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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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遥かな尾を目指して

 レオン王子たちが次々とクラスターランスを投げると、流砂の中でもがくサンドウォームの動きに変化が見られる。


 流れる砂に沈んでいったクラスターランスが体に刺さったのか、槍を避けるように長い身体の一部を砂の外へと出しはじめたのだ。


「よし、やはり奴の表面は柔らかいぞ。どんどん槍を投げ込め!」


 確かな手応えを感じたレオン王子は、追加で運ばれてきたクラスターランスを、サンドウォームの胴があると思われる場所にどんどん投げ込んでいく。


 クラスターランスをサンドウォームに直接当てるのではなく、周囲にばら撒いた理由は、奴の全身を地上に引き摺り出すためである。


 これまで好き勝手に暴れまわっているサンドウォームではあるが、実は全身を砂の上に……特に尾の方が出たことはまだない。


 その理由は、サンドウォームの尾には自身の身体を守るための魔法を制御するための器官があるからだ。


 以前にも言ったが、サンドウォームのような大き過ぎる生物は、普通の重力下では自身の身体を支えることができず、自分の重さに押し潰されて死んでしまう。


 そこでそんな無理な道理を覆すのが、魔法という神秘の力である。


 砂漠イルカのメロン器官がそうであるように、サンドウォームにも魔法を司る器官が備わっており、そこを削り取ることができれば、魔法が使えなくなった巨大な虫は自壊するという算段だ。


 レオン王子のお蔭で、サンドウォームの足が弱点であることがわかったことも大きく、このままいけば奴の全身が砂の上に姿を現すのも時間の問題だと思われた。



「よし、ここまでは作戦通り」


 暴れる所為で流砂により囚われるサンドウォームを見て、俺はここまで相棒に声をかける。


「流砂に入らないように注意しながら、俺たちも行こう」

「キュイ」


 俺の呼びかけに、砂漠イルカは「乗って」と言って横向きになってヒレで自分の脇腹をペシペシと叩く。


「ありがとう」


 疲れもあるはずなのに、まだまだやる気満々の砂漠イルカに礼を言いながら、俺はツルツルの背中に収まる。


「わんわん」


 するとそこへ、ここまでレオン王子たちを案内してくれたロキがやって来て「一緒に行く」と言って俺に体を擦りつけてくる。


「わふぅ……」

「うん、わかってる。もうあんな無茶はしないから」


 これから俺は、砂漠イルカの背に乗ってサンドウォームの尾にある魔法を使う器官を潰す役目を買っている。


 アラウンドサーチでサンドウォームの場所はわかっても、尾の位置はわからないので目視できるまで接敵できないのはレオン王子たちと変わらないが、砂漠イルカに乗って移動するという桁違いの機動力を持っている俺たちがその役目を負うのが一番成功確率が高い。


 そして、機動力という面ではロキも砂漠イルカに引けを取らないほど素晴らしいものを持っている。

 ロキの体重を感じさせない軽やかな身のこなしならば、流砂が治まってすぐの不安定な足場でも、足を取られることなく動けるだろう。


 それに、今のロキは放っておいても俺に付いてくるだろうし、突き放して危険を顧みない真似をされても困る。


 だったらここは、ロキの願いをきいてやるべきだろう。


 俺はすり寄って来るロキをどうにか引き剥がすと、彼女の目を見て真摯に話しかける。


「最初に言っておくけど危ない真似はなしだからね。最善を尽くして必ず一緒に帰ろう」

「わん!」


 嬉しそうに「一緒」と言って顔を舐めてくるロキをどうにか宥め、俺たちはサンドウォームの尾があると思われる方向へと移動を開始した。




 地面にどのように埋まっているのかわからないサンドウォームの尾の位置を、どうやって知るか?

 アラウンドサーチを使えば問題ないと思うかもしれないが、あのスキルはソナーと同じで相手の位置しか特定できないので、サンドウォームの全長は尾の長さまではわからない。


 ここでも役に立つのは砂漠イルカの超音波……エコーロケーションである。


 アラウンドサーチで大まかな位置しか探れない俺とは違い、砂漠イルカはエコーロケーションによってサンドウォームの全体像が見えているので、向かう先に巨大生物の尾があるのは間違いない。


 土の中でもサンドウォームの尾の位置がわかるのであれば、地中から攻撃を仕掛ければいいのではないかと思うかもしれないが、残念ながら土の壁を無視して物理攻撃を仕掛けられるような魔法はないようだ。


 ゼロ距離まで詰め寄ることができれば攻撃できるかもしれないが、それは現実的ではない。

 何故なら……、


「おわっと!?」


 いきなり砂漠イルカが大きく跳ねたので、俺は慌ててアイボリー色の背中にしがみつく。

 同時にすぐ横の地面が大きく抉れ、地中から四車線の道路が造れそうなほどの巨大な筒状の物体、サンドウォームの胴体が飛び出してくる。


 巨大なアーチを描くように付き出された胴は、打ち上げられたかのように地響きを上げながら地面に落ちると、うねうねと不気味に蠢く。


「あ、あっぶな……」


 サンドウォームからしてみれば少し身じろぎしただけなのかもしれない。

 だが、たったそれだけで命の危機に陥りそうになることに、押し込めようとしていた恐怖がジワリと胸の奥から湧き出してくる。


 さらに、


「キュイキュイ!」

「えっ、また?」


 次が来るという砂漠イルカの必死の叫びに、俺は伏せの姿勢をとって身構える。

 すると、俺のすぐ右手の地面が大きく隆起し、サンドウォームの胴が地響きを上げながら現れる。


「んげっ!?」


 しかも最悪なことに、出てきた胴は砂煙を上げながら必死に逃げる俺たちに向かって突撃してきたのだ。


 今のサンドウォームに、俺たちを見る余裕なんてあるはずもない。


 だからこれは完全にただの偶然、運が悪いだけの事故だ。


 ただ、そんなちょっとした不運で命を落としてしまうのが、この世界では当たり前のようにあるのだ。



「と、とりあえず地中へ!」


 果たしてどれだけ意味があるかわからないが、可能な限り回避行動を取ろうとすると、


「潜るな……そのまま進め」


 低いがよく通る渋い声が聞こえたかと思うと、金色の大きな影が現れてサンドウォームの胴へと突撃する。


 直後、サンドウォームの巨大な胴が、轟音を響かせながら大きく弾け飛んだ。

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