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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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巨虫、暴れる時

 巨像へと挑んでいくアリを見て、俺は全身から血の気が引くのを自覚する。


「ちょまっ!?」


 無駄だとわかっていても、思わず手を伸ばしてしまうのは悲しい性だ。

 伸ばした俺の手が空しく何も掴む先で、ハバル大臣がサンドウォームへと襲いかかる。


 俺より遥かに大きいハバル大臣といっても精々二メートル強、優に数十メートルはあるサンドウォームに攻撃を仕掛けたところで暖簾に腕押し、糠に釘と思われた。


「ガアアアアアアアアァァァッ!!」


 サンドウォームに取り付いたハバル大臣は雄叫びを上げながら膨れたドラム缶のような胴体を駆け登っていくのだが、体に爪を突き立てているのか、小さな人影が駆け抜けた後には緑色の不気味な色の血が舞うのが見える。


「おおっ……」


 あれだけの巨体を誇るサンドウォームだから、表皮も柔らかいとは思えないのだが、俺の予想に反してハバル大臣は巨大な虫に明らかな傷を負わせていく。

 これはもしかして、このままハバル大臣に任せてしまえばあの巨大な虫を始末してくれるのではないだろうか?


「グルル……」


 そんな楽観視をする俺に、隣に座るロキが「マズイ……」と唸り声を上げる。


「おわっ!? ロ、ロキ?」

「うぅ……わんわん!」


 服を引っ張り「早く逃げよう」とロキが急かしてくるが、俺の目は巨大な虫へと吸い寄せられていた。


 ハバル大臣が傷付けた部分は全体の数パーセントに過ぎないが、それでも煩わしいと思ったのか、サンドウォームの巨体がぐらりと揺れるのが見えた。


「…………これはマズい」

「わんわん!」


 ロキからの「だから言ってるでしょ」という叱責を耳にしながら、俺たちはサンドウォームに背を向けて必死に駆け出す。


 もうレオン王子のことが心配だとか、そんなことは言ってられなかった。

 サンドウォームの質量がどれだけかはわからないが、あれだけの巨体が倒れたら、一体どれだけの衝撃波が生まれるだろうか?


 物理には全く詳しくないが、ただでは済まないことだけは何となくわかる。


 そうこうしている間に、サンドウォームの身体が徐々に速度を上げて地面に迫るのが見える。


「わんわん!」

「わ、わかった」


 ロキの「衝撃に備えて!」という声に従い、何が起きてもいいようにその場に頭を抱えて蹲る。

 同時に、サンドウォームの身体がとうとう地面へと触れたかと思うと、


「どおぅわ!?」


 地面がひっくり返ったかのような衝撃が生まれ、俺の身体が付き上げられて宙に浮く。



「あだっ!?」


 サンドウォームが地面へと倒れた衝撃だけで数十センチも浮いた俺は、驚きでまともに受け身も取れず無様に地面へと叩きつけられる。



 さらに、


「わっ、わわっ……どわっ!?」


 立て続けに二度、三度と地面が大きく揺れ、その度に俺の身体は成す術なくひっくり返されられる。

 中華鍋にあおられるチャーハンはきっとこんな気分なのだろうか、などと阿呆なことを思いながら、俺はどうにか態勢を立て直そうとする。


「おっ! がっ! どっ! まっ……」


 激しく砂が舞って視界は殆ど利かないが、それでも砂煙の向こう側で地面に倒れたサンドウォームが激しくのたうち回っているのが見え、その度に地面が激しく脈打つので、体勢を立て直すどころじゃない。



 その後も何度も灼熱の大地に叩きつけられ、ようやく治まる頃には既に満身創痍だった。


「うぁ……あ、あぐっ……」


 身体に積もった砂を払いのけながら、それでもどうにか生きていることを確認した俺はどうにか身を起こす。


「くっ……ペッペッ!」


 口を開けた途端に入り込んで来た砂を吐き出し、布で口を覆った俺は近くにいるはずの相棒へと声をかける。


「ロ、ロキ……大丈夫か?」

「く~ん」


 俺の匂いを辿って来たのか、疲れた様子のロキが現れて「凄く疲れた」と力なく答えて俺に体を擦りつけてくる。


「きゅん、きゅ~ん」

「災難だったな……ああ、こんなに毛並みが乱れて」


 何度も地面に叩きつけられた影響か、ロキの黒い毛がボサボサになっていたので、俺は手で撫でながら直してやる。

 矢の雨を受けてもビクともしなかったロキの毛に、ここまでの被害を出すというだけで、先程の攻撃がとんでもないことかを物語っていた。


 どうにかロキの毛並みを整えていると、ようやく砂煙も一段落して視界が晴れてくる。


 そこれ俺は、首を巡らせてあるものがなくなっていることに気付く。


「……サンドウォームは?」

「わんわん」

「えっ、地面に潜っていったって?」

「わふっ」


 ロキは「そう」と答えると、サンドウォームが残したであろう巨大なクレーターを見て小さく唸る。


「がるるる……」

「そうか、今はちょっと姿を消しただけで、また姿を現すのだな」


 ということは、今感じている揺れはサンドウォームが地面を移動していることで起きている余震ということだろう。


 次に奴が現れるのは何処かは不明だが、このチャンスを逃すわけにはいかない。


「今すぐレオン王子たちと合流して、ターロンさんたちがいる第一防壁まで逃げよう」

「わふっ」


 ロキからの「異議なし」の声を聞いて、俺は一先ず第一防壁の方へを目を向ける。



 その瞬間、


「わわっ!?」

「わふっ!?」


 再び地面が大きく揺れ出したかと思うと、視線の先にサンドウォームが勢いよく地面から飛び出し、第一防壁が跡形もなく吹き飛ぶのが見えた。

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