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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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ここに来た理由(わけ)

 まさかの再会に俺も砂の大地を駆け出して、抑えきれない気持ちをぶつけるように泰三と熱い抱擁を交わす。


「久しぶり……と言いたいところだけど、本当に泰三なのか?」

「本物ですよ。まさかこんなところで浩一君と会えるとは思いませんでした」

「それはこっちのセリフだよ」


 確認するようにもう一度泰三を抱き締めた俺は、少し距離を離して改めて親友を見やる。


 こうして直接会うのは半年ぶりだが、髪が伸びて雰囲気が随分と大人びたように見える。

 だが、この世界に来た初日にゴブリンに付けられた頬の傷痕は随分と消えたが僅かに残っており、この人物が俺の知る泰三と同一人物であると告げていた。


 それでも最初に見た時、すぐに泰三だと気付かなかったのにはある理由があった。


「……泰三、何だかお前、大きくなってないか?」

「ハハハ、流石にこの歳で身長は伸びないですよ」

「いや、身長じゃなくて……」


 そう言いながら俺は、泰三の変化に舌を巻く。


 何よりも一番の変化は、体を触った時の筋肉量だ。


 最初にぶつかった時の印象はまるで大木かと思うほどどっしりしており、単に筋肉を付けただけでなく、体幹もしっかり鍛えているようだ。


 手足も最後に別れた時よりも明らかに太く、胸板も鉄板の様に硬かった。

 ただ、鋼の様に硬い筋肉ではあるが、それはボディビルダーのように魅せるための筋肉ではなく、必要最低限、体を自在に動かすために付けられた筋肉であり、一言でいうなら……、


「立派な戦士の体付きになった……という意味で大きくなったってことだよ」


 何度も視線を上下させながら立派になった体を感嘆したように見ていると、泰三は照れたようにはにかむ。


「ありがとうございます。そういった意味では、浩一君も随分と変わりましたね」

「いやいや……」


 泰三は謙遜したように言うが、俺も日々強くなろうと研鑽しているからわかる。


 筋肉というのは一朝一夕で付くものではないし、苦労の末に筋肉と一緒に少し自信が付いたとしても、いざ実戦となると思った通りに結果が付いてこず、心が折れそうになることなど一度や二度じゃない。


 とにかく強くなるという行為は、筆舌に尽くしがたいほど地味で、苦痛が伴う行為の繰り返しなのだ。

 それでも強くなりたいと願うのは、俺も泰三もこの世界で守りたい人がいるからだ。


 この半年間、どうやって過ごしたのか、クラベリナさんとの関係はどうなったのか、聞きたいこと、積もる話は山とある。


 だが、今は思い出話に花を咲かせている場合ではない。


「……悪い、話したいこといっぱいあるんだけど、やらなきゃいけないことがあるんだ」

「わかってます。怪我人がいるんですよね?」


 どうやらある程度の事情は察しているのか、泰三は真面目な顔になって頷く。


「僕の連れが薬や包帯を持っていますから、きっとお役に立てると思います」

「助かる」


 また後で合流することを確認して、俺は生存者を探すために駆け出す。


「ん……連れ?」


 そういや泰三と一緒にいた人は誰だったのだろうか?


 クラベリナさんなら、泰三が投げた槍と一緒に飛び込んで来そうなものだし、あの人がリムニ様を置いてカナート王国まで来るとは考えられない。


 そもそも、泰三はどうしてカナート王国へ来たのだろうか?


 色々と気になることはあるが一先ず自分にできることをするため、俺は陽が傾き、やや涼しくなり始めた砂の大地を駆けた。



 ロキと一緒に必死に生存者を探したが、ハバル大臣に挑んだ者で生きていたのはたったの二人だった。


 殆どの獣人は即死、奇跡的に即死は免れても、程なくして出血多量による失血死をしたようだった。

 生き残った二人も一人は片足を失い、もう一人も両手首から先が無くなってしまっており、戦士としては二度と表舞台に立てないだろう。


 それでも生きてさえいれば、何かいいことがあるかもしれないし、新たな道を見つけ、それが生き甲斐になることだってある。


 だから生き残った二人には、死んでしまった仲間の分だけ幸せになってほしい……心からそう思った。



 そして、生き残った二人の治療には、ある人が請け負ってくれた。


 それは、


「……ふぅ、とりあえず私にできることは全部やったから」

「ありがとうございましす。レンリさん」

「フン、別にあんたのためにやったわけじゃないから」


 ツンデレのテンプレを口にしながら赤い顔を隠すように顔を背けるのは、かつてグランドの街で違法風俗店でナンバーワンの人気者だった猫人族(ねこびとぞく)の女性、レンリさんだった。


