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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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大き過ぎるが故に

 サンドウォームを倒す方法がある。


 砂漠イルカからもたらされたまさかの情報に、俺は情報共有のために無事に逃げ伸びたレオン王子たちと合流することにした。


「コーイチ!」


 獣人の戦士たちと無事に逃げ伸びていたレオン王子は、俺の顔を見るなり駆け寄って来て思いっきり抱き付いてくる。


「よかった。無事だったんだな……本当に、本当によかった……」

「うん、どうにか……ぐえぇ」


 涙を流してまで喜んでくれるのは嬉しいが、容赦なく締め付ける力が強過ぎて、意識を失いそうである。


 息も絶え絶えの俺は、震える手でどうにかレオン王子の背中をポンポンと叩きながら必死に訴える。


「レ、レオン……ぐるじぃ」

「あ、ああ、悪い。思わぬ形で親友を殺しちまうところだったぜ」


 全く笑えない冗談を言いながら、レオン王子は改めて俺を見る。


「本当にコーイチなんだよな? こんな言い方はなんだが、どうして生きているんだ?」

「それはね、この子が助けてくれたんだ」


 乱れた汗まみれの服を直しながら、俺は背後で控えているアイボリー色の砂漠イルカを紹介する。


「しかも助けてくれただけじゃなくて、この子がサンドウォームを倒す方法があるって言うんだ」

「な、何だって!?」


 その発言に、レオン王子は目を見開いて砂漠イルカへと詰め寄る。


「おい、あのバケモノを倒せるって本当なのか?」

「キュイッ!」


 大きなレオン王子に詰め寄られた砂漠イルカは、驚いて地面に潜ったかと思うと、俺の背後に隠れるように現れる。


「キュイ~」

「レオン、そんな大きな声を出しちゃダメだって。ビビっちゃってるだろ」

「あ、ああ、すまない……っていうかコーイチ、砂漠イルカを使役しているのか?」

「そんなたいしたものじゃないよ。俺とこの子は対等の関係だよ」

「キュ~イ」


 片膝を付いて手招きすると、砂漠イルカは嬉しそうに「わ~い」と鳴きながら俺の胸に飛び込んできて頬にキスしてくれる。


「……きゅ~ん」


 すると砂漠イルカとの様子を見て嫉妬したのか、ロキが切なそうに「混ぜて」と鳴いて頬擦りしてくる。


「ハハハ、くすぐったいよ……こら、そこはダメだって」


 俺は二匹の動物と戯れながら、驚いてこちらを見ているレオン王子たちに説明する。


「ご覧の通り、自由騎士のスキルで皆が仲良くしてくれるから、俺としてもそれに全力で応えたいんだ」

「そう……か…………そうか」


 動物と戯れる俺を見て何かに気付いたのか、レオン王子は静かに頷くと、砂漠イルカの前に両膝を付いて真摯な表情で語りかける。


「その……さっきは驚かせてすまなかった。だからどうか、俺たちにあのバケモノを倒す方法を教えてもらえないだろうか?」

「キュイ?」


 だが、俺やミーファと違い、レオン王子の言葉は砂漠イルカには届かないようなので、俺が補足説明をする。


「サンドウォームを倒す方法を教えてくれないかってさ。代わりに俺が説明していい?」

「キュイ」

「ありがとう」


 砂漠イルカから快く了承を貰った俺は、ツルツルの頭を軽く撫でながらレオン王子たちに向き直る。



「実は、サンドウォームは非常に脆い生き物なんだそうだ」

「脆い? あんなデカいのにか?」

「あんなにデカいから、だよ」


 砂漠イルカによると、サンドウォームは全身を常に魔法の力で覆っているのだという。


「その理由は意外かもしれないが、生きるためだそうだ」

「生きる……ため?」

「そう……実はサンドウォームは、大き過ぎるが故に自分を支えることができないんだ」


 この世界にも地球と同じように重力がある以上、それぞれの体重に応じて体に負担がかかるはずである。


 よく怪獣映画とかで出てくる怪獣は、自重に耐え切れずに潰れてしまうという話があるように、生物の体を構成する筋肉や骨には耐えられる限界がある。

 それ故、生物は体が大きくなる時は骨の中を空洞化させたり、必要以上に筋肉を付けないようにさせたりと、なるべく軽量化を目指して進化するという話を聞いたことがある。


 これまで戦ってきたボスモンスターたちは、大きいと言ってもおそらく体重は数百キロぐらいで、筋肉や骨を強化させれば耐えられる範囲であったと思う。


 だが、あのサンドウォームは、どう見ても生物が耐えられる質量を超えている。


 ハバル大臣の攻撃で易々と表面を切り裂けたことから、ひょっとしたら体表は柔らかいのかもしれないが、それでもあれだけの速度で動けるだけの筋肉があって無事なはずがない。


「つまりサンドウォームは、体全体を魔法で覆って自信の重みで潰れないようにしているそうなんだ」


 最初に地面から飛び出し、天を真っ直ぐ見て動きを止めたのも魔力の吸収を行う行動の一つで、サンドウォームは何かしら大きな動きをした後は、必ず魔力を充電するために動かないタイミングがあるそうだ。


「じゃ、じゃあ、次に奴が動きを止めた時を狙って……」

「ああ、皆で攻撃を仕掛け、奴の魔力補充を阻害できればそれだけで相当追い詰められるはずだ」

「よし、そうと決まれば……」


 レオン王子はパチン、と拳を手の平で叩いて獰猛に笑う。


「待ってろバケモノ、我が国を襲おうとしたその罪、万死に値するぜ」


 カッコイイ台詞を言ってレオン王子が砂漠の彼方を指差すと同時に、俺たちの周囲が激しく揺れ出す。



「ま、まさか……」

「奴が現れるぞ!」


 サンドウォームが現れる予兆の揺れに、俺たちは腰を落として警戒態勢を取る。


 どこだ……何処に現れる。


 首を巡らせて周囲を探っていると、俺の目の前の地面が大音響と共に爆ぜ、大量の砂が舞い上がる。


「……えっ?」

「はへっ?」


 間抜けな声をあげる俺たちのすぐ目の前に、今しがた姿を消していたサンドウォームの巨体が現れた。


「「ぎゃあああああああああああああ、出たあああああああああああああああああああぁぁぁ!!」」


 サンドウォームの不意打ちによる登場に、俺とレオン王子は恐怖で抱き合って揃いの悲鳴を上げる。


 いや、いざ戦う覚悟を決めたばかりだけど、いくらなんでもこれは不意打ち過ぎる。


 これでは砂漠イルカからせっかく教えられた作戦を使うまでもなく、また尻尾を撒いて逃げ出すしかない……と思われたが、


「……えっ?」


 次の瞬間、閃光が走ったかと思うとサンドウォームの巨体がぐらりと揺れる。



「――っ!?」


 そのまま人で言うなら仰向けに倒れるサンドウォームを尻目に、俺たちのすぐ近くに誰かが着地する。


 こんな芸当ができる人物は、現状では一人しかない。


「ハバル……おじさん」


 ゴクリと喉を鳴らして叔父の名前を告げるレオン王子を、ハバル大臣は長い金髪をなびかせながらチラリと振り返ると、


「…………無様だな」


 侮蔑するような視線を俺たちに向けながらポツリと呟いた。

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