィ……」


 手足を失ってもまだ戦意を失っていないのか、唸り声をあげるゾンビを見たシドは青い顔をして立ち上がると、一目散に逃げ出す。


「ミーファ、うどん!」


 途中、シドが助けてくれた名を呼びながら手を差し出すと、一人と一羽は差し出された手に掴まってその大きな胸の中に納まる。

 そのまま一気に安全地帯まで逃げ切ったシドは、ハラハラと様子を見守っていたフィーロに向かって叫ぶ。


「姫さん、やってくれ!」

「はい!」


 フィーロが頷いて仲間のエルフに向かって手を上げると、隅に積まれた廃材がひとりでに動いて侵入者を阻む壁となる。


 壁が三重になったところで、逃げ伸びた獣人の戦士たちが壁に取り付き、向こう側から押されても簡単には崩れないように支える。


「…………はぁ」


 それを見て一先ずの安心を確保できたと確認したシドは、大きく嘆息して胸の中の小さな助っ人たちに感謝する。


「ミーファにうどん、助かったよ。ありがとう」

「むふ~、うどんがシドおねーちゃんがあぶないっておしえてくれたんだよ」

「ぷぷぅ」

「そうか、よくやってくれたな」


 シドはうどんの耳の奥の刃に触れないように気を付けながら、フワフワの毛皮を優しく撫でる。


 背後ではゾンビたちがバリケードに取り付き、激しく叩く音が聞こえてくる。


 このまま何もしなければ、一時間も経たずにこのバリケードも破壊されてしまうだろうし、残されたバリケードの数もそこまで多くない。

 もし、最期のバリケードが壊されるまでに、何も有効的な対応策が思い付かなかったら?


「……コーイチ」


 早く……早くあたしたちを助けに来てくれ。


 砂漠で戦っているであろう家族に想いを馳せながら、シドは自分の腕の中にいるミーファたちを失わないようにきつく抱き締めた。

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