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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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穏便に済ませたかったのに

 第二防壁の上にいた獣人は全部で二十人程度だったが、爆竹で耳をやられ、さらに目潰し攻撃を受けて目だけでなく鼻も潰されていたので、それぐらいの人数はものの数ではなかった。


 シドと協力して全員を拘束した俺たちは、彼等を一か所にまとめて話を聞くことにした。


 今回の襲撃でエルフからは二名の死者が出てしまっている。

 不老長寿のエルフでも、死ぬ時はあっさり死んでしまうのである。


 一応、フィーロ様とエルフの人たちに獣人たちの処遇をどうするか聞いてみたが、俺たちに一存してくれると言ってくれた。


 てっきり腸が煮えくり返るくらい怒っているのかと思われたが、仲間が殺されたにも拘らず、エルフたちはあるがままを受け止めるといった様子で、殺された仲間の敵討ちをしようとかそういう考えはないようだった


 寿命で死ぬという概念がないからなのか、俺たちとエルフたちとの間では死に対する考えが根本的に違うようだった。


 ただ、そのお蔭でここで無駄に揉めることなく、獣人たちの尋問が行えるのだ。



「さて……」


 俺は敵意向き出してこちらを睨んでいる獣人たちを睥睨すると、近くの犬人族(いぬびとぞく)の男性に話しかける。


「まずはあなたたちの所属を教えてもらえますか?」

「ああん、誰がお前みたいな人間の言うことを聞くか」


 案の定だが、話しかけた犬人族の男性からは色よい返事は返って来ない。


「我々より劣っている人間と話すだけでも虫唾が走るのに、しかもエルフと繋がっている軟弱者に聞く口など持ってはおらぬわ!」

「そうだ、我等は誇り高き獣人の戦士、虜囚になるくらいならいっそ……もごもご」


 いきなり舌を噛み切って自殺しようとする一人を、シドが口に布を詰めて黙らせる。


「ついでにお前……そっちのお前も余計な事すんな!」


 さらに、拘束されたまま暴れ出しそうな獣人たちを二人ほど乱暴に殴り倒して意識を奪ったシドは、呆れたように俺を見る。


「コーイチ、今の態度からわかると思うけど、こいつ等ターロンの部下じゃないぞ」

「みたいだね」


 ターロンさんの部隊の人なら、少なくとも俺が自由騎士であることを知っているし、何より自身の命を軽んじるような真似をするはずがない。


 彼等は、戦闘中の一人の死が部隊全体に及ぼす影響を痛感しているので、何よりもまず己の命、次に仲間の命を優先して行動するようにターロンさんから厳命されている。

 その一体感は家族の絆のように強く、そんな彼等が隊長の命令を破ってエルフたちに襲いかかるような真似はしないだろう。


「そうか……」


 エルフたちの襲撃、それで俺は何となく彼等の正体がわかったような気がする。


 俺は最初に声をかけた犬人族の男性に目を向けると、静かに声をかける。


「あなたたちは、ハバル大臣の部隊ですね」

「…………」


 俺からの質問に、犬人族の男性は何も言わずに目を逸らす。


 その反応を見れば、これ以上の追及はしなくとも答えは出ているも同然だった。


 しかし……今まで全く姿を見せてこなかったハバル大臣の名前が、ここに来て出てくる思わなかった。

 流石にこの場にハバル大臣がいる様子はないが、それでもその影がチラつくだけで俺たちはかなり動き辛くなる。


 ハバル大臣といえば、エルフの森を制圧して獣人の国を広げようという強硬派なだけでなく、おそらく混沌なる者たちと繋がっており、召喚魔法の素質があるソラのことを狙っていると思われる。


 ハバル大臣の勢力が、ここにいる全員だとは思えない。

 だとすれば連中が次に狙うのは、地下にいるソラたちに違いない。


「シド、ソラたちが……」

「ああ、あたしも同じことを考えていた」


 ソラたちがいる地下には、エルフの人たちが移住してきているので、俺たちが最初に来た時より戦力は充実しているが、それでも充分とは言えない。

 だからここは一刻も早く地下に戻ってソラたちの無事を確認すべきだろう。


 素早く俺と目を合わせて頷き合ったシドは、拘束した獣人たちが抵抗しないことを確認すると、フィーロ様に大声で話しかける。


「姫様、あんたたちには悪いが、ここはあたしたちの都合を優先させてもらうぞ」

「は、はい、この方たちは?」

「ターロンに任せる。一先ず先に奴に話をつけに行くから、姫様も一緒に来てくれるか?」

「わ、わかりました」


 シドが一緒なら問題ないのか、フィーロ様は頷いて前へと出てくる。

 フィーロ様のワープの魔法があれば移動時間はないに等しいから、この場はシドたちに任せていいだろう。


 そう考えた俺は、シドにやるべきことを伝える。


「シド、俺はロキと一緒に先に地下に戻ってるよ」

「ああ、任せた」


 互いにやるべきことを決めた俺たちは、早速行動に移ることにする。



 すると、


「…………うっ」


 獣人たちの方からくぐもった声が聞こえ、俺は思わずそちらへと目を向ける。

 そこには、犬人族の男性が蹲って小さく震えているのが見えた。


「な、何を……」


 その姿に見覚えがあった俺は、嫌な予感がして彼等に駆け寄ろうとする。


「ぐっ、がぁ、がああああああああああああああああああああああぁぁぁ!」


 だが、その前に犬人族の男性が口から大量の血を吐いて、そのままぐったりと動かなくなる。


「まさか、口内に仕込んだ毒が?」


 獣人の戦士たちの武装は解除したが、口の中の毒の有無までは調べていなかったことを俺は悔いる。

 余計な争いを……無意味な死者を出すことを避けたかったのに、これでは彼等を拘束した意味がなくなってしまう。


「うごおおおぉぉ……」

「がっ、がはっ!?」

「ハ、ハバル大臣に……栄光あれえええええええええええええええぇぇぇ!」


 さらに最悪なことに、犬人族の男性の続き、他の獣人の戦士たちも含んでいた毒を嚥下したのか、次々と血を吐いて倒れていった。

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