「それにしても……酷い有様ね」


 手に付いた血を拭いながらレンリさんは立ち上がると、顔をしかめて長い尻尾をゆらりと揺らす。

 レンリさんの視線の先には俺とロキ、そして泰三の協力で一か所に集められた獣人の戦士たちの死体が並べられていた。


「こんなに多くの人が死ぬなんて……この国、そんなにヤバイの」

「……はい、カナート王国は今、混沌なる者の勢力による攻勢を受けているんです」

「はぁ? あんた、どうしてそんな危ない場所に来てるのよ!」


 肩を落とす俺に、レンリさんは形のいい眉を吊り上げて怒り顔で詰め寄って来る。


「私が! どうして! わざわざこんな僻地まで! 来たと思っているの!」

「えっ?」


 そんなこと急に言われても、泰三が来ただけでも驚いているのに、レンリさんが来た理由なんて尚更わかるはずがない。


「はぁ……その顔を見る限り、本当にわかっていないようね」


 レンリさんは大袈裟に嘆息して、やれやれとかぶりを振る。


「私がここに来たのは、姉さんに会うためよ」

「姉さん?」

「本当に何にも覚えていないのね。コーイチが姉さんに……姉のネイに、私が生きていることを教えたんでしょ」

「ネイさん……って、ああっ!?」


 そう言われて俺は砂漠の国、エリモス王国でネイさんの生い立ちを聞いて、妹のレンリさんと母親が生きていることを伝えたことを思い出す。


 レンリさんが生きていることを知ったネイさんはグランドの街へ手紙を送り、手紙の返事が来たことのお礼として、俺たちの旅に同行を申し出たのだった。



「それで私はエリモス王国へ行くことになったんだけど、猫人族の女の一人旅は危険だということで、タイゾーに護衛に付いて来てもらったの」

「そう……だったんですね」

「そうだったんですね、じゃないわよ!」


 俺の物言いが気に食わないのか、レンリさんはさらに距離を詰めて息がかかる距離で捲し立てる。


「二か月以上もかけてようやくエリモス王国に辿り着いたと思ったら、姉さんはあんたたちと一緒にカナート王国へ行ったって言うし、ここまでの道中は魔物だらけだし……本当に大変だったんだからね!」

「す、すみません……」


 そういえばネイさんから、レンリさんがエリモス王国に向かっているという話を聞いたような気もするが、まさか俺たちを追いかけてカナート王国まで来るとは思っていなかった。


 そのお蔭で泰三に助けてもらえたのだから、ネイさんには感謝すべきだろう。


 密かにネイさんに感謝していると、


「それで?」

「はい?」

「姉さんは何処にいるの? いるんでしょ?」

「あっ、うん、ネイさんならソラやミーファたちと一緒に……」


 そこまで言ったところで、俺は途中で離脱したシドとフィーロ様たちのことを思い出す。


「大変だ。そういえば、ネイさんたちがいる集落にも危険が迫っているかもしれないんだ!」

「な、何ですって!? どうしてそんな大切なことを早く言わないのよ!」

「こ、こっちだって大変だったんですって!」


 魔物の大群、サンドウォームに魔物化したハバル大臣、そのどれか一つでも負けていたら、カナート王国とエルフの森は壊滅するかもしれないのだ。


「そんなことはどうでもいいのよ!」


 だが、そんな俺の苦労などお構いなしに、レンリさんは俺の腕を取って強く引っ張る。


「ほら、早く姉さんのところに案内しなさい。自由騎士が二人もいればどうにかなるでしょ」

「で、でも、死体の回収をしないと……」

「そんなの後でもいいでしょ。生きている者が何より大事なの、わかってるでしょ!」

「わ、わかりました」


 確かにレンリさんの言うことも一理あるので、申し訳ないが死体の回収は後で誰かに依頼しよう。

 俺は生き残った二人の戦士を運ぶ準備をしていた泰三とロキに急いで戻る旨を伝えると、重い身体に鞭打ってカナート王国へと戻っていった。



 この時、死体の回収をしなかったことで後で大変な目に遭うのだが、一刻も早くシドたちと合流しなければと思っていた俺は、そんなことなど露にも思わなかった。

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