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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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消える大臣

「ハバル大臣だって?」


 思いもよらない名前を聞いた俺は、確認のためにターロンさんに質問する。


「ターロンさん、今ハバル大臣って声が聞こえたんですけど……」

「コーイチか、あ、ああ……俺もまさかとは思ったけど間違いない」


 俺と違ってターロンさんにはハッキリと姿が見えているのか、彼方を恨みの籠った目で睨み付ける。


「あの髪、あの顔……間違いない。あれは間違いなくハバル大臣だ」

「そうですか……でも、どうして今、このタイミングでここに?」

「わからない。それに、あそこに現れるまで誰も気づかなかったのも気になる。

「……ですよね」


 隠れる場所が殆どない砂漠では、誰にも気付かれずに移動するのは至難の業だ。

 第二防壁への背後からの奇襲があったので、俺が独自でアラウンドサーチを使う以外にも、城壁の上にいる兵士たちも背後には気を配っていたはずだ。


 だからターロンさんたちの驚きも理解できるし、何よりあれだけカナート王国が総力を上げて探しても見つからなかったハバル大臣が、こうして矢面に現れたことが不気味でしょうがない。


 俺の視力ではハッキリとは見えないが、ハバル大臣は両手をだらりと下げ、前傾姿勢で呆然と立ち尽くしたまま動く気配は見えない。


 その様子は見るからに不気味で、何かをしてくるというより……、


「あの人……生きているのでしょうか?」

「どういうことだ?」


 思わず漏れた呟きに、ターロンさんが怪訝そうな顔になる。


「コーイチ、何か知ってるのか?」

「そういえば報告し忘れたのですが、実は第二防壁で……」


 俺はターロンさんに、第二防壁の上で見たことを話す。

 兵士たちが自爆して大爆発が起きたことへの衝撃が大き過ぎて忘れていたが、その前に彼等は自死したかと思うと、ゾンビ化して蘇ったのだった。



「全く同じというわけではありませんが、俺はゾンビを使ってくる敵と過去に二度ほど戦ったことがあります」

「混沌なる者の勢力……だな」

「はい、名を捏血(ていけつ)のペンター……俺にとっても因縁のある相手です」

「そう……か」


 ターロンさんは俺を慰めるように肩をポンポン、と軽く叩くと厚い胸板を叩いてニコリと笑う。


「だったらその因縁、ここで断ち切ってやろうぜ」

「ターロンさん……」

「俺たちにとっても……といより、この世界に住む者は大なり小なり混沌なる者には因縁がある」


 その言葉に、ターロンさんの周りにいる兵士たちが頷くのが見える。


「というわけだ。俺たちも全力で手伝うから、コーイチも俺たちを遠慮なく頼ってくれ」

「はい、お願いします」


 今の俺には、グランドの街やルストの街の時とは比べられないほどの多くの仲間がいる。

 混沌なる者の勢力もそれなりの準備をしてきているだろうが、俺も以前よりそれなりに強くなったし、新しいスキルも習得した。


 だから突如現れたハバル大臣が何をしようとも、そう簡単にやられるつもりはなかった。


 そう思っていると、


「あっ、ハバル大臣が……」

「「――っ!?」」


 見張りの兵士の切羽詰まった声が聞こえ、俺とターロンさんは我に返って第一防壁の縁へと飛び付く。



「…………うん?」


 そうして俺が見たものは、何か異変が起きたハバル大臣……ではなく、何もないただの砂漠だった。


「おいっ、何があったんだ?」


 ターロンさんもハバル大臣を見失ったのか、大声で見張りの兵士に問いかける。


「ハバル大臣に何かあったんじゃないのか?」

「そ、それが、ハバル大臣が動いたと思ったら、そのまま地面の中に吸い込まれて消えてしまったんです」

「何だと!? 探せ! きっとまだ近くにいるはずだ」


 ターロンさんの言葉に従い、第一防壁の上に残っている兵士たちは血眼になって消えてしまったハバル大臣を探す。

 といっても、砂の下に埋もれてしまったのであれば、目視だけで探すのは相当難しいだろう。


「……すぅ……はぁ……」


 このままでは埒が明かないと思った俺は、大きく深呼吸を一つして目を閉じてアラウンドサーチを発動させる。


 果たして第一防壁の上から地中に逃げたハバル大臣を索敵できるかどうかは不明だが、それでも下に降りる時間も惜しいので、できるだけ地中に集中していく。

 アリの子一匹逃さないつもりで広がっていく索敵の波に集中していると、砂漠の中央に高速で移動する赤い光点があるのに気付く。


「地中だ! すごい勢いで移動しています!」


 目を開けてアラウンドサーチを解除した俺は、最後に赤い光点が見えた場所を指差す。


「あの辺にいました。こっちに向かって真っ直ぐ前進しています」

「本当か!?」


 ターロンさんが驚くのも無理はない。

 アラウンドサーチ越しの時は見えていた赤い光点だが、こうして肉眼で見てみると何かが移動しているようなそれらしい影すら見えない。


 一体、どうやってハバル大臣が高速で地中を移動しているのかはわからないが、それでもこの状況は歓迎すべきではない。


「ターロンさん、このままでは十秒もしないうちにここまでハバル大臣がやって来ます!」

「そ、そうだな。全員、迎撃態勢を取れ!」


 その言葉に、獣人の戦士たちが自分の武器を構える。


「それと、前線に支援している者はそのまま支援を続けろ。ハバル大臣も気になるが、あくまでメインは魔物の掃討であることを忘れるな!」


 未知のハバル大臣に対して警戒するだけでなく、レオン王子が奮闘している前のことも忘れないのも流石だと思った。



 そうして俺たちは地中を移動するハバル大臣が仕掛けてくるのを待つ。


「…………」


 だが、予想では俺たちの真下までやって来るタイミングになっても、ハバル大臣は姿を現さない。

 もう一度アラウンドサーチを使って索敵するのが正しいのかもしれないが、俺が目を閉じた瞬間を狙って、今俺が立つ地面の下からハバル大臣が現れたら何も対処できずに殺される恐れもあるので、下手に動くことはできない。


 こんなことならロキを連れて来るべきだったと思うが、彼女は既にレオン王子たちを助けるために前線へと飛び出してしまっている。



「…………」


 そこからさらに数十秒待っても、ハバル大臣が現れる様子はない。


 もういい加減、アラウンドサーチを使って索敵するべきか?

 そう思っていると、


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!」


 前線の方から誰かの唸り声と共に爆発音が聞こえ、俺は思わずそちらへと目を向ける。


「……あっ」


 思わず声が漏れた俺の目に、砂塵と共に天高く舞い上がった一人の獣人の姿が見えた。

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