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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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巨虫の崩壊

 渾身の力を籠めて振り下ろしたナイフが赤い球体へと触れると、予想通り甲高い音を響かせて弾かれそうになる。

 思った通り、バックスタブのスキル無しでは相手の防御を無視することはできないようだ。


 だが、この程度で諦められるほど俺の双肩にかけられた使命は軽くない。


「……こんのぉ!」


 赤い球体の弾こうとする力を、俺は全体重をかけてどうにか抗い続ける。


 もう一度振りかぶり、攻撃するチャンスなど来るかどうかわからない……いや、来ないだろう。


 だからここで何としても決め切る。

 そう硬く決意をしながら、俺は尚もナイフに体重をかけ続ける。


 師匠であるオヴェルク将軍から譲り受けたナイフは、言わずもがな最高級品と言っても差し支えない名品で、これまで幾度となく俺のピンチを救ってくれたし、刃も折れることは疎か刃こぼれも殆どしたことない。


 そんな命を預ける道具を、俺は教えてとは関係なく常に最高の状態を維持できるように、最近は刃のことなら一日の長があるうどんにも手伝ってもらい、手塩にかけて手入れしてきた。


 そんな命を預けるには十分過ぎるほどのナイフなら、こんなサンドウォームの尾なんかに負けるはずがない。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!」


 雄叫びを上げながら尚も力を籠めると、俺の意思が通じたかのように赤い球体の表面にヒビが入り、ナイフの先端が僅かに埋まり、中から赤い液体が出てくる。


 ここまで来れば、後もう一息だ。


 壁を突き抜けたからか、ナイフを押し込むと堤防が決壊するように刃が一気に埋まる。

 肉を切り裂くような何とも言えない感覚を無視しながら、調停者の瞳(ルーラーズアイ)で見えている赤い霧目掛けてナイフを突き出す。


「いっけええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇ!!」


 叫びながら突き出したナイフが赤い霧へと突き刺さると、ガラスが割れるような音が響く。


 調停者の瞳の見えないものに干渉する力が発動し、サンドウォームの魔力を奪うことができたのか、巨大な尾の動きがピタリと止まり、まるで燃え尽きたかのようにアイボリーの体が真っ白になっていく。


「や、やった……って、わぷっ!?」


 喜んだのも束の間、魔力が尽きてサンドウォームの崩壊が始まったのか、赤い球体が弾け飛び、中に入っていた血のような赤い液体を浴びながら俺の身体が宙に浮く。


「ちょ、ちょっと待って!」


 慌てて顔に付着した液体を拭いながら、どうにか着地できる場所はないかと首を巡らせる。

 だが、崩壊し始めたサンドウォームの体は灰のようにバラバラになって消えていくので、あの上に着地したところでクッションの役割を果たすかどうかも怪しい。


「こ、こうなったら……」


 覚悟を決めて砂の上に落ちるしかない……。


 受け身を取るにしても、どんな姿勢で落ちればダメージを最小限に止められるだろうか?


 震える手でナイフを腰のベルトに戻し、全身に脂汗を浮かべながらあれこれ頭を巡らせていると、


「わんわん!」


 俺のピンチを嗅ぎ付けたのか、サンドウォームの猛攻を凌ぎ切ったロキが「今、助ける」と言いながら砂煙を上げながら猛然と突っ込んでくる。


「ロキ!」


 頼もしい相棒の登場に、俺は目の前の視界が一気に開けたような気がして笑顔を零す。


 よかった……これで再びあの辛くて仕方ない、回復魔法のお世話になるような目に遭うのは避けられる。


 戦いの後が生々しいマグマの川が流れる砂漠を一気に駆け抜けたロキは、小高い丘を登り切ると、


「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォン!!」


 気合の雄叫びを上げながら、地面を思いっきり蹴って大きく跳ぶ。


「おおっ!?」


 ロキの膂力なら、落下する俺のことを空中で華麗にキャッチできる。



 ……そう思っていたが、


「わふっ?」


 足場が砂地で思ったより強く地を蹴ることができなかったからか、ロキの巨大な体が「あれっ?」という声と共に失速していく。

 必死に空中で足をバタバタさせるロキを見て、俺は顔から血の気が引くのを自覚する。


「ロ、ロキイイィィィ……」

「ク~ン……」


 まさかの展開に、俺たちの情けない声が重なる。

 互いに宙にいる身なので、もう成す術はなかった。



「キュイ!」


 絶望的な状況に「まだだよ!」という声が響き、地中からアイボリー色の影が飛び出してくる。


「キュイキュイ!」


 地中から飛び出してきた砂漠イルカは、ロキに向かって「ボクの背を使って」と叫ぶ。


「――っ、わふっ!」


 その一言で全てを察したロキは、飛び出してきた砂漠イルカはの背を蹴って、再び俺に向かって大きく跳ぶ。


「わんわん!」

「あ、ああ、わかった」


 ロキからの「掴まって」という声に我に返った俺は、巨大狼に向かって必死に手を伸ばす。


「くっ……このっ!」


 空中で泳ぐようにもがいて必死に手を伸ばし、どうにかロキの背中にしがみつくことに成功する。


「ああ、よかった。ロキ……もうこの手を離さないからな!」

「わふわふぅ」


 ロキの背中に頬擦りする俺に、ロキは「ずっと一緒だよ」と嬉しいことを言ってくれ、重力に引かれて地面へと落ちていった。




 ビルでいえば三階相当に匹敵するぐらいの高さからの落下であったが、ロキは全く苦にすることなく砂の大地に音もなく静かに着地してみせる。


 だが、


「おわっ!?」


 着地によって急になくなった慣性をもろに受けた俺は、ロキの背中から発射されるように前へと飛び出した俺は、クルッと一回転して背中から落ちる。


「ぶべっ!?」


 堪らず肺から空気を吐き出して息苦しさを感じるが、受けたダメージはそれだけ……あの高さからまともに落ちることに比べれば、信じられないくらいの軽傷で済んだ。


「キュイ?」

「わふっ?」

「うん、大丈夫だよ」


 倒れた俺に駆け寄って「大丈夫?」と声をかけて来たロキと砂漠イルカに返事を返しながら、俺はゆっくりを身を起こす。


「あっ……」


 身を起こした視界の先、砂漠の海にいくつも架けられたサンドウォームの胴体のアーチが、色を失ってボロボロと崩れていくのが見えた。

 一つのアーチが消滅すると、その次のアーチが消滅していく。


 どうやらサンドウォームは一気にではなく、尾から徐々に消滅していくようだった。


 ここからでは見えないが、数分も経たずして頭の先まで消えるのだろう。


「俺たち、あの巨大なサンドウォームを倒せたんだな」

「わん」

「キュイ」


 動物たちの同意を耳にしながら、俺は巨虫が消えて平穏を取り戻しつつある砂の海を眺め続けた。

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