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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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イルカたちのエール

 砂漠イルカに誘われて潜った砂の中は、海の中と違って一寸先も見えない真っ暗の世界だった。


 砂は水ほど光が透過しないので当然といえば当然なのだが、せっかくのイルカに乗ってのクルージングという夢のようなシチュエーションだが、情緒なんてものは何一つなかった。



 とはいえ、こうして砂の中にいるのに目を開いて周囲を見渡し、普通に呼吸ができていることがいかに特異なことなのかは言うまでもない。


 それにこうして冷静にいられる理由の一つに、暗闇の中でも一緒に泳ぐ砂漠イルカたちの周囲だけがぼぅ、と淡く光っており、自分がこの暗闇の世界で一人だけではないとわかるからだ。


 ちなみにだが俺が乗っている砂漠イルカは勿論、何なら俺もうっすら光っている。


 おそらくこの淡く光っていることが、砂漠イルカによる魔法の効果が出ているということだろう。



「……そういや、もしここから落ちたらどうなるのだろう」


 何処までも下に落ちるということもないだろうから、所謂『砂の中にいる』状態になるのではないだろうか?

 その場合、身動き一つ取れず、呼吸もできずに死んでしまうから、間違ってもこの手を離すわけにはいかない。


「キュイキュイ」

「えっ魔法でくっついてるから落ちる心配はないって?」

「キュイッ」


 心配する俺に、砂漠イルカは「安心して」と歌うように言うと、泳ぎながらクルリとバレル・ロールしてみせる。


「お、おお、これは……」


 思わず落ちると思って身を固くする俺だったが、事前に聞いていた通り、俺の身体は砂漠イルカの背中にピタリとくっついて落ちることはない。


 華麗に一回転して元に戻った砂漠イルカは「ねっ?」と可愛らしく鳴いてみせる。


「ハ、ハハ……本当だ。これなら安心だね」

「キュイ~」


 俺が安心したことが背中から伝わったのか、砂漠イルカは「さあ、いこう」と嬉しそうに鳴く。


「キュイ~」

「キュイ、キュ~イ」

「キュッ、キュキュ~イ」


 すると、他の砂漠イルカたちが、陽気に歌うように鳴きながら集まって来て、俺たちを先頭に編隊を組み、イルカたちによる合唱が始まる。


 それは戦いの歌というよりも、聞けば勇気が持てるような応援ソングのようなもので、俺は砂漠イルカたちの気遣いに、胸の奥がジーンと熱くなるのを自覚する。


 これも全てアニマルテイムのお蔭だろうが、動物たちと好意的に触れ合うことができるこのスキルがあって本当に良かったと思う。



「…………」


 思わずちょっと泣きそうになったが、俺は集まった砂漠イルカたちに向かって声をかける。


「皆、ありがとう。何としてもサンドウォームを倒して皆でおいしいご飯を食べよう!」


 その言葉に、砂漠イルカたちの嬉しそうな鳴き声が揃ったのは言うまでもなかった。




 砂漠イルカたちのお蔭で暗闇の恐怖は消え去ったので、ここからいよいよサンドウォームを倒すための作戦へとシフトしていく。


 レオン王子たちやハバル大臣にも伝えた今回の作戦だが、実は発案は俺ではなくて、今こうして乗っている砂漠イルカだったりする。


「キュイ?」

「ううん、何でもないよ」


 俺の僅かな変化に気付いて「何?」と聞いてくる砂漠イルカに、笑いながらかぶりを振って安心させるようにそっと滑らかな背中を撫でる。


 作戦の発案者は砂漠イルカだが、おそらく彼は自分が何を言ったのかは覚えていないだろう。


 これはかつてエリモス王国で、うどんが俺にアドバイスをくれた時と同じで、自身の意思と関係なく、アニマルテイムのスキル保持者に有益な情報を与えるものだと思われる。

 動物たちに強制的に話させるのはどうかと思うが、本人たちに特に害はないようなので、頂いた情報は最大限に活かさせてもらおうと思う。


 まずはサンドウォームを、皆が待つ地上へと引っ張り出す。


 その為に鍵を握るのは、俺のアラウンドサーチだ。


「サンドウォームは……いた」

「キュイキュイ」


 一際大きな赤い光点を見つけた俺と触れ合うことで、アラウンドサーチの視界を共有している砂漠イルカも「いるね」と言いながら仲間たちに口頭でサンドウォームの居場所を伝える。


「キュイキュイ」

「キュイ~」


 指示を受けた砂漠イルカたちは「また後でね」と言いながら所定の場所に向けて移動を開始する。



 実は砂漠イルカたちには土の中にいるサンドウォームを探す術はあるのだが、それを使うと奴にこちらの居場所もバレてしまうので、今は仲間への伝達も含めて使用を控えてもらっている。


 てっきり地中でも好き勝手に移動していると思ったのだが、サンドウォームは先程いた場所から少し移動した土の中でジッとしている。


 あれだけ大きな体であることを考えれば、やはり燃費は相当悪いのだろう。


 できるなら奴が再起動する前にこちらの作戦を始めたいところだ。



「……と、その前に?」

「キュイ」


 俺が砂漠イルカの背中を軽く撫でると「わかった」と応えが返って来て、進路を上へと取る。

 そのままグングン上へと進み、砂漠イルカの「出るよ」という声が聞こえたかと思うと、目の前が急に真っ白になった。


「うっ……」


 思わず呻き声をあげてしまったが特に何かをされたというわけではなく、砂の中から地上へと出たのだ。

 あらかじめ半眼にしていたのでそこまで衝撃はないが、何も言わずに地上へと出たら失明する危険性もありそうだ。


 そんなことを思いながら、俺は目を瞑ったまま声をかける。


「ロキ、来てる?」

「わふ」


 すると、すぐ後ろからロキの「いるよ」という声が聞こえ、俺の身体がフサフサの毛に包まれ他かと思うと、顔を容赦なく舐められる。


「わぷっ……ロキ、ちゃんと俺の位置がわかっているんだな」

「わふわふぅ」


 ロキは「モチロン」と言いながら俺の顔を尚も舐めてくる。

 信じられない話だが、ロキは地中にいる俺の場所が匂いでわかるそうで、結構な距離をイルカたちと移動したが、迷うことなく付いてきたようだ。


「キュイキュイ」


 そこへさらに地中から別の砂漠イルカが現れ「準備できたよ」と声をかけてくる。


 これで作戦の第一段階へと移る準備は整った。


 アラウンドサーチを使って砂漠イルカたちの配置を確認した俺は、甘えてくるロキの顔をわしゃわしゃと撫でながら話す。


「よし、それじゃあ今からサンドウォームを地下から引っ張り出すから、ロキはあの場所をレオンたちに伝えて来てもらえるかい?」

「わん」


 俺が大まかな場所を伝えると、ロキは「任せて」と言ってレオン王子たちの下へと駆けていく。

 あっという間に小さくなっていく黒い影を見送った俺は、再び砂漠イルカの背中を撫でて再び地中へと戻る。



 そうして暫く潜ったところで、再びアラウンドサーチを使い、全員が所定の位置に付いているのを確認した俺は、砂漠イルカに向かって声をかける。


「よし、それじゃあ作戦開始だ」

「キュイ」


 砂漠イルカは「わかった」と言うと体を大きくのけ反らせると、


「キィエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェ!!」


 アラウンドサーチで見えた赤い光点へと向けて、咆哮を轟かせた。

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