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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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老獪な助言

「そんな……馬鹿な……」


 俺は目の前の光景に、ただただ呆気に取られていた。


 混沌なる者の勢力と手を組んだハバル大臣は、俺たちを背後から強襲してくる敵性存在だと思っていた。

 だが、その本当の目的はペンターは曰く、カナート王国を守るための力を手に入れるためだという。


 にわかには信じられない言葉であったが、目の前の光景がペンターの言葉が事実であると告げていた。


「言った通りであろう?」


 唖然と立ち尽くす俺に、ペンターが楽しそうに話す。


「あの男は実に優秀な男だ。これも王家の血筋というやつかのう。ほれ、見てみぃ」

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!」


 ペンターが指差す先には、獣のような雄叫びを上げ、迫りくる魔物たちを圧倒していくハバル大臣がいた。

 本来なら一人で相手にするのは難しいリザードマンの上位種、リザードマンジェネラルでさえも、ペンターによって力が底上げされたハバル大臣の前では赤子の手をひねるようにあっさりと始末されていた。


「お、叔父さん……」


 突然現れ、いきなり一騎当千の活躍を見せて魔物を屠ったハバル大臣を見て、レオン王子が警戒するように身構える。

 レオン王子からしてみれば、自分はハバル大臣を裏切ったも同然なので、有無を言わさず襲われる可能性は十分にあった。


「レオン王子」

「おさがり下さい」


 すると、レオン王子を守るようにターロンさんの部下たちが彼の周りに集まり、武器を構えてハバル大臣を牽制する。


 大勢に囲まれるレオン王子を、ハバル大臣は一瞥したかと思うと、


「…………」


 何も言わず、背を向けて次の魔物の群れへと突撃していった。



「……はぁ」


 レオン王子が無事だったことに、俺は一先ず安堵の溜息を吐く。

 やはりペンターの言葉通り、ハバル大臣は一先ずカナート王国を守ることを優先しているということだろうか?


 レオン王子も同じように考えたのか、魔物の討伐を優先するため、ハバル大臣に続けと仲間たちに声をかけて突撃していった。

 流石にすぐ近くで戦うことはないようだが、それでも部隊が二倍になったのも同然なので、魔物たちが物凄いスピードで減っていく。


 まさか、このままハバル大臣一人で、魔物の群れを押し切ってしまうのだろうか?


 次の魔物もリザードマンを中心とした混成部隊のようだが、ここから見る限りリザードマンジェネラルを超える強さの魔物たちはいない。

 それはつまり、このまま魔物の大部分をハバル大臣に任せてしまえば、それだけで勝てるかもしれなかった。



「いや……」


 思わず浮かんだ甘い考えを、俺はかぶりを強く振ってすぐさま否定する。


 経緯はどうあれ、ハバル大臣はペンターの手先となっているのだ。

 ここで甘い考えを抱いていると、後で確実に痛い目に遭うに決まっている。


 ペンターがこうして俺に話しかけてきたのも、きっとただの時間稼ぎではなく、何かよからぬことを画策していると考えるべきだ。



 そうと決まれば、今すぐ前線へと行くべきである。


「ほっほっほっ、行くのかえ?」


 黙って背を向ける俺に、ペンターから声がかかる。


「のう、自由騎士よ。知っておるか?」

「……何をだ」


 無視してしまえばいい、そう思ったが、何故か不思議と耳に入って来るペンターの言葉に、俺は思わず立ち止まって振り返る。


「くだらない話だったら、聞いてやる暇はないぞ」

「いやいや、とても重要な話じゃよ……特に、今のお主にはな」


 ペンターは唇の端を吊り上げ、皺だらけの顔をさらに深くして薄気味悪い笑みを浮かべる。


「まあ、聞きたくないのならそれまでじゃ、何処へなりとも行くがいい……ただ、後で悔いても知らぬぞ?」

「クッ……」


 クツクツと不気味に笑うペンターの声を聞いて、俺は前へ進めなくなってしまう。


 ペンターにしろスールにしろ、どうしてかこの手の敵が明かす手の内はかなり重要な情報だったりすることがあるので、聞かないで後悔するのは避けたいところだ。

 僅かな逡巡の後、俺は絞り出すようにペンターに話しかける。


「……話せ、今すぐにだ」

「ほっほっ、素直なことはいいことじゃ。心して聞くがいい」


 もう立ち去るつもりなのか、ペンターの体が薄くなっていく。


「魔物はのう……同族を喰らうことで強くなるのじゃ」

「……知ってるよ」


 たっぷり溜めを作って明かされた情報を聞いた俺は、落胆の色を隠せなかった。

 魔物たちが同族を食べることで上位の存在へと生まれ変わることは、一年以上前に、リザードマンとの戦いの中で知った情報だ。


 どうして今さらそんな情報をペンターが話したと聞かれれば、俺に対する嫌がらせ以外の何物でもないだろう。


「どうしてこんな嫌がらせをするのかと思っている顔じゃな」


 もう向こう側が見えているほど透けているのに、ペンターは俺の表情を見透かしたように話す。


「もちろん、お主がそのことを知っているのは承知に上じゃよ」

「じゃあ、どうして俺にそんな話をしたんだ!」

「わからぬか?」


 最後に目玉だけが宙に浮くという見るだけでおぞましい状況の中、ペンターが最後にある事実を告げる。


「魔物とは何も獣だけがなるわけではない。お主たちヒトも条件さえ整えば……混沌なる者へ魂を捧げれば簡単に魔物になるのじゃよ」

「――っ!?」


 その言葉に、俺は背中に嫌な汗が吹き出すのを自覚する。


「ほっほっほっ、実にいい顔じゃ。精々抗ってみせよ」


 慌てて第一防壁から降りていく俺の背に、いなくなったはずのペンターの不気味な笑い声がいつまでも響いているような気がした。

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