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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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甘言?助言?

「えっ?」

「何だと!?」


 思っていたのと逆側に轟音と共に現れた人影を見て、俺とターロンさんは揃って驚きの声を上げる。


 大量の土砂も一緒に舞い上がっているのでハッキリと見えているわけではないが、遠目でもわかる巨躯に長いたてがみ、あれがレオン王子でないとすれば、当てはまる人物はハバ

ル大臣しかない。


「クソッ、何も見えねえぞ! 各自、背中合わせになって互いをフォローしろ!」


 そして前方からレオン王子の悪態と指示が聞こえて来たことから、上空の人影はハバル大臣ということになる。

 てっきり地中から強襲をしてくると思っていただけに、ハバル大臣が最前線に飛び出したことは全くの予想外である。


「で、でも、どうして?」


 人の脚力で地中から飛び出したとは思えない、長い長い滞空時間で宙にいるハバル大臣を俺は呆然と見つめる。


 ハバル大臣の人となりは全くわからないが、てっきり第二防壁で死んだ部下たちの敵討ちのために現れたと思っていた。

 だが、憎むべきであろう俺たちを無視して最前線に現れたということは、もしかして別の目的があったりするのだろうか?


「もしかしてハバル大臣の狙いはレオン王子なのか……」

「えっ!?」


 ターロンさんの何気ない呟きに、俺は電撃を受けたかのように彼の方へ振り向く。


 思えばレオン王子は、元々はハバル大臣側の人間だった。

 ただ、それはあくまでカナート王国内での地位を確立するための存在であると思われた。


 だが、実は俺たちが知らないだけで、レオン王子には何か狙われる理由があるのだろうか?


 真偽を確かめる術はないが、今すぐにでも行動を起こすべきだ。

 そう判断した俺は、素早く手持ちの装備を確認してターロンさんに向かって叫ぶ。


「ターロンさん、俺、行きます!」

「あ、ああ、任せた!」


 とりあえず何ができるかわからないが、カナート王国のためにもレオン王子を失うことは避けなければならない。

 そう思いながら俺は、防壁の上から降りる階段に向かうために振り返る。



 すると、


「ほっほっほっ、そんなに急がなくてもいいのではないかな?」

「おわっ!?」


 振り返ったすぐ眼前に、肩を揺らして笑う皺だらけの老人の顔が見え、俺は驚きながら後ろへと大きく飛び退く。


「――っ、お前はっ!」


 飛び退きながらも声をかけて来た人物の正体に気付いた俺は、反射的に腰のナイフを引き抜き、老人に向かって投擲する。


 咄嗟のことではあったが、何千、何万回と繰り返し練習してきたナイフの投擲、しかも一メートルも離れていない距離では外すことなんてありえない。

 今回投げたナイフも狙い通り老人目掛けて吸い込まれていき、皺だらけの額を貫くと思われた。


 だが、俺が投げたナイフは老人の額を捉えることなく、そのまま奴の体をすり抜けて後方へと飛んでいく。


「なっ!?」

「ほっほっほっ、物騒な奴じゃな」


 殺されかけたにも拘わらず、老人は笑みを浮かべながら拍手をしてみせる。


「久しぶりじゃな、自由騎士よ。どうやら躊躇なく人を殺せる程度には成長できたようじゃな」

捏血(ていけつ)の……ペンター……」

「いかにも、名前を覚えていてくれて光栄だよ自由騎士コーイチ」

「忘れられるはずないだろう……」


 嬉しそうなペンターとは対照的に、俺は今にも飛び出しそうになる怒りを抑えることで精一杯だった。


 こいつは俺の大切な親友、雄二が死ぬ原因を作った存在で、混沌なる者の眷属……絶対にわかり合えない敵だ。

 だから突然現れた老人がペンターだとわかった瞬間、俺は迷いなくこいつを殺すために動いた。


 だが俺が投げた必殺のナイフは、、どういうわけか奴の体に当たることなくすり抜けてしまった。


 それはつまり、俺がこうして見ているペンターはホログラムのような魔法か何で、姿こそ見えているが本体は別の場所にいるというやつだろう。

 もしここにいるペンターが幻であるなら、奴から攻撃を仕掛けてくることもないだろう。

 それに、こうして話しかけてきたということは、俺に用があるということだ。


「ほっほっほっ、流石は自由騎士じゃな。ワシを攻撃しても無駄だと瞬時に理解したか」


 俺が攻撃する意思を放棄したと見たペンターは、肩を揺らして嬉しそうに笑う。


「お察しの通り、今のワシは魔法で姿だけを飛ばしておる。この場はワシから攻撃を仕掛けることもないから安心せい」

「……じゃあ、何をしに来た」

「何、ワシの使徒の様子を見に来ただけじゃよ」

「使徒……ハバル大臣のことか」


 ということはやはり、ハバル大臣の謎の行動の裏にはペンターが一枚噛んでいたということだ。


「……いつだ」

「ん?」

「いつからハバル大臣を裏から操っていた」

「ほっほっ、裏で操るなんてとんでもない。あやつは自ら進んでワシに協力を申し出たのだ」


 ゾッとするような笑みを浮かべるペンターに思わず一歩後退りしてしまったが、腹に力を籠めて勇気を出して言い返す。


「う、嘘を吐くな。少なくともカナート王国の王族が、混沌なる者の眷属のお前の甘言に乗るはずないだろう」

「甘いのう……王族だからじゃよ」

「何?」

「あのハバルという男は、質実剛健を体現したような愚直な男じゃった。だからこそワシの提案を受け入れたのじゃ」

「……言っている意味がわからない」


 もしハバル大臣がペンターの言う通り、質実剛健を体現したような愚直な男であるなら、この世界に住む者たちの共通の敵である混沌なる者の勢力の言うことを聞くはずがない。


 特にこのペンターは人を欺き、騙し、都合のいい道具に作り変えることを平気でするようなマッドサイエンティストだ。

 どんな理由があろうとも、こいつの甘言にだけはそそのかされてはならない。


「ほっほっ、若いのぅ」


 俺の不服そうな顔が面白かったのか、ペンターは肩を揺らして笑いながらハバル大臣を指差す。


「あの男は獣人の国の発展のため、この国の破滅を免れるためにワシの手を取ったのじゃよ」

「だからそれの……」

「ほれ、見てみい」


 俺の声を遮って、ペンターが前方を今にも折れてしまいそうな細い指で差す。


「あの男はワシが与えてやった力を使って、この国を守ろうとしているではないか」

「……えっ?」


 その言葉にまさかと思いながらもペンターが指差す先を見やると、魔物の軍勢相手に孤軍奮闘するハバル大臣の姿が見えた。

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